27:北の山-1
巨大狼に二度目の敗北を喫した俺は翌日、武器の修復をし、ガントレットのオッサンに耐久度が減った防具を預けると共にエーシウルフの素材で腰防具を頼んだ後(素材のレベル不足で狼の姿そのままと言う腰巻は作れず普通の腰巻になった)、北の山に来ていた。
「さて、装備を強化するためにも頑張らないとな。」
今日北の山に来た理由は単純で、二度の巨大狼との戦闘で今の俺の装備とスキルのレベルでは巨大狼を倒すのは厳しいと感じたためである。
で、北の山の構造だが、道幅と傾きに緩急つけた山道に疎らに生えた広葉樹が特徴的なエリアであり、山肌には道具かスキルを持っていれば何かが掘り出せそうなポイントがちらほらと見て取れる。
ただ、様々なアイテムが手に入りそうなのに、プレイヤーの影は他の3箇所に比べて明らかに少ない。
「早速か。」
まあ、その理由は情報収集をした時点で分かっている。
北の山で日中出てくる魔物は二種類。
「カアアァァァァ!!」
一種類目はビッグクロウという名前の巨大なカラスで、今俺に向かって空中から突撃を仕掛けて来ている魔物がそうだ。
「おっと。」
俺は空中から勢いよく突撃してきたビッグクロウの攻撃を横に移動して回避し、攻撃を回避されたビッグクロウは再び攻撃が届かない高所へと飛び上がっていってしまう。
これがビッグクロウの面倒な点で、遠距離攻撃があれば高所に居る時は攻撃を回避すると言う考えを持っていないので簡単に撃墜できるのだが、近距離攻撃手段しかなければカウンターを仕掛けるしか倒す手段がないのである。
というか、攻撃を回避する頭が無いとか本物の烏に失礼な気がする。
「まあ、俺には関係ない話だけどな。」
「ギャッ!?」
俺はそこら辺で拾った石ころを拾い上げ、ビッグクロウに向かって投擲、羽に石ころが当たったビッグクロウはその体勢を崩して若干高度が落ちる。
「チェック。」
高度が下がったところで、続けて俺はビッグクロウの真下に移動。メイスを勢いよく振り上げてビッグクロウを完全に撃墜する。
「メイト!」
「ギャア!?」
そして地面に落ちたビッグクロウにメイスを叩きつけて止めを刺す。
とまあ、こんな感じで問題なく俺なら撃退できる。
素材はこういうのだからそれなりに使えそうだけどな。
△△△△△
ビッククロウの羽根 レア度:1 重量:1
ビッグクロウの身体から抜け落ちた黒い羽根。武器・防具・装飾にと様々な用途に用いられる。
▽▽▽▽▽
まあそんな訳なので、俺にとっても問題なのは二種類目の魔物である。
俺は山道を歩き続ける。予定では中腹にあるセーフティポイントに到達したら村に戻る予定であるが、それまでに何度か奴に遭遇すると思っている。
「っつ!?」
と、山道を歩いていると突然地面が揺れだし、俺の顎目がけて地面から石で出来た拳が飛んできたため、俺は急いでそれをバックステップで回避して距離を取る。
これが北の山で二種類目の魔物。ストーンアームである。見た目もまんま石で出来た腕が直接地面から生えている感じである。
ストーンアームはプレイヤーが近づくまでは地面の中に隠れており、一定距離まで近づくと今の様に不意打ちを仕掛けてくる魔物である。
地面から直接生えているので移動は出来ないが拳の一撃の重さには定評があるし、遠くから攻撃しようとしても石つぶてで反撃してくるので中々に厄介な魔物である。
ただ、コイツのヤバいところはやはり隠密能力だろう。事前に発見するには識別系のスキルなどが必要になるのだが……石で出来ているこいつには
つまり俺の≪嗅覚識別≫は効果が無い。
うん。≪嗅覚識別≫は確かに優秀だけど、それなら何かしらの穴があってしかるべきだと思っていた。だからその穴を早めに理解できてよかったとここでは思っておく。
「まあレベル上げにはちょうどいいし、落とす素材も良質だけどさ。」
俺はストーンアームが石つぶてを仕掛けだす前に接近、その一撃を左に動いて躱すと人で言う所の肘の部分にメイスを当てる。
やはりと言うべきかこの手の堅そうな魔物は関節が脆いらしく、俺の一撃に(顔は無いが)苦悶の表情らしきものを浮かべる。
「おっと、」
と、ここで反撃のパンチが飛んできたので、再び腕の射程外にまで逃げて攻撃を避け、石つぶてを放とうとしたところで接近、関節目がけてメイスを叩きつける。
まあ、巨大狼の攻撃を散々避けてきた俺にしてみれば最初の一撃さえ回避できればなんということは無い相手である。その最初の一撃が時々クリーンヒットして酷い目に合うのだが。
で、肝心の素材はこんなところだ。
△△△△△
ストーンアームの指 レア度:1 重量:1
ストーンアームを構成するパーツの一つ。何かしらの金属が含まれているらしく妙な光沢がある。
▽▽▽▽▽
「ん。アレは……?」
そんなこんなで、北の山を登っていくと、本道から少し離れたところで以前見た青い髪の女性が何かと戦っていた。
「ん……ふぅ……はぁ……ああん……」
怪しげな声が聞こえてきてしまったのできちんと語っておく……。
女性の相手はストーンアームで、女性は攻撃もせずに一方的に殴られていた。ただし、その表情は苦痛を耐えているそれではなく、思いっきり恍惚の表情である。
多分アレだ。≪防御力強化≫とかそう言う敵から攻撃を受けることによってレベルが上がるスキルのレベル上げをしているんだ。
あの表情と行動からそういう趣味だと判断するのはまだ早い。
「あふぅ……あん……あん!」
と、いつの間にかビッグクロウも加わって彼女を攻撃している。
しかし彼女の表情は変わらない。むしろさっきよりも恍惚のレベルが上がっている気がする。
「うん。あれだ。そっとしておこう。」
そして俺はそこで踵を返して下山を始めた。
世の中にはいろんな趣味の人が居るものだし、彼女がそう言う趣味だと決定したわけではないが、俺には理解し切れそうにもないし、命の危険も無いのだから関わらないのが互いにとって一番いいはずだ。
うん。それで間違いない。
と言うわけで俺は下山した。
そっとしておこう
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