33:丘陵地帯-1
「おお、居る居る。」
俺は王都南東の門から外に出て丘陵地帯に来ていた。
丘陵地帯はその名に相応しく小さな山やなだらかな丘が何個も連なっている場所で、時折何かの果物が実っている木やこんもりとした茂みが置かれている。
ただ人影はほとんど無い。
まあ、攻略組は生産組を連れてウルグルプを狩っているころだろうし、それ以外の戦闘系のプレイヤーたちも大抵はまだウルグルプを倒してないだろうしな。人影がほぼ無いのはしょうがない。
そして肝心の丘陵地帯の魔物だが、門を出てすぐの場所からだと三種類の魔物が確認できる。
まあそれぞれの外見に関して言うならば、剣みたいに鋭い羽とトサカを持った鶏。槍の様に鋭い角が前に突き出している牛(ホルスタイン柄)。ハンマーの様な鼻を持った猪だ。
……。これはもうあれだよね。食べろってことですよね!
「喰うぜぇ……超食うぜぇ……」
俺は涎を口の端から垂らしつつ、ゆっくりと獲物を見定めて接近する。
そして決定した最初の獲物は仮称、鎚猪だ。
「【ダッシュタスク】!」
俺は周りから離れている鎚猪のわき腹に向かって【ダッシュタスク】で突進。皮膚を浅く切ってダメージを与えた所で続けてメイスをクリーンヒットさせる。
「ブモッ!?」
「おっと、」
鎚猪は俺に攻撃されて、一瞬よろめくがすぐに後ろ脚だけで立ち上がり、方向を調節、俺に向かってハンマーの様な鼻を振り下ろしてくる。
俺はそれを後ろに飛んで回避する。そして回避した直後に先程まで俺が立っていた場所に鎚猪の鼻が振り下ろされ、ズドンと言う鈍い音と共に周囲の地面が軽く揺れる。
うーむ。これは直撃したら拙いな。即死はしないだろうけど、2~3割は簡単に削られそうだ。
「だがそれだけに旨そうだ。」
俺は俺に向かって突進する準備をしている鎚猪を正面に見据える。
体格差からして正面から受け止めるのは不可能だろう。ならばチャンスは攻撃の後だ。
「ブモォ!!」
鎚猪が突進してくる。恐らく自慢の鼻で俺を押しつぶすつもりなのだろう。
だが、貴様の突進などウルグルプの噛みつきに比べたら遅いわ!
俺は横に移動して突進を回避、そして攻撃を避けられたために停まった鎚猪に接近、背中からのしかかって首を両手で抑え込み、その首に牙を突き立てて肉を食い千切る。
「!?」
う、美味い!今まで食べた豚肉の中でもかなり上位に位置する美味さだ!というか猪肉って普通は臭みとかあるはずなのにその臭みまで美味に感じるってどんだけだよ!?
ふっふっふ。こうなりゃあ≪噛みつき≫のレベル上げに丁度い……下腹部が痛い?あ、毒ってる。うん。そうだよ。豚の生肉ってヤバい部類だったよ。
「ブモオッ!!」
「ヤバッ!」
鎚猪が俺を振り落として、鼻を振ってきたため、俺は地面を転がって鼻を避ける。
そして攻撃を避けた所で起き上がり、鼻を避けて額にメイスを叩きつける。
「ブモッ……」
と、そこで規定量のダメージが入ったためかエフェクトが消えると共に地面に倒れ、動かなくなる。
「ふう。倒したか。」
俺はしゃがみこんで鎚猪から素材を剥ぎ取る。
△△△△△
スタンプボアの皮 レア度:2 重量:1
スタンプボアから剥ぎ取れる分厚くて強靭な皮。清潔ではあるがちょっと臭い。
▽▽▽▽▽
うーん。皮かぁ……本音を言うなら肉や牙、後は鼻そのものが欲しかったんだけどな。皮も確かに使えそうではあるけれど、牙や鼻の方がメイスの強化に使えそうな気がしたし、肉は≪料理職人≫に渡せばいい料理が出来そうだったんだけどな。
まあいいか。もう何匹か狩ればそういう素材もその内回収できるだろ。
---------------
というわけでその後も俺は狩りを続行。他の魔物にも手を出しつつスタンプボアも狩る。
まず鶏だが、正式名称はカットチキン。全身が刃のように鋭い羽毛で覆われた鶏で、≪掴み≫や≪噛みつき≫を使って触ろうとすると、それだけでダメージを受けるモンスターだ。
攻撃方法はその刃の様な羽毛を生かした突撃とダーツの様に羽毛を飛ばす攻撃の二種類だったが……、うん。すごくヤバかった。
掴めない。噛めない。動き速い。魔物としては小さ目。
なんて言うか今までで一番ヤバいザコ敵だった気がする。
で、入手したアイテムとしては羽根、鶏冠、嘴に肉だった。鶏肉美味しいです。卵は……まあ運か特殊な方法かは知らないけど手に入らなかった。
ただ俺とは相性が悪いので今後は基本的にはスルーの方向に移行する。素材的にも打撃系武器じゃなくて斬撃系武器に向いている気がするしな。
で、次に牛だが正式名称はランスビーフ。頭の側面から角が生え、それが二本とも正面を向いていてまるで槍のようになっている。
こちらの攻撃方法はまあ当たり前のように突進。加えて頭を振り回して薙ぎ払いのような攻撃方法を持っている。
薙ぎ払いはともかくとして突進はかなりキツい。スタンプボアの突進よりもだいぶ速く、その角の太さと強度の為に掠っただけでも結構なダメージになる。
だが、代わりに肉は美味かった。最高級の牛刺しを食べている気分だ。しかも毒が無い。素晴らしい。
ああうん。肝心の素材に関しては皮、角、骨、肉、乳が出た。乳が出る辺りさすがはホルスタインだと思う。
ただ素材の適性としては名前からして刺突系の武器向けだと思う。
最後にスタンプボアだけど、あの後戦った経験から察するに攻撃手段は振り下ろしと突進の二種類で、手に入る素材は皮、肉、牙、鼻骨だった。
なんとなくだけどスタンプボアの素材は打撃系武器に使えそうな気がする。というか多分使えるだろう。
後、アレだな。ランスビーフからは5種類の素材が手に入ったのに他の2種類からは4種類の素材しか手に入らなかった。
もしかしなくても倒すのに使う武器次第で入手可能な素材に変化が生じるのかもしれない。
ああそれと、道中拾えるアイテムは勿論拾ってある。≪嗅覚識別≫は一度名前を見たことがあるアイテムにしか効果が無いからまだ未識別だけど、外見上ブドウっぽい植物やいい匂いのする葉っぱなんかを回収している。
さて、そんな間にも日は暮れ、俺は南にひたすら行った所で唐突に建っていた灯台近くにあるセーフティポイントに来ていた。
うん。謎灯台だ。日が暮れる前に軽く周りを回ったけど、入り口も何も見当たらなかった。意味も無く置かれているとは思えないから何かしらのイベントがあるのかもしれないけど、今は正体不明だからとりあえずは謎灯台と呼んでおく。
そして、夜になるにつれて昼の魔物は皆その姿を消し、代わりに羊、馬、山羊の様な魔物が出て来ていた。
ああ、夜食は羊と山羊の肉に馬刺しだな。
スーパー☆お肉☆タイム