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第98話「決闘の後始末-1」

「これは一体……」

「ティタンか」

 ライが送られた救護室に入った俺が見たのは、異様な光景だった。

 スキープ先生がいる事は良い、意気消沈しつつも何処か安心した様子のウィドとブラウラトの二人に、気絶しているライが居る事も問題はない。

 問題なのは、明らかに学園の人間ではない鎧姿の人間が何人も救護室の中に詰めており、ライたち三人の事を見張っているという点と、三人の手首に木製の枷が嵌められていると言う点だった。


「やりすぎたな。どういう経緯があったのかは知らないが、ここまで酷い状態だと、ライの奴は目覚めてももう魔法は使えなくなっているかもしれん。いや、もしかしたら正気でなくなっている可能性すらあるぞ」

「……」

 そうするつもりでやった。

 と言う俺の本心は喋らないでおいた。

 スキープ先生から本気で怒っている気配がしているというのもあるが、話したところで何も変わらないからだ。

 それよりも、この救護室の状況が掴めない。

 どうしてこんな事になっているんだ?


「状況が掴めない。と言う顔だな」

「その通りです。スキープ先生。彼らは何者ですか?」

「彼らは王立騎士団の人間だ」

「王立騎士団?」

 ますます訳が分からない。

 何故王立騎士団がこの場に居る?

 そして何故ライたちが拘束されている?


「順を追って説明しよう」

「お願いします」

 俺は王立騎士団の人間だという鎧姿の人たちに若干の注意を向けつつ、ライの手当て……まあ、物理的な傷は殆ど無いので、打ち身などの小さな傷ではあるが、それの治療をしているスキープ先生に視線を向ける。


「まず、ライ・オドルの父親、ルストー・オドルが幾つかの罪で捕まった。どうやら、以前から王立騎士団の一部で内々に捜査が行われていたらしい」

「なるほど」

「そして、親子の繋がりがあるという事で、学園長の了承の下、君らが闘技演習場で戦っている間に男子寮の三人の部屋に捜査が入った」

「……」

「その結果、彼らの部屋から幾つかの犯罪行為に関わっている証拠が出て来てな。こうして拘束することになったわけだ」

「なるほど。納得はしました」

 俺はスキープ先生の言葉に理解の頷きと言葉を返す。

 親が捕まったから、子の部屋も調べてみた。

 そうしたら動かぬ証拠が見つかったので、拘束することになったという流れか。

 まあ、これまでの言動を考えれば、ライが何かしらの犯罪行為に手を染めた事があるのは間違いないだろうし、ライの言動を見れば父親であるルストーが何かしらの犯罪行為に手を染めている事は想像に難くない。


「……」

 しかし、そうなると……舞台上でのライの言動については言った方がいいのか?

 言えば、もっと徹底的にライを追い詰める事が出来そうだが……。


「ティタン・ボースミスだな。君には幾つか聞きたい事がある」

 そうして俺が悩んでいる時だった。

 背後から聞き覚えのない女性の声が聞こえてくる。


「貴方は?」

 振り返るとそこにはメルトレス、イニム、ゲルドの三人に加え、何処か見覚えのある顔立ちの赤髪の女性が立っていた。

 身に付けている装備品からして彼女も王立騎士団の一員なのだろうが……俺に質問?どういう事だ?


「私は王立騎士団、オースティア王親衛隊所属のカイリと言う。君には、舞台上でライ・オドルが話していた内容について話してもらいたい」

「理由は?」

「ライ・オドルが関わった犯罪行為について証拠集めの一環だ。『遮音結界(サイレンゾーン)』内での敵対者同士の会話であるから参考程度しかならないが、それでも重要な証拠になり得るから、是非話してもらいたい」

「なるほど」

 俺はカイリと言う名前だけを名乗った女性と話しながら、彼女の背後にいるメルトレスたちに視線を向ける。

 すると、俺の視線を察してくれたらしく、メルトレスは大丈夫だと言わんばかりの様子で頷く。

 まあ、メルトレスが大丈夫だというのなら、話しても問題はないだろう。


「では……」

 そうして俺は闘技演習中のライの言動について話す。

 学園に対して敬意も何も抱いて無かった事、俺以外の人々に対しても明確な殺意あるいは害意を抱いていた事、それと理神とか言う謎の単語を出していた事を。


「以上です」

「このっ……ふざっけんじゃねえぞ!何で俺たちがお前なんぞ従っ……ムグー!ムグー!!」

「これは……想像以上の証言が出てきたな。まさか、メルトレス様に対する殺意すらも抱いていたとは……」

「理神……か。聞いたことが無いな」

「「「……」」」

 俺の証言が終わると同時にブラウラトが暴れ出した為、騎士の一人が猿轡を噛ませて無理やり抑え込む。

 そして、ブラウラトの叫びに同調するように、未だに気を失ったままであるライに向けて、救護室に居る全員が刺すような視線を向ける。

 まあ、誰がどう考えても自業自得なので、庇う気など全くないが。


「今の証言は記録したな」

「はっ、勿論であります!」

「よろしい。ならば準備が出来次第ライ・オドルを連行する。スキープ先生」

「治療ならもう終わっている。好きにするといい」

 俺の証言はライと敵対している者の証言だ。

 だから参考程度にしかならないと言うのは、先程カイリさん自身が言った言葉である。

 が、どうやらそんな彼女の目から見ても、ライは他の二人とは別枠の犯罪者として扱うべきだと映ったらしい、手際よく準備を済ませると、数人の騎士を救護室に残し、ライは気絶したまま何処かに運ばれていった。


「ああそうだ。ティタン・ボースミス君。君に一つ言っておくことがある」

 そしてライを運んでいく騎士たちを追ってカイリさんも救護室の外に行こうとした時だった。

 カイリさんは俺の事を呼び寄せると、耳元で他の誰にも聞こえないような声量で囁いた。


「罪人を捕まえ、裁くのは私たちの仕事であって君の仕事ではない。もしまた同じような事をするならば、その時は覚悟したまえ」

「……」

 俺はカイリさんに対して何も言い返す事はしなかった。

 が、もしもそうする必要があるなら、躊躇うつもりも任せるつもりも無いという意図を込めた視線は送った。


「では、ご協力感謝する。失礼」

 そうしてカイリさんも去って行き、俺の初めての決闘は何処か腑に落ちない終わりを遂げることになったのだった。

03/29誤字訂正

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