4:東の海岸-1
バーバリアン…英語のスペルならBarbarianであり野蛮という意味を持つ単語である。
「バーバリアンプレイってお前……、あーでも確かに敵を鷲掴みにしたり、投げたり、食いちぎったりってのはバーバリアンっぽいか。」
「おまけに野蛮人だから切ったり突いたりなんて言う高尚な武器ではなく単純に叩き潰す。というのを狙ってのメイス装備だ。」
まあ、メイスというよりはクラブ(棍棒)の方が近いかもしれないが、選べる武器の中に細い棍みたいな武器はあっても太い棍棒みたいな武器はメイス以外にはなかったしな。そこらへんはしょうがない。
というか、ユフよいつまで呆れているつもりだ。あんまりにも呆れているようなら現実に帰ってからアイアンクローをかますぞ。
「まあ、お前が納得してるならそれでいいか。それじゃあ、とりあえずどこへ狩りに行く?」
と、やっと持ち直したのかユフが俺にどこでHASOのメインの一つとも言える魔物を狩るかを聞いてくる。
ただ、狩り場の情報に関してはスキル選びに忙しかった俺はあまり調べていない。なので、
「そこらへんの情報はあまり仕入れてないからな。とりあえず混んでない所がいい。」
「混んでない所か。となると東か西だな。」
さて、この始まりの村周辺の地理と生息する魔物についてユフが説明してくれたことをまとめるとだ。
まず、この始まりの村の周囲には4つのエリアが存在していて、それは南の草原、西の森、北の山、東の海岸となる。
敵の強さの順としては北>東=西>南だそうだが、北の山はともかく他はそれほどの差はなく、初期装備でも問題なく挑める。
だが、HASOでスキルを取得するのに必要な
東の海岸に出現する敵は蟹と空飛ぶ魚。西の森に出現するのは巨大な芋虫と二足歩行する植物らしい。
「うん。東だな。流石に最初から巨大な芋虫に齧りつく度胸はない。」
「まあそれはそうだろうな。じゃあ東に行くか。」
そうして俺とユフの二人は始まりの村の東にある海岸へと向かった。
-------------
「本当に蟹だな。それに魚が空を飛んでる。」
「まあ、ツッコミ所は満載かもしれないが、ゲームだから蟹が異様に大きかったり、魚が空を飛ぶのは無視しておけ。」
東の海岸は海岸といっても浜辺のようにどこまでも砂が敷き詰められたエリアではなく、波によって多少滑りやすくなった岩の足場にその岩の間を埋めるように砂地があるエリアだった。
そして、そんなエリアには我が物顔で歩き回る体高1mほどの大きな蟹と地上から1.2mぐらいの空中をゆったり泳ぎ回る青い鱗の熱帯魚っぽい形の魚、それにそれらの魔物を狩るプレイヤーたちの姿がまばらに見えている。
とりあえず観光気分で来た人間はちょっとガッカリする気もする。
「しかし、人はやっぱり少なめなんだな。」
「まあ、魚も蟹もHASOの主流である斬撃系の武器だと少しだけ戦いづらいからな。」
なんでも空飛ぶ魚はこちらの攻撃を回避する能力が平原の魔物に比べて若干高くて、多少武器の扱いに慣れておく必要があるらしい。それに蟹に関しては堅い甲殻によって初期武器程度だと攻撃が弾かれてしまうので、関節部を狙う必要があるそうだ。
ちなみに蟹とか魚とか呼んでいるのは敵の正式な名前を知る方法が現状では≪看破≫という識別系スキルを使うか、落としたアイテムの名前で知るしかなく、β版から製品版になるにあたって名称などが変わっているかも知れないから今は仮称として魚や蟹などと呼んでいるのである。
「じゃあ、とりあえずどちらの魔物からも技能石が取れたらまた合流ってことでいいよな。」
「ああ、それでいいと思う。」
「じゃ、頑張れよー。」
