15:西の森-5
結局、その後も俺は高笑いを上げながらビッグバットを狩り続け、通算で20匹ほど狩ったところで毒のダメージが看過できなくなってきたのでセーフティポイントに帰ってきた。
「ヒィッ!」
で、帰ってきたら思いっきり少女に怯えられた。
おい、こら。何でそこで怯える。俺が何をしたと言う。
「何で怯えてんだよ。」
再び3m程離れたところで俺は地べたに直接座ってそう聞く。
「す、すみません。でも、自分の戦い方を考えてみてください!」
「はあ?」
俺の戦い方?メイスでぶん殴り、手で掴んでは投げ、隙を見せれば喰らい付き、敵を葬れば勝鬨を上げる。見事この上ないバーバリアンプレイだが?
これの何処に問題が……?
「それは傍から見れば完全に狂人の戦い方ですから!」
む。狂人とは聞き捨てならんな。俺は狂人ではなくてバーバリアンだっての。
だが、ここでどう見ても中学生以下なこの子に怒っては年上として立つ瀬がないな。ここは我慢だ。我慢。
「まあいい。これが蝙蝠のドロップだ。」
「へ?」
俺は“ビッグバットの血”というアイテムを少女に投げ渡し、少女は驚いた顔をしながらそれを受け取る。
「いいんですか?」
「情報料だ。勘違いすんな。」
それから俺は少女にビッグバットの戦い方を自分の主観を交えつつ教える。
と言っても奴らの攻撃方法にリンク範囲がとにかく広い事、それにHPは少ないが血には毒が含まれていることぐらいだが、
「なるほど。」
「だから何かしらの暗闇の中でも相手を認識できるスキルさえあれば、後はタイミングの問題だな。」
「なら、私も後で挑んでみますね。」
「あ?」
少女が突然そんな事を言う。
「どうしてわざわざ挑むんだよ?」
「人に聞いただけの情報を渡すなんてごめんですから。」
俺を睨み付けるようにしながら少女はそう言い切る。
まあ、情報をどう扱うかは本人に任せるべきところだしな。俺の気にするところではないだろう。
「まっ、なら気を付けて狩ってくれ。俺はここで寝てる。」
「はい。お休みなさい。」
そして、俺が眠る体勢に入ったところで少女はセーフティポイントの外に出ていくのが目の端に映った。
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翌朝目が覚めると昨日の少女がセーフティポイントの片隅で武器の戈を握ったまま寝ていた。
どうやら無事狩れたらしい。
「さて、村に戻るか。」
俺は立ち上がると柔軟体操を始めて凝った体をほぐしていき、ほぐれきったところで朝食を取って動き始めようとする。
「待ってください。」
が、その前に声をかけられた。どうやら少女も起きてきたらしい。
「村に戻るなら私も一緒に行きます。PT申請を送りますね。」
少女からPT申請が送られてきたので、俺はそれを受け入れる。目的地が同じならPTを組んだ方が何かと便利だからだ。
そして申請で流れてきた少女の名前を見る限り、少女の名前は『ミカヅキ』と言うらしい。
「貴方は……『ヤタ』と言うんですね。ではよろしくお願いしますね。ヤタさん。」
「呼び捨てでいいよ。俺も呼び捨てにするからさ。ミカヅキ。」
俺はミカヅキと握手を交わすとセーフティポイントの外に出た。
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ミカヅキとPTを組んで進む西の森は昨日の行きと打って変わって楽な道のりだった。
「おらぁ!」
ミカヅキの武器である戈は分類上は刺突武器であるが、刺突武器の中では少々特殊な位置に属している武器だ。
まず他の刺突武器が突き出すようにして扱うのに対して、戈は剣やメイスの様に振り回して扱い、先端の突起物を敵に突き刺す武器である。
性能面の特徴としては高い攻撃力に対して攻撃に用いれるのが先端部だけと言う攻撃範囲の狭さが特徴的で、そのため扱う人間を選ぶのも特徴の一つと言えるだろう。
「やっ!」
ミカヅキ個人としては戈を扱うのに十分なPSを持っているらしく俺が正面からイトキャタピラァの糸を受け止め、頭を殴打した所で俺の陰か敵の死角から戈を振り回して敵の急所を正確に突いていっている。
恐らくだがスキル構成も隠密・急所攻撃に特化しているのではないかと思う。
「ギチュチュ……」
と、ミカヅキの一撃がイトキャタピラァの後頭部に直撃し、イトキャタピラァは小さく鳴き声を上げた所で地面に倒れる。
「いやー、意外とやるもんだなミカヅキ。」
「ヤタも昨日とは違って叫んだりなんだりしないんですね。」
俺が純粋に賛辞を述べたのに対して、ミカヅキは少々捻くれた物言いをしてくる。
というか俺が叫ぶのは強敵との戦いやピンチな状況に対してテンションが上がってきて、体の内から迸るあれやこれを抑えきれないからだぞ?
こういう時は欠片も滾らねえから戦い方も落ち着いたものになるしな。
「と、技能石回収か。」
「おめでとうございます。」
これで技能石五個目か。これからは確か技能石のドロップ率が大きく下がるんだよな。素材が手に入りやすくなると喜ぶべきか、新しいスキルが手に入れづらくなると嘆くべきか微妙なところだな。まあ、喜んでおくべきなのだろう。
そして、西の森を進んでいくとやがて始まりの村が見えてくる。
「では、ここら辺でお別れですね。」
「ああそうだな。」
ミカヅキがメニュー画面からPTに関する操作をしてPTを解散させる。
「それじゃあ、またの機会があれば組むとしよう。」
「ええそうですね。機会があればそうしましょう。」
そうしてミカヅキは村の中に走り去っていく。
そして俺も新しいスキルを取得してから村の中に戻っていくのだった。
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Name:ヤタ
Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.3 ≪メイス職人≫Lv.1 ≪握力強化≫Lv.3 ≪掴み≫Lv.4 ≪投擲≫Lv.3 ≪噛みつき≫Lv.4 ≪鉄の胃袋≫Lv.3 ≪酒職人≫Lv.2 ≪筋力強化≫Lv.2 ≪嗅覚識別≫Lv.2 ≪大声≫Lv.1 ≪嗅覚強化≫Lv.1
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まあ傍目には恐ろしいですよね。