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第76話「問題児たち-1」

「鐘がなったか。今日の授業はここまで。来週は完成させたプレートの試射を行うから、今日完成にまで至った者は来週まで丁寧にプレートを保存しておく事。完成できなかった者は来週までに完成させること。では、片付けを各自行い、終えた者から退出するように」

 今日一日の授業が終わった事を告げる鐘が鳴り響き、その鐘の音に合わせてセイゾー先生が作業を止めるように通達する。

 プレート型魔具を完成させた者は、俺とハーアルターを含め、302実験室に居る生徒のおおよそ半数と言ったところだが、完成していない生徒もその大半は完成一歩手前と言った様子である。


「セイゾー先生。今日はありがとうございました」

 さて、一番に原盤からプレート型魔具を削り終えた俺は、当然のことながら既に片付けも終わっている。

 だが帰る前に、俺の無理に対して応えてくれたセイゾー先生に礼を言わなければならない。

 と言うわけで、俺はセイゾー先生に近寄り、頭を下げる。


「ティタン君か。今日の授業でプレート型の魔具について君が学んでくれたなら、某にとってはそれで満足だ。某の目論み通り、一部の生徒のやる気を引き出せたようだしな」

「そうですか。ならよかったです」

 俺が来たことでやる気を出したと思える生徒は、俺の目から見る限りでは既に教室から去っているハーアルターぐらいのものだったが、セイゾー先生の目には他にもやる気を出した生徒が見えていたらしい。

 何にしても、セイゾー先生の役に立てたなら、学園の用務員としては嬉しい限りである。


「興味があったら、また来週も来るといい。君の作った『ぼやける(ヘイズィー)』がどの程度の効果を発揮するのか、某も気になるところであるしな」

「えーと……時間が有ったら、その時はよろしくお願いします」

「ああ、待っている」

 ただ……来週の授業にも出られるかは微妙な所である。

 今日もゴーリ班長たちに無理を言って来ているようなものであるし。


「では、失礼します」

 そう言うわけで、俺に出来るのは曖昧な笑みと返事をセイゾー先生に向けることだけだった。



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「まずは用務員小屋だな」

 さて、今日一日の授業が終わったと言う事で、今は夕食の時間である。

 そのため、302実験室を出た多くの生徒は、四階に上り、そこから連絡通路で風の塔あるいは寮に戻る事を選択しているようだった。

 が、302実験室を後にした俺は、ゴーリ班長たちに授業が終わった事を報告する、持ってきた道具を戻す、沢山の生徒で混雑しているなどの理由から、まずは用務員小屋に向かうべく火の塔の二階に下りてきていた。


「ーーーーーー!」

「ん?」

 そうして二階に下りてきた時だった。

 微かではあるが、俺の耳が誰かの声を捉える。

 周囲に人影はない。

 となると、火の塔二階特有の入り組んだ細い通路あるいは少人数用の実験室の何処かからか聞こえてきた事になる。


「……」

 探すべきだ。

 何も無ければそれで構わないが、もし誰かが実験で大きなミスをして、何かしらの問題が発生して大きな声を上げたならのなら、学園の狩猟用務員として最低でも状況の確認ぐらいはするべきだろう。

 そう判断して、俺は声がしたと思しき方向に向かって歩き出す。


「この糞ガキが……先輩への敬意の払い方も分かってねぇみたいだな……」

「黙れ。僕にはお前みたいな先に生まれた事だけで優越感に浸る人間を先輩として認める気はない」

 騒ぎの元凶は直ぐに見つかった。

 入り組んだ通路の一つ、行き止まりになっているその場所に彼らは居た。


「まったく、よくもやってくれたぜ……シミになったらどうしてくれんだ?ああん?」

「ぶ、ぶつかって来たのは貴方でしょ!それにもう謝ったじゃない!」

「あんな一言で許すわけねぇだろうが。平民の分際でよお」

「平民平民って……」

 まず、俺に近い側に三人の男子生徒、こちらに背中を向けているので顔は分からないが、声を聴く限りでは大柄な二人が声を荒げ、その二人の後ろで残る一人が様子を見ている感じか。

 そして、その三人によって通路の行き止まりに追い込まれているのは、三人の女子生徒に一人の男子生徒……まあ、ハーアルターだ。

 とにかくハーアルターと三人居る女子生徒の内の一人、白めの髪に薄青の瞳の少女が、怯えた様子の他二人の少女を庇いつつ、男子生徒二人と口論をしているようだった。


「……」

 ふうむ……単純に状況を見る限りでは、男子生徒たちと女子生徒たちの間で何か揉め事があって、そこにハーアルターが割って入った感じか。

 となると、今の時点ではどちらが悪いのかも、諍いの原因が何なのかも判断は出来ない。

 うん、普通に声をかけて割って入るのが正解か。


「お前たち、何があった?」

 俺ははっきりとした声で自分の存在を示しつつ、彼らにゆっくりと近づいていく。


「ああん?誰だよテメエは」

「邪魔すんじゃあねえよ」

 口を開いていた二人の男子生徒がこちらの方を向く。

 その目に浮かんでいる感情は……あまり良いものではない。

 暴力的で、粗野で、間違っても行儀の良いものではない。


「用務員!?どうしてお前がここに!?」

「始業式に出てた用務員さん……?」

 ハーアルターは俺の登場に驚き、女子生徒の方は白めの髪の少女は俺の登場を疑問に思い、他二人は何処か安心しているようだった。


「おやおや、何の御用ですか?新人狩猟用務員殿?」

 そして最後の一人、二人の男子生徒の背後に控えていた男子生徒の目は……他二人よりも更に良くないものであり、明らかにこちらの事を見下し、嘲る様子が見えた。


「何があったと聞いているんだ」

「ほう……」

 なるほど、どうやら一筋縄ではいかないようだ。

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