ユフがエリアの奥のほうに走っていく。恐らく沸きのいい狩り場でも知っているのだろう。まあ、初心者が沸きのいい所に行っても捌き切れないだろうから別に構わないが。
「さて、俺も狩り始めるとするか。」
そして、ユフが視界の外に消えたところで俺は右手でメイスを握り、左手で手近な地面に落ちていた小石を拾う。
で、集団から離れている敵を探して歩き回り始める。魚と蟹がリンクするのかは分からないが、念のためだ。
--------------
「お、いたいた。」
折角だからと小石を拾ったり、引っこ抜けそうな草(名称も効果も不明だったから後でユフに識別方を聞こう)を引っこ抜いてアイテムポーチに入れたりしながらもしばらく歩き回っていると、集団から少し離れた場所で空中に佇んでいる魚がいた。
「それじゃあ、まずは……第一投!」
俺は改めて周囲の状況を確認した後に魚に向かって小石を投げ付ける。
投げられた小石は≪投擲≫の力もあって真っ直ぐに勢いよく魚に飛んで行き、その上ヒレに命中する。ただ、所詮は小石なのかダメージはなさそうで、魚はこちらに気づいたのかゆっくりと回頭しつつこちらに向かってくる。
まあ、今回の小石は敵を引き付けるための物なのだからこれで問題ない。
「行くぜ!」
魚が完全に正面を向いたところで俺は右手のメイスを強く握りしめながら魚に接近する。
そして、射程に入ったところでメイスを大きく振りかぶり、魚に向かって横に振るう。
「って、うおっ!」
が、その瞬間に魚も攻撃のモーションに入り、体を空中で水平に傾けてヒレで俺の体を切りつけるように突進してきたため、慌てて俺は尻もちをついて攻撃を回避する。
そして、俺の体が先ほどまであった場所を過ぎた所で魚は体を垂直に直し、再びゆっくりとこちらに向けて回頭してくる。
どうやら、これがこの魚の攻撃パターンらしい。
「なら、今が攻め時だ。」
俺はゆっくりと回頭している魚に近寄って再び横にメイスを振る。
少しだけ魚はこちらの攻撃を避けようとしたのか上に浮くが、体の中心を捉えるように放たれた俺のメイスを避けることはできずに命中。ダメージを与えたエフェクトとともに少し吹き飛ばされたところで、体勢を整える。
今の一撃で多少のダメージを負ったのか魚の動きは鈍く、まだこちらを正面に捉えられていない。ならばここで一気に攻めるべきだろう。
俺は再び魚に接近し、上から下へとメイスを振り下ろす。この攻撃を魚は先ほどと違って避けるそぶりも見せずに喰らい、地面に叩きつけられる。そして、一、二度その場でビチビチ跳ねるとその動きを止める。
「倒した。でいいんだよな。」
死体が消えないことを一瞬いぶかしみつつも、HASOでは剥ぎ取り用ナイフを使うか、一定時間放置しない限り死体が消えないことを思い出し、俺はメイスを腰に戻して剥ぎ取り用ナイフを出してその刃先で魚の体を突く。そして魚の死体を消すと同時に剥ぎ取りを完了する。
「さて、手に入れたアイテムは、っと。」
俺がメニューからアイテムポーチの画面を呼び出すと、そこには魚から入手したと思しきアイテムの名前があった。
△△△△△
フライフィッシュの鱗 レア度1 重量1
フライフィッシュから剥ぎ取れる青い鱗。武器・防具以外にも美しいその外見から装飾品として用いられることもある。
▽▽▽▽▽
レア度1。まあ最初だしな。とりあえず装飾品に使えるというのなら、後で村で職人を探して加工してもらってもいいかもしれない。
というか、あの魚はフライフィッシュというまんまな名前だったらしい。
「じゃ、次の獲物を探すか。」
そして俺はメニューを閉じると次の獲物を探し始めた。
前作に引き続き読んでくださっている方も、今作から読んでくださっている方もありがとうございます。