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32:王都ミナカタ-2

初めての……

 翌日。俺は≪鉄の胃袋≫による解毒に失敗し、微妙に二日酔いになりながら王都を歩いていた。


「うぅ……。気持ち悪い。」

 もしゲームではなくリアルならそこら辺で吐いていそうだが、ゲームなので吐きたくなっても吐くことは無い。精々あと数十分間の間酔いのバッドステータスの後遺症によるこの吐き気に襲われ続けるだけだろう。


「水……。」

 俺は街中に幾つか用意されている井戸で水を汲んで飲む。何となくだが村の神殿裏の井戸水よりも不味い気がする。

 ただまあ、それでも多少はスッキリした。


「とりあえず早いところ肝の処理をしよう……。アイテムボックス内に入れてあるから腐る心配はないけど。」

 そして俺は若干まだふらつく足取りで昨日の内に位置だけ確認しておいた職人街にある≪酒職人≫の店に向かった。



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「ああ?設備を使いたい?お前みたいなひよっ子にはウチの設備は扱えねえよ。」

 巨大な樽を模した≪酒職人≫の店で設備を借りようとしたら開口一番こんなことを言われた。


「何でダメなんだ?」

 俺は若干痛む頭を押さえながらNPCの店主に話しかける。


「何でってそりゃあ、レベル5にも満たねえような奴はひよっ子だろうが。悔しかったらまずは≪酒職人≫のレベルを5まで上げてこい。話はそれからだ。」

 ああなるほど。基準はレベル5なのか。確かに俺の≪酒職人≫はまだレベル4だもんな。そりゃあ無理だ。

 というか、この様子だとレベル5になったらなったで○○というお酒を作ってこいとか言われそうだ。RPGの定番的に、

 そして恐らくだけどレベル30とか50になった辺りでここの設備じゃ手が出せないようなお酒が増えて来て≪設備職人≫大フィーバーな状況になるんだろうな。

 まあ、それまででもプレイヤーの作る物の方が質がいいから本気で良い物を作るならその手の職人の助けは必須だろうけど。


 てーかテンションあがらねぇ……やっぱ昨日の戦いで気力とか使い果たしているわ。


「っほれ。分かったなら素直に帰れ、帰れ。」

「へいへーい。」

 そして俺は軽い返事をしながら踵を返して、神殿の方へとゆっくり向かう。


 さて、≪酒職人≫の店の設備が使えないとなると今日は素材を各所で回収してきて神殿で≪酒職人≫のレベル上げだろうか。

 と言うかその前にウルグルプのドロップ品をどうするかを考えた方がいいかもしれない。


「おーい。」

 うーん。肝は≪酒職人≫で酒に漬け込む素材として使いたい。きっと面白くて旨い酒が出来上がるはずだ。


「おいってば、」

 毛皮とかは……今のメイスがどちらかと言えば水棲生物系の素材中心のメイスだから防具に回すべきかな。ベースメイスを新たに購入して強化するのもいいけど、そこまでのお金は無い。


「おい。ヤタ!」

「ん?」

 と、ここで俺は自分に声をかけられているのに気づいて振り返る。

 するとそこには不満げな表情をしたユフが立っていた。


「ユフか。どうした?」

「どうしたじゃねえよ。何度声をかけてもスルーしやがって。」

「二日酔いで頭の回りが悪いんだよ。」

「二日酔いってお前……」

 俺の言葉に今度は呆れたような表情をユフは見せる。


「まあいいや。お前朝飯はまだか?まだなら一緒に食べようぜ。ちょっと聞きたいことがある。」

「?まあ、まだ食べてないから付き合うけどさ。」

 ユフはそう言って料理街の方を指差し、俺もそれに同意して二人で料理街へと向かった。



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「で、話ってのはなんだ?」

 俺は料理街で安物のサンドイッチ(1個につき獣石貨5枚だった)を購入し、街中に用意されているベンチに座ってユフに話を促した。


「ああ、単刀直入に言うぞ。お前どうやってウルグルプを倒した?2回もやられたんだから分かっているとは思うが、アレはソロでそう簡単に勝てるような相手じゃないぞ。」

 ユフが普通のサンドイッチ(こっちは1個獣石貨7枚)を齧りながら質問をする。


「その話か。まあ、簡単に言えばエーシウルフジャグリングだな。」

「はあ?」

 俺の答えに怪訝な表情を浮かべるユフに俺はウルグルプとの戦いについて詳細まで詳しく話す。ドロップ品については黙っておくが。


「なるほどな。とりあえずお前がとんでもない馬鹿なのはよく分かった。」

 で、これが俺の話を聞いたユフの結論である。


「馬鹿とは失礼な。自分でも馬鹿だとは思うけど。」

「だろうな。というか普通はMMOでボスにソロで挑んだりしねえっつの。加えて取り巻きを投げつけまくって攻撃するとか本当に同じゲームをやっているのか疑いたくなるような攻略法だ。」

 まあ確かにアレは俺だからこその戦術だよな。他のプレイヤーに同じ方法を勧める気にはならない。


「まあ、今回は上手くいったけど次のボスにも通用するとは思っていないからそこは安心しろ。」

「だろうな。」

 実際の所あの戦術はまずボス以外に取り巻きが出現し、その取り巻きが投げられ、かつ取り巻きを投げつけることによって怯んだり、ダメージが入ったりするのが前提だからな。

 この前提条件の内一つでも崩れたら成立しない戦術なんだから過信も何もできない。

 というかもう少しボスが大型の物になったら確実に効果が無いと思う。


「で、これからどうするんだ?」

 ユフがそう聞いてきたので、俺は王都周辺のエリアについて思い浮かべる。

 NPCたち曰く王都からは4つのエリアに移動できるらしい。


 北にあるウルグルプの居た草原。

 北東にある海岸。(ちなみに東の海岸と違って全面砂浜らしい。)

 南東にある丘陵地帯。

 現在は封鎖されている西のエリア。


 この4つが王都から移動できるエリアで、西のエリアは何か条件を満たすまでは通行不可らしい。まああれだ。何かしらのクエストみたいな物が関わっているんだろう。


「そうだな。とりあえず≪酒職人≫のレベルを5に上げるためにも新しい素材の回収をしたいな。どうせ生産組はお前たち攻略組が今日明日辺りにでも王都まで護送するんだろ?」

 早い所ウルグルプの肝を漬け込みたいからな。

 それ以外の素材に関しては生産組が王都に来てからでいいだろう。


「護衛に関してはそうだな。というか、お前はそっちを手伝う気は無いんだな。」

「無いな。それに俺の戦い方は普通のプレイヤーとは合わないだろ。」

 さっきのも本音だが、これもまた本音である。

 というのもメイス装備で普通のPTに参加するならばメイスの特性的に回復や補助に走るべきであり、そういう役割に回るのならば≪BP強化≫などのそう言った役割を強化するためのスキルを取るべきで、取っていない俺がそう言う役割に回ろうとすると中途半端な補助になりむしろ迷惑になる可能性が高いのである。

 後、攻略組には攻略組の連携とかがあるしな。その辺に部外者が入って乱すのも拙いだろ。


「まあ別にいいけどさ。そう言う事を言うならその内お前も自分に合った仲間を探す事をお勧めするぞ。」

「俺に合う奴ねぇ。ま、その内な。」

 そして俺たちは恒例であるハイタッチを交わすと、俺は丘陵地帯へ行くために王都南東部へ、ユフは生産組と合流するためなのかポータルのある神殿へと向かっていった。

二日酔いでしたw

≪鉄の胃袋≫も万能ではないのです。

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