26:VS巨大狼-2
リベンジです
ゲートの中に入ると前回と違って既に巨大狼は俺の前方10m程の所で唸りながら立っていた。
どうやら、前回のアレは演出の一環だったらしい。
「グルルルル……」
空に浮かぶ月は血のように赤く、それに合わせてなのか巨大狼も、今は俺の死角に居るが4体のエーシウルフも≪嗅覚識別≫で判断する限りでは奇妙な気配を放っている気がする。
ああ、でも何でだろうな。あの月を見てると……
俺まで滾ってくる
巨大狼が息を吸うのが見え、俺もそれに合わせるように息を吸う。
死角のエーシウルフたちはまだ様子を窺っているだけだ。
「ワオオオオオオォォォォォン!!」
「『ドルアアアアァァァァァ!!』」
そして巨大狼が遠吠えを上げて俺を威圧しようとした瞬間に、俺も≪大声≫で強化された声量で対抗の遠吠えを放つ。
「『いくぜえええぇぇぇ!!』」
結果は成功。俺は身を竦ませずに済み、巨大狼はともかくエーシウルフたちは逆に一瞬だが身を竦ませ、動きを止める。
「ガルアアアァァァ!!」
巨大狼がその牙を露わにしながら突っ込んでくると同時に、死角からエーシウルフが俺に向かって突っ込んでくる。
「【アイアングラップ】【ダッシュタスク】」
俺はその場で足を折り曲げながら反転。俺に向かって突っ込んでくるエーシウルフたちを真正面に捉え、【アイアングラップ】によって≪掴み≫にダメージ効果を持たせた上で【ダッシュタスク】を使って一番近くのエーシウルフに突撃、巨大狼の噛みつきの範囲から逃れると共に、エーシウルフの脇腹に浅い噛み傷を作って尻尾を掴む。
「『うらぁ!』」
「キャイン!?」
そしてそのまま二番目に近かったエーシウルフに掴んだものを投げつけて両方にダメージを入れる。
と、そこで2体のエーシウルフが同時に突撃してきたため、その頭に向かって両方の手で2体同時にアイアンクローを仕掛ける。
さて、ここでHASOの≪投擲≫の仕様について語っておこう。
HASOの≪投擲≫は制限解除系のスキルで、装備していると敵や物を投げられるようになる。と言うものだ。
そして≪投擲≫行為を行った際に相手に与えるダメージは≪投擲≫のレベルに≪腕力強化≫などの補正を加えたものである。
では≪投擲≫は何処から何処までを投擲と言うのか?
「喰らいやがれ!」
俺は2体のエーシウルフを掴んだまま巨大狼に接近、手に持った2体のエーシウルフで巨大狼を殴りつける。が、もちろんこのまま殴ってもダメージは入らない。
だから俺は巨大狼の体に触れる直前にエーシウルフの頭を
「「ギャイン!?」」「グルッ!?」
2体のエーシウルフが巨大狼と激突し、エーシウルフが叫び声をあげ、巨大狼が僅かにだがよろめく。
そう、≪投擲≫の発動範囲は俺の身体から離れた時点で発動するのである。だから≪掴む≫と組み合わせれば……
「『追加だ』!!」
「グルアッ!」
俺は巨大狼と激突して一瞬だが空中に留まったままのエーシウルフの体を再び掴む。そして半回転から再び巨大狼に2体のエーシウルフを叩きつける!
