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100:雪山-1

「中々に寒いな。」

 職人神の神殿から外に出た俺を待ち受けていたのは一面の……とまでは行かなくても銀世界と言っていいエリアだった。

 どうやらこのエリアは雪山とでも称すべき場所であり、北の山の様に本道にいくつもの側道がくっついて山を上り下りするようだ。ただ、道の途中には山の中に張り巡らされているであろう坑道に行くための穴が見えている他、山の頂上には魔除けの灯の欠片と思しき明かりが輝いているのが見える。


「っつ……これはミスったかもな。」

 風が吹くと俺の全身に刺すような冷気が襲い掛かってくる。

 ステータス画面を見ると寒さによるものなのかSPと満腹度に対して妙な表示が出ている。どうやら寒さ対策をしていないとペナルティがかかるらしい。


「とりあえず、今回は適当にアイテムを回収して早めに戻るか。」

 そして俺は雪を踏みしめつつ歩き出した。



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「どのアイテムが当たりか分かんねえ……。」

 俺は雪道を歩きながら道の傍に出ている採取ポイントでアイテムを回収する。だが、未識別状態なのでどれが寒さ対策になるアイテムなのかは分からない。

 最悪のパターンは……雪山じゃなくて坑道の方に当たりがあるパターンか。


「まっ、その辺は考えてもしょうがないな。」

 俺は本道を外れて側道に入る。

 側道は本道と違って雪が深く、寒さによるペナルティとはまた別に動きづらい。


「と、敵か。」

 側道の奥の方から青いスライムが近づいてくる。

 そいつは見た目としては南の平原に居たグリーンスライムの色違いと言ったところである。

 というか、色違いだな。まあグリーンがいるならブルーが居てもおかしくないか。とりあえず仮称と言うか実際にそう言う名前だろうけどブルースライムと呼んでおく。


「じゃ、折角だし味わせて貰うか。」

 俺は深い雪を≪四足機動≫で無理やり無視してブルースライムに接近。恐らく驚いているであろうブルースライムの体に噛みついてその体液を啜る。

 うん。ブルーハワイ味だ。美味しい。ついでに食事効果で30分間の≪耐暑≫Lv.3が付いたな。


「っく。」

 ブルースライムが体を伸ばして俺を殴りつけようとする。

 俺は雪の深さから避けるのは難しいと判断してイワジュウジモンでその攻撃をガードする。その攻撃は衝撃はさほどでもないが、メイス越しでも確かな冷気が伝わってくる。

 やはりと言うべきか何と言うべきかブルースライムは氷の属性を持っているらしい。


「オラッ!【アイアングラップ】!」

 そして防いだところで反撃として耐性持ちなのは間違いないだろうがブルースライムを殴りつけ、連携として【アイアングラップ】によって強化された≪掴み≫によってブルースライムの核を掴む。


「くっ……!?」

 ブルースライムの中に突っ込んだ俺の左腕にまるで氷水に腕を突っ込んだような痛みが襲い掛かってくる。


「ぬぐおおおぉぉぉ!!」

 ブルースライムは全身を操って抵抗する。

 が、俺はそれを無視してブルースライムの核を掴んだまま腕を引き、核を体の外へと無理やり抉り出す。


「!!?」

 ブルースライムの液体部分は急激にその形を崩して地面へと溶け去っていき、俺は自分の手の中にあるブルースライムの核を握りしめる。

 力を込めると徐々にブルースライムの核にヒビが入っていき、やがて俺の手の中で砕け散る。

 うん。HPの消耗は激しいが、この積雪で打撃攻撃に対して耐性を持つブルースライムに対して正面からまともにやり合うよりかはマシだろう。


「と、剥ぎ取り剥ぎ取り。」

 俺は剥ぎ取り用ナイフを手の中にあるブルースライムの核に対して使って剥ぎ取りを行う。


△△△△△

ブルースライムの体液 レア度:2 重量:1


ブルースライムの中身である青い液体。ブルーハワイ味。

飲むと満腹度+10% 30分間≪耐暑≫Lv.3付与

▽▽▽▽▽


 うん。やっぱりブルースライムだった。そしてブルーハワイ味だった。

 とりあえず無事に持ち帰れたら後で酒の材料にでもしよう。


「さて、もうちょっと探索を進めるか。」

 そして俺は雪を掻き分けてさらに側道の奥へと進んでいく。



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「ハァハァ……。どこだここ……。」

 俺は道に迷っていた。

 きっかけは側道をある程度行ったところで帰り道が分からなくなったあの辺りからだろうか。

 寒さによるペナルティとしては既にSPゲージの最大値が通常時の4分の1まで削られ、満腹度は【獣人化:ウルグルプ】程ではないが通常時よりも明らかに早いスピードで減少していっている。


 勿論、俺の事情など余所にブルースライム以外にも猿や蜥蜴の形をしたモンスターたちが襲い掛かってくるため、HPやBPなどもだいぶ削られている。

 その分ドロップアイテムもだいぶ貯まっているが、この分では持ち帰れるかは怪しい所である。


「なっ!?」

 と、ここで俺は深い雪に足を取られて転ぶ。

 おまけに転んだ先はどこまでも白い地面が続く斜面。つまり、


「なああああぁぁぁぁ……!?」

 俺は雪の斜面を為す術も無く転がり落ちていくしかない。



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「うぐっ……ここは……?」

 斜面を転がり落ちた俺の前には一面の銀世界が広がっていた。

 周囲に敵の気配はせず、雪が静かに降り積もっていく。


「……?」

 と、いつの間にそこに居たのかは分からないが、10m程離れた所に一人のフードが付いた長袖のコートを着て、どこか遠くを眺めている様子の少女の姿が見えた。

 少女が身に着けているコートは普通の赤よりも少し淡くくすんだ色……確か蘇芳色とか言う名前の色をしており、フードの下から覗いて見える顔の下半分だけでも少女が美少女と呼ぶべき分類に属している存在なのが分かる。


「っつ!!?」

 と、少女がこちらを向く。

 その瞬間に俺は全身の毛が逆立ち、本能が全力でこの場から逃げる様に警告をしているのを感じ取った。

 だが、体は動かない。動かせない。

 その感覚はイベントの時の様にシステム的に体の制御権を奪われているのではなく、物理的に、まるであの少女から俺の体の上に向かって何かとてつもない圧力をかけられているかのようであり、今俺がいる場がゲームの世界では無くまるで現実の世界であるかのように感じる。


「……ニッ。」

「!?」

 そして、少女が笑い、フードの下に隠されたまるで龍の様な黄金色の瞳が微かに見えた所で俺は意識を失った。

少女については黙秘で


100話目となります。

これからもHASOは続いていきますので、今後もよろしくお願いしますね。


10/08誤字訂正

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