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23:VS巨大狼-1

初のボス戦です。

「これがゲートか。」

 月が真上にまで登った頃、俺は南の草原の最南端にある二本の赤い岩の柱が地面から天に向かって垂直に生え、その二本の岩を繋ぐよう地面に赤い線が走っている場所に来ていた。


 俺はここでHASOのボス戦に関する基本的な知識を思い出す。

 HASOのボス戦は……


1、各エリアにつき一種類以上のボスが存在している。

2、各エリアのボスを倒すことによって新たなエリアに侵入できるようになる。

3、2の権利はボスを討伐した際に討伐したPTまたは同盟に所属し、生存した状態で戦闘を終了したメンバーのみに与えられる。

4、ボス戦は俺の目の前にある線(通称ゲート)を越えた先に形成されるインスタントエリアでPTまたは同盟単位ごとに行われる。

5、4の理由からボス戦闘中に横槍が入ることは無い。


 と言ったところだったと思う。まあ、所詮は数少ない情報からプレイヤーたちが勝手に判断した物だから間違いなんていくらでもあるだろうけど。

 ちなみに設定的には強力な魔物が結界を張っていて、魔物を倒す事によってその結界を越えられるようになるとか、この岩は神々が強力な魔物がこの場から離れないようにするためだとか、そう言う話があった気がする。

 よく確認してないからすごく曖昧な情報だけど。


「何はともあれ男は度胸。ここは一つ行ってみますか。」

 俺は装備品の耐久度や所持しているアイテムに問題が無い事を確認すると足を踏み出してゲートを越える。

 ゲートを越える際に俺は気圧の差なのか、ボスの気配なのかは分からないが一瞬壁の様なものを感じたが、ここまで来た時点でもう引き返す事は出来ないのでそのまま進む。


「ここは……」

 ゲートを越えた先のインスタントエリアは見渡す限りの大草原で、地平線を望むことも出来、空には先程居た南の草原よりも明るく輝く月と数多の星々が浮かんでいる。


「すげぇ綺麗だな。」

 俺がインスタントエリアの光景に思わずそう感想を言っていると遠くから土煙と共に何かが近寄ってくるのが見えた。


 それは巨大な黒い狼だった。


 それは俺の姿を見定めると俺の横を通り過ぎた所で急停止、反転し、こちらを唸りながら睨みつけてきた。


 そして、それは一度息を吸い込むと辺り一帯の空気を震わせるような声量で遠吠えを上げた。


「~~!?」

 俺はその遠吠えに思わず手で両耳を抑えてその場にしゃがみこむ。

 凄まじい威圧感が巨大狼から伝わってくる。


 その圧倒的な威圧感に俺は理解する。

 PSが十分にあるならば準備が不十分でも戦闘は何とかなる?馬鹿言うな。そんなのは本当に廃人の中でも極一部の連中…廃神クラスだけだ。

 ボスといい勝負をするぐらいはできる?阿呆らしい。そんな油断をする余裕なんて有り得ないだろうが。


 だが、それでもこの場に来た以上はもう戦うしかない。

 俺は少し前の自分の頭を全力で握り潰したいと思いつつも右手でクラブメイスを持ち、左手はアイテムポーチから取り出した石ころを握りしめておく。


「グルゥアァ!!」

 巨大狼が真正面から俺に向かって飛びかかってくる。

 ユフは言っていた。『噛みつきが直撃すれば防御特化でも危うい』と、

 俺はそれを思い出して咄嗟に左手の石ころを巨大狼の顔面に投げつつ、左に向かって飛ぶ。


 すると巨大狼は石ころに一瞬怯んでスピードを僅かに落としたが、そんなもの関係ないと言わんばかりの勢いで先程まで俺がいた場所に向かって二回噛みつく。

 俺は巨大狼が怯んだ僅かな隙のおかげで横に飛び退くことが出来たが、もし怯みが無ければ巨大狼の噛みつきが直撃していたことは想像に難くない。


 俺は巨大狼の攻撃を避けた所で反撃をしようとする。

 だが、そんな俺に≪嗅覚識別≫は何かの接近を告げ、視界の端には目の前の巨大狼以外の影が俺に向かって牙を突き立てようとしている光景が映り込む。

 それは目の前の狼を小さくした魔物。ここに来るまで散々狩った狼型の魔物。エーシウルフだった。


「取り巻きか!」

 俺は左腕にエーシウルフを噛みつかせつつ前に飛んで巨大狼の後ろに回り込み、先程まで俺がいた場所を見る。すると先程まで俺がいた場所に3匹のエーシウルフが来ているのが見えた。

 恐らく咄嗟に逃げていなければあの3匹も俺の体に噛みついていたのだろう。

 だが、取り巻きがいるなどとユフは言っていただろうか?


