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25:南の草原-3

「なるほど。確かに青いな。」

「だろ。」

 南の草原のボスが倒された翌日。

 俺とユフは消耗した装備品を昨夜の内に修復しておき、夜が明ける少し前に始まりの村を出て、日が真上に来るすこし前には南の草原のゲート前まで来ていた。

 勿論、今日はこの先戦い続けることになる可能性が高いので、道中の敵はすべて無視してきている。


 そして、件のゲートだが、赤い岩は若干色が薄まり、二本の岩の間に走る境界線は赤色がほんの僅かに混じった青に変化していた。


「確か昨日俺たちが挑んだのが正午になるかならないかぐらいの頃だったな。」

 ユフが太陽の位置を見ながらそう言う。


「さて、それじゃあ一時間ごとにゲートの様子は確認するとして、それまでは適当に近寄ってきた奴を倒せばいいか。」

「そうだな。それでいいと思う。」

 俺はメイスを右手で持ち、腰をやや低くして構え、ユフも両手剣を適度に力を抜きつつ構える。


 ゲート近くで遭遇したが無視したビッグラットたちが追いついてきたのか、俺たちに向かってくる。

 数は……微妙にトレインして10匹ぐらいか。


「それじゃあ、ヤタ。半々ってところだな。」

「だな。油断すんなよ。ユフ。」

 俺とユフは互いの拳を裏拳で当てあってからビッグラットたちに向かって駆け出した。



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「『ふはははは!弱い!弱いわ!』」

 俺は≪大声≫でビッグラットたちを威圧した結果生じる僅かな行動の遅れを突いて殴れる相手から容赦なく殴りつける。


「なんで≪大声≫なんてマイナースキルを取得してんだよヤタ!」

「『バーバリアンだからだぁ!!』」

「うっせえ!!」

 俺の声にユフが文句を言いつつも、手に持った両手剣を振り下ろしてビッグラットを切り捨てる。

 ちなみに≪大声≫は強化系スキルの一つで、スキルを意識しながら喋ると声の音量が上がり、聞いた魔物に≪大声≫のレベルに応じた行動のディレイを与えるスキルである。

 尤もディレイと言っても0.0?秒ぐらいらしいし、レベルの高い相手には効果が無いと言う欠点もあるが。


「『次は貴様だぁ!!』」

「チュッ!?」

 俺は手近にいたビッグラットの頭を掴み、真上に投げ飛ばす。

 ビッグラットはある程度上に飛んだところで自然の摂理に従ってゆっくりと落ちてくる。

 そしてそんなビッグラットの予想落下点で俺は足を肩幅程度に広げ、腰をしっかりと据え、右手を後ろに引き、落ちてきたビッグラットに向かって全力でメイスを……


「『うらぁあ!!』」

「!?」

 振る!!


 俺の全力の一撃が直撃したビッグラットは身体をくの字に折り曲げて吹き飛び、地面で数度転がって止まる。

 ビッグラットはピクリともしない。うん。間違いなく逝ったな。


「『次来いやぁ!』」

「もういねえよ!」

 そしてユフの声に気が付いて辺りを見渡すと、俺を追ってきていたビッグラットたちは全員倒れていた。

 ちっ、これで第一波は終了か。



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 正午。


「最初よりも少し青味が強くなってないか?」

「だな。間違いなく強くなってると思う。」

 ゲートの色は岩の方はピンクと言った方がいい程に色が薄くなり、境界線は真っ青になっていた。


「どう見るよこれ。」

「この状態で挑んでみない事には何ともな……ただ俺の時間間隔が確かなら俺たち攻略組が挑んだのがこのタイミングだ。」

「なるほど。」

 俺は頷きながらもゲートから目を離して周囲の警戒に戻る。


「そう言えば今日はボスに挑むPTは居ないのか?」

「来るならこれからじゃないか?ほら来た。」

 俺がユフに示された方を見ると、確かにプレイヤーの一団がこちらに向かってきている。

 全員明らかに俺よりも装備がしっかりとしている。攻略組だな。


「よう。これから挑むのか?」

 ユフが一団の先頭に居る男に話しかける。


「ユフか。そう言うお前は昨日言ってた例の件か?」

「ああ、と言っても今日は挑まないで事前調査だけにするつもりだ。」

「賢明だな。仮にアレが最弱状態だなんて言われたら立ち直れん。」

 ユフと男はその後も二、三言葉を交わす。

 その後プレイヤーの一団は先頭に居る男の号令でゲートの中へと消えていった。


「で、あのプレイヤーたちは何で今日も挑むんだ?」

 俺はゲートの方を見ながらユフにそう問いかける。


「昨日も言ったと思うがボスに挑んだ攻略組で生き残れたのは半分ほどだったからな。まずは全員生き残れるだけの実力を身に着ける。そのために素材稼ぎとスキルのレベル上げを兼ねて挑むんだ。」

「やれやれ。攻略組は大変だねぇ。」

「ま、俺たちが楽に勝てるようにならないと生産組を連れていくことは出来ないからな。」

 正論だな。

 実際問題この手のゲームで実力が遥か上の相手にも勝てるような奇策ってのはPVPは別かもしれんが、魔物相手だと序盤はまず無理だからな。

 奇策ってのはそもそも一部の天才がやるならともかく、それ以外ならそれ相応の経験や情報の蓄積、それに道具などが集まっているからこそ生み出せる物だしな。


「さて、次が来たようだし構えとけよ。」

「だな。」

 俺は近くに居たビッグラットたちが集まってくるのを感じて思考を打ち切り、武器を構える。


「じゃ、行くか。」

「おう。」

 そして襲い掛かった。



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 深夜。日付が変わる頃。


「なるほど。こりゃあ確かに赤いな。」

 ユフがエーシウルフを両手剣で切り払いながらゲートの様子を確認してそう呟く。


「なっ、言ったとおりだろ?」

「ああ。明日辺りみんなに話しておこう。実際どの程度強さが変わるかは挑んでみないと分からないしな。」

 俺もエーシウルフを投げ飛ばしながらユフに返答する。

 しかしまあ、昼のゲートを見ているから余計にそう思うんだろうが、明らかにゲートは前に見た時よりも赤黒くなっている。

 誰がどう見てもヤバい感じだ。けれど何でだか興奮もしてくる。

 うーん。挑みたい。けれど今日一日戦い続けて集めた素材を失うのもアレだしなぁ……


「さて、それじゃあそろそろ帰るか。ヤタ。」

 ユフはゲートに背を向け、村の方に足を向ける。

 と、ここで俺は素材を失わず、かつ巨大狼に挑む方法を思いつく。


「なあユフ。」

「何だ?」

「荷物預かっといてくんね?」

 俺の言葉にユフは目を見開き、そしてすぐに俺が何をするのかを理解してため息を吐く。


「お前、まさか……はあ、分かった。いいよ。好きにしろ。ただし、駄賃代わりにいくらか素材を貰うからな。」

「おう。ありがとうな。」

 俺はアイテムポーチの中に入っているアイテムを片っ端からユフに送る。

 そしてアイテムポーチがすっかり軽くなったところで、


「じゃ、精々がんばれよ。」

「おう。」

 俺は再び巨大狼との戦いに挑んだ。

第二回巨大狼戦は次回です。


10/20 誤字修正

11/04 誤字訂正

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