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第91話「第二決闘-1」

『なんと、なんと!なんと!!セーレ、ハーアルターの急造コンビ!ウィドとブラウラトの四年生コンビに勝ってしまいました!』

「「「ーーーーーーーー!!」」」

『想像外の出来事に闘技演習場のどよめきと歓声が止まりません!本当にまさかの事態だー!!』

 凄い戦いだった。

 俺の少ない紋章魔法の知識と、経験ではそう言う他ない、あるいは知識がなくてもそう感じれてしまう程の戦いだった。


『で、ソウソーさん。先程までは時間が無かったので脇に置いておいたのですが、セーレ・クラムの魔法、アレは何だったのでしょうか?まるで上位紋章魔法のような規模でしたが……』

『アレは『積層詠唱(パイルキャスト)』と言う技法でやんすね』

 それも勝者であるハーアルターとセーレの二人だけが凄いわけでは無く、ウィドとブラウラトの動きも素晴らしいものだったと思う。


『『積層詠唱』ですか?それはどういう……』

『簡単に言ってしまえば複数の紋章を同時に発動し、その相乗効果によって紋章魔法の効果を飛躍的に高める技法でやんす。その威力は見て貰った通りっすね。中位紋章魔法でも、上位一歩手前まで威力が高まっているでやんす。尤も、今回魔力漏れを起こしていたあたり、まだまだ未完成で、修行不足っすけどね』

『き、厳しいですね。アレで未完成なんですか……』

『こういうのは適切な評価を下してナンボでやんす』

 ハーアルターの良かった点は『短縮詠唱(クイックスペル)』による紋章魔法の早打ちと適切な魔法の選択、そして最後の思い切りの良さだろうか、アレは真似しようと思っても、そう簡単に出来るものでは無いと思う。

 セーレの良かった点は、やはり今ソウソーさんが説明していた『積層詠唱』だろう、あれで大勢が決まったと思う。

 ブラウラトも動きは良かった、あの踏み込みの鋭さにナックル型の魔具と言う紋章魔法の発動タイミングが難しそうな魔具を扱うセンスは見習いたい。

 ウィドは一見すると地味だったが、『茨の柵』と『土塁』を使い分けた防御に、茨の隙間に筒型の魔具を入れて紋章魔法を撃つと言う発想、それに接近された時の備えも用意してあったりと、普通に優秀な魔法使いと言う者を見せてもらった気がする。

 うん、本当に素晴らしい戦いだった。

 俺には参考にする事は出来ても、真似できない部分も多かったが、それでもこの観戦はいい経験になったと思う。


『と、ここでセーレの友人たちに連れられる形でハーアルターとセーレの二人が退場を始めます。皆様、勝者である二人に盛大な拍手を!』

「「「ーーーーーーーーー!!」」」

 と、ハーアルターとセーレの二人が俺の方にやってくる。

 セーレの方はそこまで酷くないようだが、ハーアルターの方は左腕が折れ、右腕は傷だらけと言う状態であるため、だいぶ調子が悪くなっているようだった。

 出来るだけ急いで闘技演習場備え付けの医務室へと行くべきだろう。

 そう言うわけで俺は黙ってハーアルターたちが俺の横を通り過ぎるのを見ていようと思ったのだが……


「少し待ってくれ」

「ハー君?」

 ハーアルターが足を止め、俺の方に顔を向ける。


「もう来ていたんだな用務員」

「ああ、ソウソーさんから『少しでも闘技演習の知識を付ける為にも見ておくようにするっす』って言われていたからな」

「そうか」

 俺の言葉にハーアルターは少し微妙そうな顔をする。

 ソウソーさんのモノマネが気に入らなかったのだろうか?


「見ていた感想は?」

「素直に凄かったと思ったし、素晴らしいとも思った。俺には真似は出来そうにないけど」

「真似出来て堪るか。僕は魔法使いで、お前は狩人だろうが。魔法使いなのに狩人如きに真似できるような戦い方をしたら、それこそ魔法使いの恥さらしだ」

「……」

 その意見はどうかと思うが……今はハーアルターの体調を鑑みて、曖昧な笑みを浮かべる程度に留めておく。

 そんなハーアルターは痛みを堪えつつも、笑みのような物を俺に向けているが……その笑みは何処となく満足げなものだ。

 どうやら、ハーアルターは舞台上でやりたい事はきっちりやってきたつもりであるらしい。


『さて、ハーアルターとセーレの退場も終わり、舞台の状態も整ったところで、次の闘技演習、本日のメインイベントに参りましょう』

「用務員。次はお前の番だ」

「分かってる」

 闘技演習場の方から実況であるらしいヨコトメの声が聞こえてくる。

 その内容から、どうやらもうすぐ俺の番であるらしい。


『まずは街側より四年生、ライ・オドル!左手に筒型の魔具、右手に剣型の魔具を持ち、状況に応じて使い分けます』

「絶対に負けるなよ。お前が負けたら、僕たちが勝った意味がない」

「約束は出来ない。俺は紋章魔法については素人だからな。だが……」

「だが?」

「学園に務める狩猟用務員の一員として、そう簡単に負けるつもりはない」

 俺は近くにいるハーアルターから、丁度闘技演習場の反対側に居るライ・オドルへと目を向ける。

 ライ・オドルの顔には、嫌らしい笑みのような物が浮かんでいた。


「……。そうか、ならいい。行こう」

 ハーアルターとセーレたちが医務室に向かって再び歩き始める。

 それを見送った俺は、ゆっくりと闘技演習場の舞台へと歩き出す。


『対しますは山側、狩猟用務員ティタン・ボースミス!特殊なイベントの時を除き、狩猟用務員が闘技演習場の舞台に上る事はまずありません。よって異例も異例!超が付くような異例でございます!』

 そして、闘技演習場の魔法を発動させるための準備を行った上で、俺は舞台に上がった。

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