「グルァ!」

「うおっ!【ダッシュタスク】!」

 しかし、その考察をする暇は俺には無かった。

 再び巨大狼が俺に向かって突っ込もうとしているのが見え、それに合わせて3匹のエーシウルフが散らばろうとしているのも見える。おまけに左腕に噛みついているエーシウルフのせいでHPは少しずつ減っている。

 なので俺は左腕に噛みついているエーシウルフを左腕を大きく振る事によって3匹のエーシウルフの居る場所に投げつけて散らばるのを阻止するとともに【ダッシュタスク】を起動して3匹のエーシウルフの下に突っ込むことで巨大狼の攻撃範囲から逃れる。

 俺の【ダッシュタスク】によってエーシウルフたちに若干のダメージが入る。が、クールタイムの関係上この回避方法が次も使えるとは限らない。


「【ディフェンスライズ】!」

「キャイン!?」

 俺は【ディフェンスライズ】を使って少しでもダメージを抑えられるようにしておくと同時に、手近なエーシウルフの頭を掴んで他の狼たちから距離を取る。


「「「グルルルル……」」」

「難易度高いなぁ……畜生。」

 俺は両手に力を込めつつ現在の状況を改めて認識する。

 敵は巨大狼に取り巻きのエーシウルフ4匹。その内1匹は今こうして掴んでいるが、暴れられて時々だが僅かにHPを削られてる。

 まだ敵にダメージはほとんど与えていない。けれどこちらは少しずつ削られつつある上に巨大狼の攻撃は即死する可能性がある。

 それに状況が悪すぎてスイッチが入る感じもしない。

 うん。詰んでるなこれ。


「だが、ただやられるのは御免だ…な!!」

「グルッ!?」

 俺は左手のエーシウルフを巨大狼に投げつけると同時に駆け出し、手近にいた別のエーシウルフを掴み、そこに突っ込んできた3匹目のエーシウルフの攻撃をしゃがんで避けると同時に腹に噛みつき、4匹目に向かって2匹目のエーシウルフを投げつけて牽制すると同時に反動をつけて3匹目を巨大狼に向かって投げつける。

 この攻撃に全ての敵が一瞬怯む。


 俺はこれを好機と見て巨大狼に突っ込む。

 俺が到達した時点で巨大狼はまだ体勢を立て直しきっていなかった、だから大丈夫だと考えた。だが、俺はそこで巨大狼が一瞬息を吸う様子を見て気づいた。

 体勢を立て直しきっていなくてもこいつには攻撃手段が有った事を、

 その攻撃が最初に披露されていたことを、


「GURUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 俺は巨大狼の強烈な咆哮を真正面から受けて吹き飛ばされて地面に叩きつけられると共に、二度、三度と地面の上をバウンドする。

 そしてそんな俺の目には巨大狼が突っ込んできてその右足の太く鋭い爪を俺に向けて薙ぎ払う姿が見え…、




 次の瞬間には村の神殿の一角に俺は飛ばされていた。




「しんど……流石に無理だったか。」

 そして俺は身体を襲う倦怠感からその場で大の字になって寝転がった。



△△△△△

Name:ヤタ


Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.4 ≪メイス職人≫Lv.2 ≪握力強化≫Lv.4 ≪掴み≫Lv.5 ≪投擲≫Lv.4 ≪噛みつき≫Lv.5 ≪鉄の胃袋≫Lv.3 ≪酒職人≫Lv.3 ≪筋力強化≫Lv.3 ≪嗅覚識別≫Lv.3 ≪大声≫Lv.1 ≪嗅覚強化≫Lv.2

▽▽▽▽▽

初のボス戦でした。

ソロで事前情報ほぼ無しならこんなものです。

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