11:西の森-1
夜が明けて俺は西の森に来ていた。
「昨日の海岸よりもやっぱり人が多いな。」
西の森は広葉樹の木々が乱雑に生えて作られた森で、木漏れ日がいたる所で地面まで射し込んでいたり、倒木によってちょっとした広場の様になっている場所もある。
そして、そんな森の中で人間サイズの巨大芋虫と戦っている一団や両手にリンゴを一個ずつ実らせた植物人間が踊りながら二足歩行している光景が見える。
が、戦っている人数としては昨日の東の海岸よりもだいぶ多い。恐らくは昨日南の草原に出ていたプレイヤーの一部が今日はこちらに来ているのだろう。
「ま、何はともあれ。俺は俺の狩りをしますか。」
とりあえずの目標は芋虫と植物から技能石を回収することである。
スキルが多ければそれだけ俺の戦力が上昇するわけだしな。
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入口の辺りは人が多くてソロプレイヤーである俺が割り込むには多少厳しかったため、そこら辺に落ちているアイテムを拾いつつ西の森の中でもある程度奥の方に来ていた。
奥の方だけあってやはり人影はまばらである。
「さて、まずはアイツかな。」
俺の前で踊る植物が一匹踊っている。
が、その植物は確かに俺の事を認識しているはずなのに気にせず踊り続けている。恐らくはこちらが攻撃するまで無視するノンアクティブモンスターなのだろう。
「ではさっそく。行くぜえええぇぇぇ!!」
俺は植物の目の前にまで移動した所でメイスを抜き、全力で殴り掛かる。
植物はノンアクティブのために避ける様子も見せずに攻撃を受けて吹き飛ばされる。が、すぐに立ち上がってファイティングポーズの様な物を取り、軽くステップを踏みつつこちらの動きに警戒を見せる。
俺はメイスを構えながらゆっくりと近づいていく。
「っつ!」
そして、一歩踏み込み腕を伸ばせば届く距離まで俺が近づいたところで植物がリンゴを拳のように使った右ストレートを俺に向かって放ってきたため、急いで俺は距離を取って植物の攻撃を回避する。
俺は追撃に備えて急いで体勢を整える。が、植物は追撃をしようとはしてこない。どうやらこの植物の基本戦術は
「なるほどな。そういう戦術を取るってんならこっちにも手はある。」
俺は植物から少し距離を取ってポーチから石ころを取り出す。
そして植物に駆け寄り始めると同時に左手でそれを投擲、植物は投擲された石の動きに反応して先程と同じように右ストレートを放ち、石を弾き返す。
が、当然と言えば当然だが右手が伸びきった状態になれば次の攻撃へ移るためには隙が生じる。
「うおりゃああぁぁぁ!!」
俺は右手のメイスでまず植物の引き戻している最中の右手を叩いて植物の体勢を崩す。続けて半回転して左手で植物の顔を掴んで、その勢いのまま植物の頭を地面に叩きつける。
俺の中の戦いを求める血が滾り始めてくる。だからまだこの攻撃を止めたりはしない。
俺はさらに左手を支点に植物を痛めつけつつ半回転してメイスを叩きつけて追撃する。
そこに加えて≪噛みつき≫で顔面に喰らい付こうとするが、
「うごっ!」
植物は倒れた姿勢から左手で俺の顔面を殴りつけてくる。
当然ながら痛いし、俺のHPも一撃で10%以上削られる。なにせ頭はプレイヤーである人間の急所。つまりはそこに攻撃を喰らえばそれ相応にダメージの量も多くなる場所である。
だが、この一撃で俺の中にあるスイッチはさらに押し込まれる。
「やってくれんじゃねええかよおおぉぉぉ!!」
俺は左手で植物の右手を抑え込みつつ、右手のメイスで植物の顔面を乱打し、苦し紛れに放たれる左手での攻撃は頭を逸らしつつ逆に左手に噛みつくことによって対応する。
当然ながらリンゴの部分はともかく植物の本体部分は堅いし不味い。だが、左手で抑え、右手で殴り、口で追撃する。この形はこの先、俺の戦い方の基本形になる。そういう確信を俺はこの戦いで感じ取った。
「ハァハァ……うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
そして、森の中に響いていた殴打音が止み、俺は咆哮を上げる。
俺も植物の抵抗によってだいぶ傷ついていたが、何とか押し切った。もっと良い戦い方があったかもしれないが、今はこれでいいだろう。
滾る血の本能に従う方がよほど気分的に楽だ。
「と、早いところ剥ぎ取らないとな。」
俺は叫んで気分が晴れたのか少し冷静になり、メイスをしまって剥ぎ取り用のナイフを取り出して植物の体を突く。
すると植物の体が消え去り、アイテムポーチの中に新しいアイテムが何か入ってきた感覚がしたので、俺はアイテムポーチを開いて入手したアイテムを確認する。
アイテムポーチの中には見知らぬアイテムが2個入っていた。
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ウォークアップルの果実 レア度:1 重量:1
ウォークアップルの両手に実っている果物。ウォークアップルはこれを武器として使うが、見た目通りに味もリンゴそっくりである。
食べると満腹度+15%
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昨日も魔物を狩っていて思ったことだが、どうやら食物系のアイテムは一度に複数個手に入る仕様らしい。
で、今回手に入れたウォークアップルの果実。見た目も味もリンゴそっくり。つまりはそういう用途に使えという事なのだろう。
よし!なら数を集めて林檎酒を作ってやろうじゃないか!リンゴ狩りじゃあ!!
西の森に突入です。