3:始まりの村-1
徐々に白い光が収まり、華美ではないがしっかりとした装飾の施されたギリシャのパルテノン神殿のような建物が俺の目に見えてくる。
そして、完全に光が収まると同時に俺の耳に周囲の喧騒が聞こえ始めてくる。
「サービス開始だあああぁぁぁ!!」
「今から南行きます!PTどうですか!」
「片手槍!片手槍の人いませんか!」
「素材求む!なんでもいいぜ!!」
うん。少々騒がしすぎるな。確か友人はログイン直後に見える神殿の裏手で待ってるとか言ってたはずだから早いところそちらに移動しよう。MMO初日にはよくある光景なのかもしれないが、初心者にこの喧騒はキツい。
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「やらないか?」
とりあえず現実と同じセリフを周囲の目(と言っても俺たち以外は全員NPCだが)を一切気にせずに言い放つ友人に俺はアイアンクローを仕掛けようとする……が、顔を掴む直前にシステムによって弾かれる。
「ちっ、そういえばHASOは決闘以外ではPK不可だったか。」
「まあな。それが分かってるからこそ今のセリフを言ったんだが。とりあえず、今のお前の名前は?」
現実とまったく同じ顔で、髪は灰色で目は青くし、背中に両手剣を背負った友人がそう聞いてくる。
「『ヤタ』だ。モチーフはわかるよな。」
「現実の名前を基にしたんだろ。俺は『ユフ』だ。よろしくな。ヤタ。」
「ああよろしくな。ユフ。」
友人改めユフが右手を差し出すと同時にフレンド申請のメッセージを送ってきたので、了承をすると同時に俺も右手を差し出して握手する。
「で、ヤタはメイス使いにしたんだな。回復役志望か?」
「ん?」
ユフが目聡く俺の腰に下げられたベースメイスを見ながらそう言う。
さて、ここで『祝福』について改めて説明しておこう。
『祝福』はゲーム設定的にはそれぞれの装備品に込められた力をスキルと神々の力によって現実に具現化することを指していて、その効果は装備品とスキルによって千差万別のものとなる。
で、その中でメイスは武器全体の特徴として回復系の『祝福』が出てきやすいという特徴を持っている。だからユフは俺のメイスを見たところで、俺を回復役志望だと考えたわけだ。
だが甘い。
「悪いが俺は思いっきり攻撃に偏らせるぞ。」
「メイスで攻撃ってキツいぞ……」
俺の言葉にユフは呆れたような表情を見せる。だが、そんなことは百も承知である。
たとえ、メイスが片手武器であるがために両手武器に比べて火力が低かろうが、他の片手武器と違って盾を持っていないために防御能力が低かろうが関係ない。
それなら盾も武器も持つ必要のない左手を別な事に活用するだけだ。
そしてそのためのスキルもすでに取得済みである。
と、ここまで言ったら、
「ヤタ。誰が見てるか分からないから、本当はあまり良くないんだが一回取得してるスキルを見せてくれ。」
と言われた。
なので、俺はシステム画面を弄ってユフに俺のスキル構成を見せる。
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Name:ヤタ
Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.1 ≪メイス職人≫Lv.1 ≪握力強化≫Lv.1 ≪掴み≫Lv.1 ≪投擲≫Lv.1 ≪噛みつき≫Lv.1 ≪鉄の胃袋≫Lv.1
空き枠5
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そしてユフは顔に手を当てて天を仰ぐ。
「別にそこまで悪い構成だとは思えないけどな。」
「確かに悪くはない。何となくだけど、お前のやりたい事も分かるしな。ただ、これはイロモノ分類をせざるを得ない。」
イロモノとは失礼な。と反論しようと思ったが、続く友人の言葉に俺の言葉は遮られる。
「まず、≪メイスマスタリー≫と≪メイス職人≫の組み合わせ。これは当然だな。ここは揃えておかないと酷い事になる。」
≪メイスマスタリー≫は武器系スキルで、武器系スキルがないと対応した武器を利用しての攻撃ができなくなる。
≪メイス職人≫は職人系スキルで、メイスの製造・強化だけでなく修理を行うためにも必要で、さらに未確定情報だがWiki上で聞く限りでは使っている武器に対応した職人系スキルを付けていないと戦闘中の武器の損耗スピードが悪化するらしい。
俺もこの辺りの話は聞いていたので、さすがにテンプレとして外さなかった部分である。
「で、まずは≪握力強化≫だな。これは武器が弾かれて飛ばされるのを防ぐためのスキルだと思うんだが……」
「ああそれか、その用途もあるけど次の≪掴む≫を強化するのにも使えないかなと思って取ったんだ。」
「ゲーム中で魔物相手にアイアンクローを決める気かお前は。」
だって得意技だしアイアンクロー。
「というか≪掴む≫って崖とか屋根の縁とかを掴むためのスキルだと思ってたぞ。敵も掴めるのか?」
「説明を見る限りでは問題なさそうだな。」
「で掴んだら≪投擲≫で投げるのか。」
「当たり。」
≪握力強化≫は強化系スキルで、握力限定で筋力を上げるスキルだ。範囲が限定されている分同レベルの≪筋力強化≫よりも効果が高い。本来の用途はユフも言っていたように敵の攻撃によって武器が弾かれたりするのを防ぐためにあると考えられている。
≪掴む≫は制限解除系スキルで、手で地形や敵の体を掴めるようになる。敵を掴んでどうするんだ?というのがWiki上の意見だが、そこら辺の活用に関しては問題ないと俺は思っている。
≪投擲≫も制限解除系スキルで、こちらは手に持ったものを投げられるようになるというスキルだ。ただし≪投擲≫のスキルがなくても、小石ぐらいなら命中精度を気にしないなら問題なく投げられるそうだ。ただ俺のやりたい事、つまりは敵を投げたりするのには必要だが。
「で、分からないのが≪噛みつき≫だな。≪鉄の胃袋≫は≪噛みつき≫を運用するために付けたんだろうが。なんで≪噛みつき≫なんだ?これはβ版では敵に噛みついた時の食感がリアル過ぎて人間の使うスキルじゃない。って言われた曰くつきのスキルだぞ。」
「単に敵を掴んで喉笛を噛み千切るとかやってみたいからだけど?」
俺は友人の意見に対して晴れやかな笑顔でそう言い返す。
食感がリアル?むしろご褒美です。ぐらいの気持ちで行く気満々である。
「……。ああうん。本人が納得済みならもう俺は何も言わない。好きにしろ。」
何となく見捨てられた気もするが、気にしないでおこう。
ちなみに≪噛みつき≫は敵に噛みつけるようになる制限解除系スキルで、敵に噛みつくとその血肉を食べて敵ごとに食事効果が得られる。で、中には当然毒などもあるので、≪鉄の胃袋≫という耐性系スキルによって食べたものが毒持ちでも毒を軽減したり、受けないようにしてある。
「で、結局お前のしたいプレイってなんだ?言ってみてくれ。」
「そりゃあもちろん、」
俺は一呼吸をついてから自分のプレイスタイルを簡単に表したその言葉を宣言する。
「バーバリアンプレイだ。」
最終的にはヒャッハーとか言いそうな主人公ですw
07/21 脱字修正