<< 前へ次へ >>  更新
30/249

30:VS巨大狼-3

 翌日。俺はガントレットのオッサンからウルフベルトという腰装備を受け取り、南の草原のセーフティポイントに来ていた。


 俺はそこですぐに巨大狼に挑みに行かず、少し考える。


 今朝の時点で昨日一日かけてユフたち攻略組が調べてくれたので、巨大狼の実力とゲート境界線の色の関係は判明している。

 それによれば、ゲートの色には青、紫、赤、血の様な黒い赤(以下、血赤と称す。)の4種類あり、これはあくまでも巨大狼の場合だがゲートの色によってHPや攻撃力の変化は見られないが、攻撃頻度・パターン・ドロップアイテムに変化がみられるそうで、特に赤と血赤では取り巻きであるエーシウルフの出現に強力な咆哮攻撃。加えてドロップ品の良質化など顕著な変化がみられるそうだ。

 と言っても血赤に関しては攻略組でも1PTでは手に負えず死に戻りしたのでドロップ品については推定だそうだが。


 まあ、それはさておいて、俺は自分の手持ちの札を改めて考え、それをどう利用すれば巨大狼に対抗できるかを考える。

 素直に仲間を集めた方がいいとユフには言われたが、前回のあの感じならソロでもやり方次第で行けると俺は踏んでいる。


 そして出た結論として、俺にとっては取り巻きの居ない青・紫ラインよりも、エーシウルフと言う取り巻きが出現する赤ラインの方が戦いやすいと言う結論に至った。

 さすがに血赤は厳しそうなので止めておくが、


「さて、結論が出た以上、後は覚悟を決めるだけだな。」

 俺はゆっくりと立ち上がり、ゲートへと向かっていった。



---------------



「よう。三度目の正直とさせてもらうぜ。」

 ゲートをくぐった俺の前に最初に見た時と変わらない姿の巨大狼が立っている。

 加えて≪嗅覚識別≫が死角に居る4体のエーシウルフの位置を俺に教えてくれる。


 巨大狼が息を吸うのに合わせて俺も息を吸い込む。そして、


「グルアアアァァァ!!」

「『いくぜおらあああぁぁぁぁ!!』」

 巨大狼の遠吠えに合わせて予定通りに俺は≪大声≫で対抗、無効化する。

 巨大狼が俺に噛みつきを仕掛けてくる。どうやらソロで赤以上に挑むとここまで確定行動らしい。

 俺は噛みつきを後ろに飛んで回避すると同時に俺に向かって突撃を開始するエーシウルフたちの姿を確認する。


「【アイアングラップ】」

 俺はその姿を確認すると【アイアングラップ】を起動。掴める範囲にまで接近してきたエーシウルフを掴むと、すぐさま掴んだエーシウルフたちを正面に居る巨大狼に向かって投擲する。


