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19:始まりの村-9

 俺がプライベートエリアから神殿へ戻ってくると突如として神殿の一角が大きく輝きだしていた。


「おいなんだあれ。」

「あそこは死に戻りの復活場所だな。」

「どんどん光が強くなってくぞ!」

 周囲のプレイヤーたちがその光の強さと量に対して徐々に騒ぎ出し始める。

 光の量からしてどうやら相当の数のプレイヤーが一度にやられたようだ。


 やがて、光が納まり、疲労困憊と言った様子のプレイヤーの集団が現れる。数は……24人。同盟込みのフルメンバーか。その中には別れた時よりも装備品が良くなっているっぽいユフの姿もある。どうやらこの大量の死に戻りは攻略組のようだ。


「おい、ユフ。何があったんだ?」

「ヤタか……。」

 俺は頭痛でも起きているのか頭を押さえているユフに近づきながら声をかける。

 それに対してユフはあからさまに億劫だ。という雰囲気で返事する。


「今日は皆すまなかったな。一度解散しよう。」

 俺がユフから事情を聞こうとしたところで、攻略組のリーダーと思しき男性がそう声をかけ、攻略組のプレイヤーたちは徐々に散らばっていく。


「ヤタ。俺たちも…そうだな。とりあえず広場に移動しよう。」

「ああ分かった。」

 そして俺はユフから詳しい事情を窺うためにユフに追って神殿前の広場に移動した。



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「で、結局何があったんだ?攻略組、それも同盟込みでが全滅するなんて早々ある事じゃねえだろ。」

 同盟。それはボスなどの特定の敵限定で2~4PTが組んで一緒に戦えるシステムの事だ。

 ちなみに1PTは最大6人なので、24人と言うのはHASOでの最大戦闘参加人数である。


「ああ、今回俺たち攻略組は南の草原のボスに挑んでいたんだ。初日に挑んだメンバーからβ版と殆ど動きが変わっていないことが伝えられていたからな。」

 南の草原……そう言えば行ったこと無かったな。話を聞く限りではスライムに巨大鼠。それから夜間限定で狼の様な魔物が出るんだったかな。

 で、そこのボスと言えば…そうだ。β版で唯一討伐まで持っていけたボスだったな。


「だが、明らかにβ版よりも反応スピードが良くなっていた。おかげで後ろから不意打ちを仕掛けようとしたプレイヤーは不意打ちを外され、逆に反撃を喰らって吹っ飛び、正面から挑んだ連中はβ版の時と同じように噛み砕かれる羽目になってな。その結果がこれだ。」

 うーむ。中々に酷い状況のようだ。というかそこまで一方的になるなんてこと有り得るのか?


「うーん。その反応スピードに初日に挑んだメンバーは何て言ってたよ。そいつらもあんな縛りプレイをやるだけの度胸と実力があるなら当然攻略組なんだろ?」

 俺はウォークアップルの果実酒を二本取り出し、一本をユフに渡しながら聞く。


「ああ、もちろんそいつらも居たよ。戦闘中の様子を見た限りではあいつらにとっても異常な反応スピードのようだったみたいだな。」

 ユフは果実酒をチビチビと呑みながら語ってくれる。

 なるほど。という事はβ版と言うよりは前回よりも反応スピードが上がっていると考えるべきなのか。

 と、ここまで話を聞いていて、ボスがどういう魔物なのかと言う話を聞いていなかったことを思い出す。


「そう言えば南の草原のボスってどういう奴何だ?」

「ああ、そう言えば言ってなかったか。南の草原のボスは外見に関しては体高2mぐらいの巨大狼と言ったところだな。」

 ユフが少しずつボスがどういう魔物なのかを語ってくれる。


 曰く体高2mの黒い毛並みの巨大狼。

 曰く噛みつきは直撃すれば防御特化のプレイヤーでも危険。

 曰く周囲を丸々薙ぎ払う爪の攻撃によって耐久力の無いプレイヤーがまとめてやられる。

 曰く完全に視界外から攻撃を仕掛けたはずなのに気づかれる。


 これは……もしかするともしかするかもな。


「ちょっといいか?」

「ん?」

 俺はスキル欄から外していた≪嗅覚強化≫を装備し直す。


「っつ……」

「どうしたヤタ!?」

 と、装備した途端に周囲から多数のキツい匂いが俺の脳みそにダイレクトに入ってくる。

 だが、一番キツいのは……


「やっぱりか。」

「やっぱりって何がだよ。」

「ユフ。お前の身体からかなりの体臭が漂ってきてる……。」

「なっ!?」

 ユフの身体から漂う臭いだ。恐らく元は汗などだろうか。何にしてもかなりキツい。

 そして俺の≪嗅覚強化≫と≪嗅覚識別≫でここまで感じるという事は狼型の魔物である南の草原のボスなら誰がどこに居るか手に取るように分かるのではないだろうか。


 俺がその事を伝えるとユフは……


「臭いか……そこまで設定されてるなら確かにありえない話でもないな……だがどうやって臭いを抑えれば……。」

 真剣な顔をして悩んでいた。

 まあ、唐突に臭いと言われればそんなものだろうな。


「一応、水浴びなんかをして体を清潔に保てば臭いは抑えられるみたいだぞ。現に俺は神殿裏の井戸で水浴びをしたら匂いがだいぶ収まった。」

「マジでか!よし。なら、とりあえずこの情報を他のメンバーにも伝えてみるわ!」

「お、おう。」

 俺はウォークアップルの果実酒を呑みながらユフが連絡をしている様子を見る。

 酒の効果が入っているのかは分からないが、だいぶ饒舌に陽気に喋っている気がする。


 と、連絡が終わったのかユフがこっちを見てくる。


「いやー、助かったぜヤタ。これで攻略が進むかもしれねえわ。西の森の夜間限定モンスターも見つかったそうだし、今日は攻略組以外が活躍してんな。」

「そうかい。そりゃあ良かった。」

 俺はそう言いながらもミカヅキも無事に情報を伝えられたのだなと思う。

 まあ、情報はこれで一通り回っただろう。というわけで、


「まっ、何にしても折角の酒だ。」

「分かってるぜ。酒は楽しく。」

「「乾杯!!」」

 俺とユフは月を肴にウォークアップルの果実酒を味わうのであった。

デスペナの内容についてはいずれ。

と言ってもそこまで重くありませんが。

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