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第94話「第二決闘-4」

「!?」

 俺は確かにライに向けて矢を放った。

 それもただ放ったわけではなく、ライが『黒煙(ブラクスモーク)』によって生じた黒い煙へと攻撃する瞬間と言う周囲への注意が逸れる瞬間に、ライの左手側後方と言う左手に筒型の魔具を持っている関係上俺の姿がまず見えない位置から、音も気配も消して、確実に攻撃を当てるべく頭ではなく胴を狙って矢を放った。


「ヒハハハ……ヒャア!?」

 にも関わらず矢が逸れた。

 矢が飛んでいる途中で風も吹いていないのに軌道が変わり、ライの眼前を通り過ぎるように矢は飛んで行ってしまった。


「ゴ、『黄金護卵(ゴルデンエッグ)』!」

 意図せぬ方向から放たれた俺の攻撃に驚いたのか、再びライは金色の卵を生成し、その中に隠れてしまう。

 その姿からは演技臭さのようなものは感じない。

 本当にただひたすらに驚き、怯え、安全圏に逃げようとしているのだと感じた。


「……」

 俺は次の矢をつがえず、ライの様子を観察しつつ少し考える。

 まず大前提として、ライに何かしらの魔法……恐らくは矢除けの効果を有する魔法がかかっている事は間違いない。

 他の二射と違って、今の矢には外れる要素など存在しないはずだからだ。

 問題はそれがどのような魔法なのかだ。

 ソウソーさんから教わった情報通りなら、ライが適性を持っている属性は地と金の二属性。

 そして、この情報が正しい事を示すように、宝石の群で地属性を、銀色の板と金色の卵で金属性を使っていると思う。

 だがこの二属性で矢除けが出来るのかと思うと……正直出来ない気がする。


「そもそもとして、紋章魔法特有の光も見えなかったしな……」

 第一、先程ライは俺の動きを全く認識できていなかった。

 この状況で効果を発揮する魔法をライ本人が使うなら、常時発動あるいは効果時間がとても長い魔法になるはずである。

 で、そんな魔法なら、まず間違いなく今までの戦いの何処かで紋章を発動する際に発せられる光を俺が目撃しているはずなのだが、少なくともそんな光を見た覚えは俺には無かった。


「場外は……考えるだけ無駄だな」

 いっそ場外から何者かが横槍を入れて来ているのだと考えた方が早いのではないかとも思った。

 が、ソウソーさんに先生方、その他多くの観客たちの目があるこの状況で、誰にも気づかれる事無く横槍を入れようと考えたら、それこそ『破壊者(ブレイカー)』並の実力が必要だろう。

 それに今は決闘の最中で舞台の外には下りられないし、情報を伝えようにも『遮音結界』に阻まれる。

 つまり、考えてもどうしようもないのだった。


「くそっ、くそっ、くそっ」

「……」

 となるとだ。

 この場で俺に出来る事と言えば、矢除けではどうしようもない状況に持ち込んで、ライを仕留める事。

 これ以外にはないだろう。


「許さんぞあの屑狩人め、この俺に傷を負わせるだなんて。絶対に、絶対に許さんぞ」

 なら、まずは金色の卵の中、外に聞こえるほどの音量でもって何かを叫んでいるライの様子を窺う事にしよう。

 もしかしたら突破のヒントでもあるかもしれない。


「貴族である俺に対して穢れた血混じりでありながら矢を射かけて来るなんて不敬の極みだ。必ず手足をもいで、地に這いつくばらせ、許しを請わせ、その上で殺してやる」

「……」

 これは闘技演習なんだが。

 闘技演習で手抜きをする方が遥かに不敬だと思うし、そもそも手足がもげたら、その時点で致命傷判定からの場外行きだと思うんだが。


「あの屑狩人が終わったら、次はあのクソ生意気な一年と平民だ。特に平民の方は必ず嬲り者にしてやる。でなければ気が済まん」

「……」

 ほう……ハーアルターとセーレの二人に手を出す……と。

 やはり完全に心を折っておく必要がありそうだ。


「ウィドとブラウラトの馬鹿二人にもだ。あの馬鹿ども、俺の部下のくせしてあんなガキどもに負けやがって、おかげで俺まで恥をかいたじゃねえか。鞭を打ってやる。アイツ等にも、領にいるアイツ等の家族共にもだ」

「……」

 は?ウィドとブラウラトの二人にも罰を与える?正気か?それに一体何の意味がある?

 ああいや、うん、もうコイツの事を理解しようとするのは止めておこう。

 心を完璧に折った上で勝つ事だけを考えよう。


「あんな屑狩人を庇うクソ王女も、老いぼれ共も、それにあの屑狩人の実家も、その領に住んでいる奴もだ。我が家の騎士団を送り込んで、社会的にも肉体的にも抹殺してやる。最大限の恥辱を与えてだ。あんなのの存在を理神様が許すはずがない。殺してやる。殺してやる。殺してやる」

「……」

 訂正、ただ心を折るだけじゃ駄目だな。

 ライの心を殺すつもりで狩るべきだな。

 悪いが俺は、俺の尊敬する人々に対して害意を向けられているのに出来るだけ穏便に済ませようとするような善良な人間じゃないし、ここまで無関係な人間に対して厄災を広めようと考えている人間を生かして返すだなんて甘い考えも持っていない。


 山賊は見つけ次第狩り殺して魔獣狩りの餌にでもしてしまった方がいいのだ。


「よしまずは此処から出たタイミングで……」

「使うか」

 直に時間経過によって金色の卵が消え去る。

 なので俺は切り札を切るための準備……一つのイメージを思い浮かべはじめた。


「屑狩人を打ち殺してやる」

「すぅ……」

 視界一面に黒い水が溜まった湖と、光に満ちた白い空間に自分が立っていると言うイメージを。

ティタンがキレたようです


03/26誤字訂正

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