第97話「第二決闘-7」
本日は二話更新になります。
こちらは二話目です。
なお、人を選ぶ描写もございますので、拙いと思ったらブラウザバックをお願いします。
「……」
俺は闇の中を無言で駆ける。
無言で音も無く駆け、ライに対して殺傷能力を持たない『黒煙』の矢を額に当てて何時でも狙えるぞと示し、剣を奪って首筋に突き付ける事で隙だらけだと嘲笑い、足首を掴んで少しだけ引く事によって恐怖を与え、俺から身を守るための力の源である紋章が刻まれたプレートを一部ではあるが腰から掏り取り、奪った剣で不規則に闘技場の床をひっかく事で不快な音を鳴らす。
そうすることで『黒煙』による光のない空間と合わせてライに恐怖を与え、その精神力を削いでいく。
「ウ、ウワアアアァァァ!?何処だ!?何処にいる!?」
そんな俺の行動の結果、既にライの精神力はだいぶ削れてきており、傍目に見ても混乱していると言い切れるだけの状態にはなっている。
と言うより、息遣いを荒くし、しきりに周囲を確認し、汗を大量に掻き、涙を流しつつ大声を上げ、脚を震わせ、股間の辺りから独特の異臭を漂わせてきているような状態が全て怯えているフリだというのなら、大したものである。
「……」
「ひっ!?」
そして今俺はライの真正面から駆け寄りつつ、真っ直ぐに手を伸ばしていた。
狙いはライの口の中、もしもライが防げなければそのまま舌と顎を掴みとって、その場に引きずり倒してやるつもりである。
「ゴ、『黄金護卵』!?」
「くははははっ」
が、残念ながら手がライの顔に触れる前に金色の卵が出現し始めてしまう。
だがそれならそれでいい。
俺はライをあざ笑うように笑い声を上げながら、手の気配だけはライの口に向かわせ、ライ視点ではまるで俺の身体がライの身体をすり抜けるように、身体を捻り、ライに恐怖を与える。
そして、手を無事に引っ込める事が出来た所で、俺は音もなくライの視界外へと移動。
ライの様子を窺う。
「ひあ、あ、はぁ……消え、ひはっ、ば、化け物……」
『黒煙』の影響で距離が離れてしまえば、俺にもライの姿は見えない。
が、あれだけ激しく動揺しているならば、音だけでもだいたいの事は探れるし、本人が気付いているかは分からないが、臭いも相当なので位置は何の問題も無く掴み取れる。
そう言うわけで、ライをさらに怯えさせるために、近くに落ちていた幾つかの矢の欠片を順に投げる。
「ひ、ひぃ!?ジ、『宝石散弾』!」
「カカカカカ……」
ライが見当違いな方向に向けて宝石の群を放つ。
ただ、宝石の群が風を切る音からして、ライの動揺によってだいぶ宝石の質も悪くなっているようだった。
恐らくだが今の宝石の群ならば、正面から受け止めることも可能だろう。
やらないが。
「ど、何処だ!?何処にいる!?来るなら来い!?来いってんだー!?」
「……」
さて、そろそろ狩り時だろう。
この策は本来、自分より格上の魔獣をどうしても仕留めなければならない時に使う手段であるが、この手段を用いる際には一つ注意すべき点がある。
それは最後の足掻き。
相手を追い詰め、いざ狩るとなった時、破れかぶれになった相手は思いがけない力を発揮することがある。
その力はこれで仕留められると油断していた狩人を死に至らしめるには十分すぎるものだ。
故に、注意しなければならない。
最後でしくじってしまえば、ライ・オドルは今まで以上に増長することになるだろうから。
「畜生……ちくしょう、チクショウ!何が理神だ!何が大いなる力を与えるだ!?チクショウ、奴を殺せなきゃ神なんて意味がねえんだよ!?チクショウ、チクショウ……」
「……」
それと別の問題もある。
『血質詐称』を解除した影響なのか、それともこんな光のない空間に居るからなのかは分からないが、どうにもあの獣の力が俺の中で増してきている感覚がある。
今はまだ俺自身が意識をし、ベグブレッサーの弓の表面が何故か刺々しくなって食い込んでいる影響で人である俺の方が強いが、このままではまた獣に堕ちてしまいそうな感覚がある。
なので、この状態を脱する意味でもそろそろライは狩るべきだった。
「すぅ……」
俺は準備を整えると、弓に矢をつがえ、トドメの為の位置に着き、『黒煙』の紋章魔法を解除する。
「ひか、光だ!?」
舞台上から黒い煙が引き始めると同時に、ライが涙ぐんだ様子で舞台上に挿し込む光に対して喜びを示す。
「はっ!?奴は!?奴は何処にいる!?」
と、ここで今はまだ決闘の途中だと気づいたライは自分の周囲を見渡し、舞台上の何処かに居るはずの俺を探す。
そして、俺が本当に居る位置に気付かず、『黒煙』が解除されてもまだ黒い煙が残っている場所へと目を向ける。
「そこかあああぁぁぁ!『宝石散弾』アアアァァァ!!」
口から泡を飛ばしつつ、残った魔力全てを注ぎ込んだかのような宝石の群を黒い煙がある場所に向けて放つ。
そうして宝石の群はライの想像通りに、黒い煙が出ている場所と、その黒い煙によって見えない場所全てを穿った。
「ひはっ!やった!やったぞ!あの化け物を俺は……」
「いい夢は見れたか?ライ・オドル」
「やぎっ……!?」
背後に俺が居る事にも気づかずに。
「じゃあな」
無感動に、無慈悲に、本物のそれがもたらすように、俺はライの後頭部に鏃が当たるのではないかと言う距離で矢を放ち、放たれた矢は絶望した顔でこちらを振りむこうとしたライの頭を貫き、致命傷判定を受けたライは闘技演習場に仕込まれた魔法によって最後の一撃が無かった事になった上で場外へと転移させられた。
「勝者、ティタン・ボースミス」
「「「……」」」
『勝ちました!ティタン・ボースミス勝ちました!え、えーと……』
決闘が終わった事で、『遮音結界』が解除され、俺の勝利が告げられる。
だが会場はざわめくだけで、ハーアルターの時のような歓声や拍手は一切生じなかった。
声と言える声は、ヨークシー先生と実況であるヨコトメのものだけである。
まあ当然だろう。
こんな卑怯極まりない悪辣な戦い方をする人間が褒め称えられるはずがない。
「さて、まずはライ・オドルだな」
まあ、称賛なんてものはどうでもいい。
それよりも今は優先するべき事がある。
救護室に送られたであろうライ・オドルの拘束を頼むと同時に、学園長に対して結界の中でライ・オドルが話していた事について伝えなければならない。
俺は『血質詐称』を発動して元の姿になると、静まりかえる闘技場を一人、後にした。
03/29誤字訂正