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38:王都ミナカタ-5

「なんか昼間よりもさらに人が増えてるな……」

 神殿前の広場に出た俺が最初に思ったことはそれだった。

 さすがに初日の村の神殿前広場程ではないが、それにかなり近い量の人間が居ると思う。恐らくだが昨日今日で攻略組がかなりの数の生産組を連れてきただけでなく、準攻略組も相当の人数がウルグルプを倒したのだろう。

 まあ、ログアウト不可で最序盤だしな。そこまでの差が出ないのはある意味当然か。


「さて、とりあえず適当な酒を売るか。」

 俺は喧騒で溢れかえっている広場を横目に協会の中に入る。すると、協会の中も外に負けず劣らず人で溢れかえっており、中にはアイテムを協会に売らず、プレイヤー同士でアイテムの売買を行っているプレイヤーもいる。

 で、俺はその中で窓口のNPC受付嬢に近づいて話しかける。


「ちょっといいか。」

「はい。本日はどのような用件でしょうか?」

 俺の前に売買のためのメニュー画面が開かれる。


 で、その中で俺は売却を選んで今回防具の作成には向かないという事でそもそも渡していなかったランスビーフやカットチキンの肉を売ると共に、普通のワインやグリーンスライムの体液と薬草を合わせて作ったHPハーブカクテルも一緒に売る。

 当然の様に安く買い叩かれるが、今はまず市場で流通するお金の絶対量を増やすべき時期だと思うのでそこは諦めておく。


「うん。まとまったお金がこれで手に入ったな。ただ満腹度は……だいぶ減ってるな。」

 さて、まとまったお金は手に入ったがまだスタンプボアの肉などもしっかりと残っており、満腹度の方はずっと酒造りをしていたためにだいぶ減っている。

 なお、満腹度が0になるとHPに継続ダメージを受けるだけでなく、SPも強制的に0になって走る事も武器を振る事もろくに出来なくなるそうで、満腹度0はかなり危険な状態なのである。


 と言うわけでここからは俺の交渉能力の見せ所だ。

 まあ、そうは言っても屋台の様なものをやっているプレイヤーに多めに食材を渡して料理を作ってもらうだけなんだけどな。



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「お、あの屋台なんかが良さそうだな。」

 さて、料理街をうろついていた俺はステーキ料理を提供している屋台を見つけた。

 暖簾の間から見える他の客が食べている付け合せのポテトや玉ねぎも美味しそうである。


 というわけで俺は暖簾をくぐって屋台の中に顔を出す。


「いらっしゃい。肉料理屋コッチミンナにようこそ。」

 店主であろう赤い髪の男性が俺の方を向いてそう話しかけてくる。

 さて、ここからが交渉タイムだ。


「あー、店主に伺いたいんだが、肉素材を渡して料理を作ってもらう。と言うことは出来るか?」

「肉の種類によるな。何の肉だ?」

 俺の提案に店主はいつもの事だといった感じで返してくる。たぶんだが、俺の様に食材持込みのプレイヤーは結構多いのだろう。

 ふっふっふ。だが一日丘陵地帯で稼ぎ続けてきた俺の持つ素材は並ではないぞ。


「牛・鳥・豚・山羊・馬・羊。丘陵地帯の肉なら全種類あるな。数もそれなりだ。」

「ほう。見せてくれ。」

「分かった。」

 俺は店主にトレード画面を開く形で持っている肉素材を見せる。


「こりゃあ驚いたな。なんて数だ。」

「とりあえず、これで適当に料理を作ってもらってもいいか?」

「ああ、これだけあるなら手数料代わりを含んでも十分だ。喜んで調理をさせてもらおう。」

 俺は店主の言葉を受けて適当に肉を店主に渡し、店主は渡された肉を即座に調理、俺の前に6種類の肉を適度に焼いて盛り付けた料理が出される。

 付け合せは黒いパンだ。


「おお、旨そうだな。いただきます。」

 俺はしっかりと挨拶をしてからパンをちぎり、そこに肉を乗せて一緒に食べる。

 うむ。肉の旨味と噛み応えのあるパンがしっかりと組み合わさって美味しいな。おまけに今回は肉が6種類あるおかげでそれぞれの肉をそれぞれ味わえる。

 いやー、美味い美味い。


「あー、酒とか開けてもいいか?」

「おう。構わねえぞ。」

 俺は店主から許可を貰ってアイテムポーチからいくつかの売らずに取っておいたお酒を取り出す。と、周囲の客も俺の酒を物欲しそうに見ている。

 まあ、数はあるし、ちょっと稼げばまた作れるから奢ってもいいか。


「あー、店主さん?」

「分かっているさ。今日はこの兄ちゃんの持って来てくれた肉と酒でパーティだ!!」

「「あざーーす!!」」

 そして突発的大肉パーティが始まった。



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 気が付けば俺以外の≪酒職人≫持ちや、店主以外の≪料理職人≫も集まって、料理街の一角を占める形で大宴会が開かれていた。

 なんというかゲーム好きのプレイヤーってやっぱりお祭り好きでもあるよな。死ぬ危険が無くてもログアウト不可っていう特殊な状況でストレスが貯まるし、こういう所で上手く息抜きするのがいいプレイの仕方なんだろうな。


「そういや兄ちゃん名前は?」

「俺か?俺は『ヤタ』だ。」

 と、ここで一通りの料理を店主が俺の名前を聞いてきたので答えておく。


「で、店主は?」

「俺はコッチミンナだ。」

 そう言いながら店主はどこからともなくホワイトボードの様な物を取り出し、『( ゜д゜ )』と書く。

 ああなるほど。顔文字をプレイヤー名にしているのか。それにしても( ゜д゜ )とはまた絶妙なセンスだと思う。


「ここで会ったのも何かの縁。フレンド登録でもしておくか?」

「そうだな。そうさせてもらうか。」

 そして俺とコッチミンナは右手で握手を交わしてフレンド登録した。


 ちなみに、宴会が起こってしまったために≪メイス職人≫の店はもう閉店してしまっており、ベースメイスの購入は翌日に回さざる得なかった事を蛇足として付け加えておく。

やっとネタ名前キャラです。


03/02誤字訂正

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