「キャン!」「ワンッ!?」「ギャン!」「クゥン!?」

「グルアッ!?」

 攻撃を終えて隙が出来た所に行われたエーシウルフ4連投に対してさすがの巨大狼も僅かだが怯んだ様子を見せる。

 だが、ここで攻撃の手を緩めたりはしない。攻めれる時に攻める。それがソロでボスに挑むために必要な事だ。


「【ダッシュタスク】」

 俺は【ダッシュタスク】を起動。一瞬にして巨大狼の横にまで移動し、巨大狼の耳に浅く噛みつきつつ、そのまま巨大狼の後方にまで移動する。

 そしてついでに、巨大狼の後ろ脚にメイスでの攻撃を当てつつ俺は前に飛んで巨大狼の攻撃範囲から完全に逃れる。


「グルルルル……」

 巨大狼が俺が攻撃範囲から逃れた一拍後に前足の爪で辺りを薙ぎ払いつつこちらを振り向く。

 その目は格下と見ていた俺に一杯喰わされたのがムカつくのか怒りに満ちている。


「グラァ!!」

 巨大狼が牙をむいて突撃してくると同時に先程と同じようにエーシウルフたちが死角に回り込んでから突っ込んでくる。

 うん。いつ破綻するか…というかエーシウルフが落ちたら確実に破綻するけど軽くパターン入ったなこれは。

 というわけで、


「ガンガンやったらぁ!!」

 俺はBドロップメイスを納めると再び後ろに飛び退いてエーシウルフたちの動きを把握し始めた。



----------------



「これで取り巻きは終わりだ!」

「ギャン!?」「ガウッ!?」

 俺がエーシウルフを巨大狼に投げつけると両者からダメージを受けたことを表すエフェクトが出現し、エーシウルフは地面に落下。二、三度ピクピクとしてから完全に動きを止める。

 結局5,6回投げつけてやったところで取り巻きのエーシウルフは全滅した。だが巨大狼はまだまだ体力が有り余っている感じである。

 まあ、血赤に挑んだ時もそうだったしな。HPとかに変わりがないならそりゃあこうなるよな。


「つまりこれからが本番か。」

 俺は巨大狼の動きに細心の注意を払いながら位置取りを調節する。なにせこの先には敵を怯ませるために投げつけるザコ敵は居ないのだからそれだけ危険性が増す事になる。


「!?」

 と、巨大狼が息を吸うのを見て俺も急いで息を吸う。


「グルアアアァァァ!!」

「『おらあああぁぁぁぁ!!』」

 そして、何とか巨大狼の咆哮に合わせて≪大声≫をぶつけることに成功する。仮に失敗したら最悪一撃死もあり得るのだから間違ってもミスするわけにはいかない。そして≪大声≫を使用するためにもSPやBPは節約しなければいけない。


 巨大狼が噛みつきを仕掛けてくる。

 俺はそれを僅かに掠らせつつも横に移動して回避し、反撃として後ろ脚にメイスを叩き込みつつ巨大狼の後ろに移動する。


 ただ、こうやって手堅く攻めていても先程の様に攻撃が掠って少しずつダメージを受けてしまう。

 なので、俺はアイテムポーチから薬草酒を取り出して苦いその味を我慢しつつ一気呑みする。


「くっそまじぃ」

 俺は悪態を吐きつつ振り返った巨大狼を視界の正面に見据える。

 どうやら今回は酔いを喰らわずに済んだらしい。と言っても≪鉄の胃袋≫があるおかげで酔う可能性はだいぶ下がっているはずなのでそこまで心配する必要は無いかもしれないが。


 再び巨大狼が突っ込んでくる。

 どうやら正面なら咆哮と噛みつきの二択らしい。まあ届かないと分かっていて爪を振る必要性は無いよな。

 なので俺は先程よりも少し早めに回避して攻撃を完全に避けつつ、巨大狼の後ろ脚にメイスを叩きつける。と、


「キャイン!?」

 今までずっと後ろ脚を殴り続けていた成果が出たのか巨大狼が横転してもがき始める。

 俺はそれを好機と判断して巨大狼に接近。


「うおおおおおぉぉぉぉ!!」

 巨大狼の頭に向かって何度もBドロップメイスを叩きつける。

 メイスを叩きつける度に通常の赤いダメージエフェクトだけでなく、水属性のダメージエフェクトとして小さな水飛沫が飛び散る。

 四度、五度とメイスが叩き込まれる。が、六発目のメイスが叩き込まれる前に巨大狼が起き上がりつつ俺に向かって爪を振るってくる。


「くっ!?」

 俺はそれを後ろに飛んで避ける。

 が、通常時と違って攻撃はそこで終わらず、完全に起き上がったところで逆の爪が振るわれ、俺はメイスを爪に叩きつけて勢いを殺した状態で受け吹き飛ばされる。

 勢いを殺したはずなのにHPゲージが大きく減る。

 だが、巨大狼は呑気に待ってくれなどしない。俺は急いで起き上がり、巨大狼の攻撃を回避すると、反撃はせずに薬草酒を呑みつつBドロップメイスに装備を強化した結果【ディフェンスライズ】から変化した祝福【ヒール】を発動。BPを消費しつつもHPをさらに回復して満タンの状態に戻す。