と、2回目の叩きつけを行ったところで別の2体のエーシウルフが俺に向かって突撃して来るのが見え、巨大狼がその爪を俺目がけて振ろうとしているのを感じ、俺は3回目の叩きつけを諦めて前方に向かって飛び込んで3体の攻撃を回避してそのまま距離を取る。
ああ、それにしてもだ。
「前回と違って今回は滾りまくるなぁ……きちんと正面から向き合えてるからか?」
「グルルルル……」
俺は俺の集中力が普段よりも遥かに研ぎ澄まされているのを感じる。
目が、耳が、鼻が、皮膚が、体中の全神経が敵がどこに居て何をしようとしているのかを教えてくれる。
エーシウルフたちが突っ込んでくる。俺は右手でメイスを抜いてそこに突っ込む。1体目が俺の首に噛みついて来ようとしたので、俺は首を動かしてそれを避ける。
2体目が俺の左腕に噛みついて来ようとしたので、手を広げて逆にアイアンクローを決めてやる。
3体目と4体目が左右から同時に突っ込んでくる。俺は右から来た3体目はメイスを振り上げて顎を打ち抜き、4体目には左腕のエーシウルフをぶつけて動きを止めてやる。
と、ここで巨大狼の口が俺の目前にまで迫って来たため、俺は限界ギリギリまで引きつけて【ダッシュタスク】を発動。横をすり抜けて直撃を避けながらダメージを与える。
俺の攻撃はまだ終わらない。
巨大狼の後ろに回ったところで反転しつつ足に一撃を加えると共に、味方をぶつけられて地面にまだ転がったままの2体のエーシウルフに向かって突撃。片方の頭をメイスで叩き潰して倒すと同時に、もう一体を掴んで俺に向かって振るわれつつある巨大狼の爪に当ててその勢いを殺そうとする。
が、巨大狼は味方に攻撃が当たるのを無視して爪を一閃。俺は咄嗟にメイスで巨大狼の攻撃を防ぐが、その爪の勢いによって飛ばされ、防ぎきれなかった分のダメージが俺に伝わってくる。
「グッ……」
「ーーーー。」
今の一連の攻防でエーシウルフ2体が倒され、巨大狼にも僅かだがダメージが与えられた。
だが、その代償として俺も相応のダメージを受けている。恐らくはもう一度攻撃を喰らえば死に戻りだろう。
「ククククク……。」
しかし諦めるにはまだ早い。
「フフフフフ……。」
まだHPは残ってる。敵の動きもまだ分かる。
「アーハハッハッハッハ!!」
故にこの命尽きるまで暴れ続けてやろうじゃないか!
「グルアアアァァァ!!」
「『ガアアアァァァァ!!』」
巨大狼の咆哮に合わせて俺も≪大声≫を上げ、突っ込んできた2体のエーシウルフは先に来た方はメイスで頭を叩いて怯ませ、後で来た方は喉笛に噛みつき、体を捻る事によって食いちぎる。
と、ここで巨大狼が噛みつきの体勢に入ったため、俺はメイスで叩いた方を今度は横から叩いて巨大狼の方に飛ばして隙を作り出し、その間に横に逃げる。
そして横に逃げた所で巨大狼の口が先程まで俺がいた場所で、味方であるエーシウルフごと噛み砕くように閉じられる。
と、ここで蓄積したダメージの結果として喉笛を噛み千切った方も巨大狼に噛まれた方も倒れたことに気づく。
つまり1対1になったわけだ。
「良いねぇ……イイねぇ……いくぜおらぁ!!」
「グラアアァァァ!!」
巨大狼が俺に向かって飛びかかってくる。俺はスライディングをするように足元に潜り込んでそれを避け、同時に先程叩いたのと同じ足にメイスを叩きつける。
巨大狼が爪を振れば、俺は後ろに飛び退きつつアイテムポーチから石ころを取り出し、左手でそれを巨大狼の目に向かって投擲する。
巨大狼が咆哮を上げる。俺はそれに合わせて≪大声≫を上げ、咆哮を打ち消す。
少しずつ少しずつ俺は巨大狼のHPを削っていく。けれどどれだけ撃ち込んでも巨大狼の底はまだ見えてこない。
逆に俺のHPは僅かに避けきれなかった攻撃の為に少しずつ削られていき、今や風前の灯だ。
そして決着は唐突に訪れる。
「グルアアアァァァ!!」
「『ウッ』オォ……ガアッ!?」
俺は≪大声≫で巨大狼の咆哮を打ち消そうとした、しかし打ち消すための≪大声≫はSP切れのために出ず、俺はその場で蹲り、そこに巨大狼の爪が振るわれた。
空中で神殿に送られつつ巨大狼の姿を見て俺は思う。
もう少しだった。もう少し装備とスキルを整えれば俺は巨大狼に勝つことが出来た。
「待っていろ。次こそ俺がお前の事を狩ってやる。」
だから俺はそう言い放ち、元の位置に戻って行く巨大狼の姿を神殿に飛ばされるまでの間見続けていた。
トップハント社の社長はこれを裸ソロで倒すリアルチートです。と、本筋には全く関係のないことを言ってみます。
08/11 誤字訂正