第87話「第一決闘-2」
『まずは街側より、四年生、ウィド・フォートレー!主に木属性の魔法を使います!』
「さあて、精々無様に逃げ回ってくれ。俺たちに喧嘩を売った事を後悔しながらなぁ」
金髪に緑色の目を持った長身の青年が、腰のベルトに吊るしてある筒型の魔具とプレート型の魔具の様子を確かめつつ、嗜虐的な笑みを舞台の向かい側に居る相手に向ける。
『同じく街側より、四年生、ブラウラト・デザート!ナックル型の魔具を使い、格闘技術と紋章魔法を組み合わせます!』
「その綺麗な顔をボッコボコにしてやるよ。治療魔法でも治らないぐらいになぁ」
茶髪に黄色い目をした、ウィドと同程度の身長の青年が、肩を回して腕の調子を確かめつつ、獲物を前に舌なめずりする獣のような笑みを浮かべる。
その手には俗にメリケンサックと呼ばれるものが握られており、腰には持ち手部分によく似た短い棒が何本も固定されていた。
『この二人は一人一人でも闘技演習を行っていますが、同郷と言う事で、コンビを組んで戦う事にも慣れています』
「ああ、あっさり終わらせる気はないから覚悟しておけよ」
「へっへっへっ……」
二人は自分たちの武器を確かめ終えると、ウィドは腰の筒型の魔具を抜いて、右手で筒から斜めに生えた木製の持ち手を、左手で金属製の筒の途中を持ち、先端を舞台の向かい側に向ける。
そして、ブラウラトは左足を軽く前に出し、両腕は曲げてファイティングポーズのような物を取った。
そんな二人の視線には、口調とは裏腹に、油断や驕りのような戦いに支障を来たしかねない感情は殆ど含まれていなかった。
『対しますは山側、三年生、セーレ・クラム!人目をよく引く雪の様に白い髪が特徴的な少女です』
「ふん、後悔するのはどちらかしらね。目に物見せてあげるわ」
白めの髪に薄い青の瞳と言う特徴的な容姿を持った少女……セーレが、途中に紐を結びつけた棒を両手で持ち、棒の先端をウィドに向ける。
その腰には、手に持つ棒と紐で繋がった本が革のカバーに覆われる形で提げられている。
『そして一年生、ハーアルター・ターンド!ターンド伯爵家の長男!期待の一年生です!』
「悪いが、ボコボコにされるのは僕たちではなくお前たちの方だ。覚悟しておけ」
金髪に青い目をした少年……ハーアルターが一度腰に提げている本に左手をやり、表紙の装飾を少しいじる。
そして、何かを動かすと、何も持っていない右手でウィドとブラウラトの事を挑発するように指さす。
『こちらは闘技演習が決まったその日が初対面と言う、超が付くほどの急造コンビです!特にハーアルターは入学してまだ一月ちょっとと言う事もあり、これが初めての闘技演習でもあります』
「ハー君、頑張ろうね」
「その呼び方は止めろ。恥ずかしい」
急造のコンビである上に、闘技演習の経験そのものが少ないとあって、セーレとハーアルターの二人の動きは少々ぎこちなく、固さが残っている。
だが、やる気だけは十分にある事を示すように、二人の目には強烈な闘志が宿っていた。
『四年生コンビと急造コンビ、正直これでは一方的な試合にしかならないとしか思わないのですが、その辺りどうなのでしょうか?ソウソーさん』
『さて、どうでやんすかね?本当に一方的な試合にしかならないのなら、学園長は闘技演習の許可を出していないはずでやんす』
『ほう……それでは……』
『ま、順当に行けば四年生コンビが勝つっすね』
『ソウソーさああぁぁん!?』
『戦いってのはそんなに甘くないって事っすよー』
「「「「……」」」」
ヨコトメとソウソーが半分ふざけているような実況をしている中でも、舞台上に立っている四人の集中が途切れることはない。
四人はお互いの敵を真っ直ぐに見据え、頭の中で初動をどうするかを考え、審判であるヨークシーの合図を緊張した心持で待っていた。
「では、ただいまよりウィド・フォートレー、ブラウラト・デザート組と、セーレ・クラム、ハーアルター・ターンド組による二対二の闘技演習を始める。試合……」
そうして四人の緊張が最高潮にまで高まった瞬間。
ヨークシーの天高く掲げられた手が……
「開始!」
勢いよく下ろされた。
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「『加速』!」
最も早く動き出したのはブラウラトだった。
風属性下位紋章魔法『加速』によって足の裏に風を起こし、勢いよく斜め前に向けて飛び出す。
「『突風』!」
次に動いたのはハーアルター。
通常とは異なるキーワードでもって風属性下位紋章魔法『突風』を発動、右手からウィドに向けて突風を放つ。
「『茨の種』!」
続いたのはウィド。
キーワードの発声と共に筒の先端が若草色の光を放ち、木属性下位紋章魔法『茨の種』が発動、小さな涙滴型の物体をハーアルターたちに向けて射出する。
「『氷壁』!」
最後に動いたのはセーレ。
キーワードを唱えつつ、棒の先端を自分とハーアルターの前の床にこすり付ける。
すると、棒が触れた場所に沿う形で氷属性下位紋章魔法『氷壁』が発動し、白く濁った氷の壁が床から素早く生え上がり、二人の姿を覆い隠す。
「ちっ」
「くっ……」
そして四人が初動を終えた瞬間。
ハーアルターの風とウィドの種が空中で衝突し、周囲に風を吹き荒れさせつつ、棘の生えた蔓が周囲に向けて勢いよく伸びる。
「こんなもんで止められるかよ!『硬化』!」
「っつ!?」
二人の攻撃がぶつかり合った数瞬後。
セーレの張った氷の壁の前にまで来たブラウラトが、右手のナックルで地属性下位紋章魔法『硬化』を発動させつつ、その手で氷の壁を勢いよく殴りつける。
すると硬さを大幅に上げられたブラウラトの一撃に耐え切れず、セーレの『氷壁』はあっけなく砕け散ってしまう。
「まずはいっぱ……」
氷の壁の向こう側にセーレとハーアルターの姿を見たブラウラトは、この距離なら確実に殴れると判断し、笑みを浮かべる。
「『突風』」
「!?」
だが、ブラウラトがそう思った次の瞬間に見たのは自身に向けられるハーアルターの左手。
そして感じたのは、自分の腹に強烈な圧力がかかり、自分の両足が床を離れる感触だった。
極々普通な魔法戦闘が始まりました(ティタンではこうならない……)