 しかし【ヒール】は燃費が悪い祝福であるため、今の一回でBPが尽きてしまった。薬草酒の回復量とデメリットを考えるとこれ以上の回復は無理だと判断するべきだろう。


「ハウッ……バウッ……」

 だが、今までのダメージ蓄積に加えて絶え間ない頭への連続攻撃は巨大狼にもしっかりと効果を及ぼしているらしく、巨大狼は当初と違って息も絶え絶えである。


「ふぅ……」

 俺は呼吸を整え、巨大狼を改めて視界の中央に見据える。

 巨大狼も俺の事を今更真面目に相対すべき相手だと判断したのか正面から睨み付けてくる。その威圧感は凄まじい。けれど嫌な感じではない。プログラム相手にこんなことを感じてもしょうがないのかもしれないが今の巨大狼からは純粋な強者への敬意、強き者と戦える喜び、生への飽くなき渇望を感じる。

 ああ、とても滾ってきた。そんな強い思いをぶつけられたのなら俺もそれに応えなければいけないじゃないか。

 巨大狼が深く息を吸う。俺も深く息を吸う。


「グルアアアァァァ!!」

「『おらあああぁぁぁぁ!!』」

 お互いの咆哮がぶつかり合うと同時に俺も巨大狼も動きだす。

 巨大狼の攻撃はやはりそれが最も自らの信頼する力なのか噛みつきだ。ここで横に避ければ容易に勝てるのだろう。けれどそこで逃げては男も蛮族も廃る。

 だから俺はスライディングの要領で巨大狼の下に潜り込み、首の部分を左手で掴んで抑えると同時に口を近づける。


「!?」「これで……終いだ!」

 そして首に牙を突き立て、右手のメイスを叩きつける勢いを利用して一気に食いちぎる!


 大量の血が口の中に溢れ出す。鉄臭い。けれどその味はまるで甘露のようである。


 けれどこれで終わるほど巨大狼は甘くない。だから何度も何度も喰いついてはメイスを叩きつける。

 身体の下に居る俺を押しつぶそうと巨大狼がもがくが、俺はそれを無視して攻撃を続ける。


 そして、巨大狼が苦しみ紛れなのか俺に爪ではなく口を向けてくる。もしここで削りが足らずにその口が閉じられれば俺は三度目の敗北を喫していただろう。だが、口が閉じられることは無く、そのままゆっくりと巨大狼は倒れる。


「……勝ったか。」

 俺は巨大狼の下でそう呟くとともに、ゆっくりと這い出す。

 剥ぎ取り用ナイフで俺は巨大狼の体を突いて素材を剥ぎ取ると一回深呼吸をする。


 そして俺は、


「勝ったぞおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」


 勝利の雄たけびをインスタントエリアに浮かぶ月に向かって上げた。



△△△△△

取得アイテム

ウルグルプの毛皮×6

ウルグルプの牙×4

ウルグルプの爪×2

ウルグルプの尻尾×1

ウルグルプの肝×1

▽▽▽▽▽


△△△△△

Name:ヤタ


Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.7 ≪メイス職人≫Lv.4 ≪握力強化≫Lv.5 ≪掴み≫Lv.6 ≪投擲≫Lv.6 ≪噛みつき≫Lv.6 ≪鉄の胃袋≫Lv.3 ≪酒職人≫Lv.4 ≪筋力強化≫Lv.4 ≪嗅覚識別≫Lv.4 ≪大声≫Lv.3 ≪嗅覚強化≫Lv.3

▽▽▽▽▽

遂に撃破!

“一応”HASOのボスはソロでも倒せるようにはなっています。


まあ、よほどスキル相性がいいかPSが優れている必要がありますけどね。


08/14誤字訂正

08/10誤字訂正

<< 前へ次へ >>目次  更新