35:丘陵地帯-3
「で、結局何であんなトレインを起こしたんだ?」
セーフティポイントで腰を下ろして一息吐いた俺は子供にそう話しかける。
「えーとですね……。」
それから子供がゆっくりと何があったのか経緯を話し始める。
まずこの子の名前はハレーと言い、普段は弓使いや弩使いが使う矢玉を専門的に生産している生産職らしい。
ただ、全く戦えないわけでもなく、一撃に特化させることで純粋な火力だけなら攻略組にも引けを取らないそうだ。
で、そんなハレーが王都に来たのが今日の昼で、その後ウルグルプのドロップを置いてこの丘陵地帯にウルグルプを倒す時にも組んでもらったメンバーと一緒に来たそうだ。
「それで、最初は難なく狩り続けることが出来ていたのですが、日が暮れるところでその……」
そこでハレーが言い淀む。
ただまあ、何があったのかの想像はつく。
「なるほどな。昼から夜にかけての出現モンスターの一斉更新が直撃したのか。」
「はい。」
この丘陵地帯のモンスターは昼と夜で出現するモンスターが完全に違う。
そのため、その切り替えの時間では今まで出現していたモンスターが一斉に居なくなり、居なくなったモンスターたちの枠を埋めるように新しいモンスターたちがポップしてくるのだが……ここで問題なのがポップするポイントだ。
丘陵地帯のポップポイントは基本的には丘の下や、岩の影などの人目に付かないところなのだが、中には茂みがポップポイントとして設定されている場所もあるのだ。
で、仮にこの茂みがポップポイントだと気づかなかった場合……まあ一斉出現した大量のモンスターに襲われるよな。
「それで、僕以外の皆がやられてしまいまして、僕は弩使いという事で少し離れていたので最初の第一波を避けることが出来てその後一目散に逃げたおかげで今こうして助かっているんです。」
「あーなるほどな。」
ハレーはその時の光景を思い出したのか明らかに暗い雰囲気を纏って俯いている。
「一応聞くが、そのPTメンバーとはフレンド登録しているんだよな。」
「はい。」
「だったら今日は無事を知らせてもう寝ておけ。俺はもう眠いし、明日になったら王都まで送るからよ。」
「そう……ですね。そうさせてもらいます。」
そして俺はハレーが連絡しているのを横目に目を瞑って眠り始めた。
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翌朝。
「おはようございます。ヤタさん。」
「おはよう。ハレー。」
俺たちは朝の挨拶もそこそこに王都に戻るための準備を始める。
帰り道に関しては俺はアイテムが満載で、ハレーも新しく手に入れた素材を使って新しい矢玉を作りたいために敵をすべて無視することは予め決めてある。
ちなみにハレーの仲間たちについては無事に王都に戻されており今日はデスペナで失わなかった素材を使って一日生産活動に専念するそうだ。
それと俺が帰り道を送る関係で昨日の内にPTを解散し、俺とのPTで既に組み直してある。
「おっ。」
「わあ……」
と、出発しようとしている俺たちの前で水平線から太陽が少しずつ上がってくる。
言い忘れていたが丘陵地帯は王都と繋がっている部分以外は全て海に面している。また、灯台はその性質上、小高い丘の上に建てられており、この位置からならば水平線から太陽や月が昇ってくるのが見えるのである。
「ん?」
と、ここで俺は昨日は入口が見つから無かったためスルーしていた灯台の方をふと見た。
「どうしたんですか?」
ハレーも俺の声につられて灯台の方を見上げる。
「あれは……」
「えっ!?」
俺の視線の先は灯台の頂上がある。灯台の頂上にはガラスに覆われた場所があり、その周囲にテラスが築かれている。
そして、入口が無いために入り込めないはずの灯台のテラスに一人の女性が立っていた。
「ーーーーー。」
驚く俺たちを余所に女性が口を開き、ゆっくりと歌いだす。
「『今日もまた月が沈んで日が昇る。
私は灯台守。役立たずの灯台守。
灯台の名は魔除けの灯台。どれほど深き闇をも晴らす灯台。
けれど灯は失われてしまった。三つの神殿の悪魔に奪われてしまった。
なのに私は灯台の外に出ることも許されず、ただ待つだけ。
だから私は役立たずの灯台守。
武にも技にも優れし御使い様。
もしこの役立たずの灯台守を憐れに思うのならば灯を取り戻してください。
その灯はどれだけ深い闇の中でも輝き続けることが出来る灯です。
取り戻せればきっと西に広がる闇の海でも退かせる事が出来ますから。』」
そして女性はゆっくりとまるで空気に溶け込むように消えていく。
「今のは……」
「イベントだとは思う。ただ何でイベントが起きたのかが分からないな。」
夜明けの際にセーフティポイントに居るのが条件だろうか?いや、それだと時間が限定されすぎだな。
となると、丘陵地帯での滞在時間の総計。または狩ったモンスターの総計が条件か?うーん分からん。
場合によっては俺とハレー一人一人では条件を満たして無くて、ハレーと俺がPTを組んだことによって総合的に条件が満たされた可能性もあるしなぁ……
後、王都組が何かをしてその結果を俺たちだけがいち早く見ちゃったとかな。
「まあ、とりあえず王都に戻るか。」
「そう……ですね。」
そして俺とハレーは可能な限り戦いを避けつつ王都に戻っていくのだった。
イベント発生で新章も本格化します。