マッチうりのねこ

作者: 佐澤 会

きょうはクリスマスイブ

まちはひとでにぎわいます。


そのまちのなか

いっぴきのマッチうりのねこがいました。


マッチいりませんか

マッチいりませんか


うすぎたないのらのマッチなんているもんか

クリスマスのにもつをかかえてあるくたくさんのひとびと

だれもふりむいてはくれません。


ねこはちいさななみだをこぼしました。


おうらいはさらにはげしくなり

ふみつぶされそうになったねこは たちならぶいえいえの

のきしたにみをよせました。


あまりのさむさにたえきれなくなったねこは

ねこのてにのるちいさなマッチのはこをあけ


ひをつけました。


ねこのはおとこのこのうでのなかにいました。

おとこのこがなまえをよんでいます。


ひがきえました


あたりはいちめんのゆき

さわがしいまちのなか


ねこはふえるてをおさえて

もういっぽんひをつけました


ねこはおとこのこのおかあさんのひざのうえにいました

おかあさんはやさしくねこをなでています。 


ひがきえました


ねこはまたもういっぽんひをつけました


ねこはおとうさんのおふとんのなかにいました。

おとうさんはねこのためにばしょをあけてくれました。

おとうさんのうでにあごをのせて


あたたかいなあ

ねこはおとうさんがいちばんすきでした。


ひがきえました


ねこはけをかきわけ まっかだったくびわをはずしました。

いまではぼさぼさのけにかくれてしまって

くびわがあるなんてだれもしりません。


これがねこのもつゆいいつのものでした。

あたたかなきおくをつなぐゆいいつのもの。


でも

くびわはからだをあたためてくれることも

おなかをみたしてくれることもありません。


ねこはのこったマッチに

いっきにひをつけました。


あたたかなひだまりのなか

はじめてそとにいったひ

むしにおどろいて

みんなのうしろにかくれて

わらわれたひ


そしてみんなとわかれたひ。


もうねこは

さむさもひもじささえも

なんにもありませんでした。


ゆきはやむことをしりません。

きがつくと

おうらいのすくなくなったまちには

きえたひとをおぎなうように

ゆきがふりつもっています。


まるでねこをおいていくかのように。


そしてねこは

ねむりにつきました。



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ねこはめをひらきました。


ここはどこ


かごのなかにいたねこは

まわりをみまわしました。


しろいふくをきたおんなのひと

がゆっくりちかづいてきます。


ゆっくりゆっくり

ねこののどにふれました。


ごめんね


しらないおんなのひとは

ちいさななみだをこぼしました。


そのふゆ


いっしょのだんろで

ひさしぶりにすごしたクリスマスは

マッチのひのなかのおもいでよりも

ずっとあたたかでした。