42:西の森-6
久しぶりの西の森です。
翌日。薬草酒や祝福酒をいくつか作ってポーチに入れた俺はポータルを使って始まりの村に移動し、その足で西の森に移動した。
久しぶりの西の森は以前訪れた時と同じくウォークアップルやイトキャタピラァが歩き回り、以前と違って攻略組も含めた多くのプレイヤーが訪れる場所となっていた。
「で、なんでお前も居るんだ?」
「一人よりは二人の方が探しやすいかと思いまして。」
そして何故か俺の隣には俺と同じで基本的にソロで活動しているミカヅキが居る。
まあ、ミカヅキの言葉は正論ではあるけどな。
「まあいいけどな。ちなみにミカヅキにはボスゲートの心当たりとかはあるのか?」
「ありませんね。二日ほど彷徨っていたこともありますが、南の草原の様な岩は見た覚えがありません。」
ふむ。ミカヅキも心当たり無しか。
ただ灯台のイベント後でないと挑めないとするなら当然でもあるな。
「それじゃあ、とりあえず奥のセーフティポイントまで行くか。」
「そうしましょうか。」
そして俺とミカヅキは一先ずの目標地点として俺たちが初めて出会ったセーフティポイントへと向かう事にした。
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「そう言えばヤタはあれから新しい技能石を手に入れましたか?」
ミカヅキがウォークアップルを戈で討ち払いつつ質問してくる。
「この前クロスシープから回収したな。まだ使ってないけど。」
その質問に俺はイトキャタピラァの頭を叩き潰しつつ答える。
まあ、予想通りと言うか何と言うか雑談する暇があるぐらいにヌルイ戦闘をしながら俺たちは西の森を進んでいた。
というか技能石は本当に何に使おうかな?変えるとしたら戦闘には使えない≪酒職人≫になるんだけど、戦闘や探索に使えそうないいスキルが中々無いんだよな。
「そうですか。ところで……」
「ん?」
と、ミカヅキが足を止めて周囲を見渡す。
何か気になる事でもあるのだろうか?
「前々から気になっていたのですが、西の森のエリア限界はどこにあるのでしょうか?」
「へ?」
ミカヅキの言葉に俺は西の森の広さに関して頭の中で考えてみる。
考えてみれば当然だがHASOはゲームであり、ゲームである以上は行ける場所には限界があるはずだ。現に南の草原も何処までも広がっているように見えてある程度進むと地面から大量の岩が生えて来て通れない様になっているし、東の海岸なら海岸線がそのまま境界になっている。丘陵地帯なら崖がそうだ。
だが、西の森でそのようなものにぶつかった覚えは無い。考えてみればこれはおかしい気がする。
「まさかとは思うがループマップか?」
「ループマップ?」
「一定のラインまで行くと別の場所に繋がるようになっているマップの事だよ。」
ミカヅキがなるほどと言った表情で頷く。
しかし、確かに西の森ならループマップを仕込める気はするな。
この密集した木々による見通しの悪い環境。恐らくだが、視界は100mも無いだろう。なら100m以上離れた場所にループ先を作ればループだと気づかれずに回せるかもしれない。
そして、このループの壁を境界代わりにすればわざわざ目に見える境界を設置せずに済むだろう。
「しかし、ループ先に目標地点が有ったりするとかなり厄介だな。」
「ですね。ループされているとどこまでが正解のルートだったかが分かりませんから。」
ループマップ攻略の基本は何回も様々なルートを試す事だけど、それには明確な基準点が必要だからなぁ……。
と、ここで俺はこの状況を打開するのに良さそうなスキルを一つ思い出す。
「習得してみるか。」
俺は技能石を手に取り使用する。
選んだスキルの名前は≪方向感覚≫。いかなる状況・場所でも方角を見失わないようにする強化系のスキルである。
「良いんですか?」
「もう使っちまったし、戦闘にも使えるから問題なし。」
俺は早速≪方向感覚≫を≪酒職人≫と入れ替える形で装備する。
なお、≪方向感覚≫は初期レベルでは集中しないと自分の方角が分からないが、レベルが高くなってくると常時方向がつかめるようになり、仮に敵の攻撃などによって前後不覚の状態に陥ってもすぐに復帰できるようになるそうだ。
つまり、戦闘に置いては敵味方の居る方角を覚えておけば、何かあった時も慌てずにすぐに対応できるようになるという事だ。
ちなみに後日ユフに教わったことだが非戦闘時の使用法なら≪小道具職人≫が作れるコンパスでもある程度同じことが出来るそうだ。ちょっと悲しい。
「じゃ、試すか。」
俺は≪方向感覚≫を試しに使ってみる。
感覚としては眉間に力を集めるような感じで、そうすると何となくだが東西南北が分かるようになる。
で、
「む。いつの間にか北を向いてる。」
「はぁ……そうですか。」
俺たちは西に向かってまっすぐ歩いているつもりだった。
が、≪方向感覚≫によって示された今の俺たちが向いている方向は北。推論だがこうなったのには二つの理由が考えられる。
一つ目は西の森の地面が傾いていたり、戦闘によって微妙に方角がずれたり、木の生え方の関係で遠回りせざる得なくなって方角がずれるなどの物理的な要因によるズレ。これは現実の森でも起きるそうなので、VRMMOなら普通に起こりえるだろう。
そして二つ目が先程から話題として挙がっているループによる方向の強制変化。こちらに関してはVRMMOがあくまでもゲームであるからこそ出来る技だろう。
まあ、いずれの理由にしてもこれから俺たちがやる事に変わりは無い訳だが、
「それじゃあミカヅキ。」
「はい。まずはセーフティポイントに移動。それから小まめに≪方向感覚≫を使いつつ西を目指しましょう。」
「じゃ、その方針で行きますか。」
そして俺たちの西の森攻略が始まった。