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第73話「プレート作成-3」

「この中ではこれが一番プレート型にするのには向いているな」

「ありがとうございます」

 さて、原盤を焼いている間、ただ待っていると言うわけにはいかない。

 素材を混ぜ合わせるの使った道具を片付けなければいけないし、次の原盤を彫って紋章の形にするための準備もしなければいけないからだ。


「これがいいな。ただ、この部分については少し太めにした方がいい。この細さだと欠けてしまう」

「分かりました」

 で、そんな次の準備の中には、セイゾー先生にこれから彫る予定の紋章がどのような形になっているのかを見せ、必要ならば修正を加える作業も存在していた。

 何でも、このセイゾー先生による最終チェックで良いと言われないと、今日の授業ではこの先に進ませて貰えないらしい。


「この補助記号はもう少しこちら側にずらした方がいい」

「何故ですか?」

「この位置だとここを彫る際に邪魔になってしまう。それと紋章魔法の効率的にも……」

 なお、セイゾー先生による指摘は明確な論拠と深い知識を伴う物であるため、ただ傍で聞いているだけでも紋章魔法について学べそうなものだった。


「次は……ティタン君か」

「はい。よろしくお願いします」

 さて、俺の番である。

 と言うわけで、俺はセイゾー先生に先週言われた通り、『ぼやける(ヘイズィー)』の紋章が書かれた羊皮紙を複数セイゾー先生に渡す。


「ふむ。妖属性基礎紋章魔法……『ぼやける』か。ただ、普通の『ぼやける』ではなく魔具連動技術を組み込んだものか……クリムとソウソーの奴が関わっているのがよく分かる形式だな」

 俺の『ぼやける』を見たセイゾー先生は顎に手を当て、興味深そうにしている。

 それにしても紋章を見ただけで、クリムさんとソウソーさんが関わっているのが何故分かるのだろうか?

 確かに俺は二人から助言を貰っているので、俺の描いた紋章に二人の影響が出ていてもおかしくはないのだが。


「この中だと……これがいいな。文字もはっきりとしているし、線も明確だ。ただ、この部分についてはもう少し太くするべきだな。このままだと矢を射る時の衝撃で欠けることになる。そうなれば、次が発動しない」

「……。分かりました」

 俺は一瞬何故弓に直接つけて使う事がバレているのだろうかと思い、戸惑うが、考えてみれば俺の描いた『ぼやける』の紋章には矢をつがえて弓を引いた際に魔法が発動するように記載されている。

 その部分を読み取れるのであれば、どういう風に使うのかが分かるのは当然の事であるのかもしれない。


「これで全員分のチェックが完了か。では、各自手袋をはめて、自分の原盤を机の上に持って行くように。だがまだ開けようとはするな。それと間違っても水をかけたり、魔法で冷やしたりしないように。どれをやっても原盤が使い物にならなくなるぞ」

 そうして俺の『ぼやける』の紋章でチェックが終わったところで、原盤が焼き上がったらしく、金属製の型が302実験室の中に戻ってくる。

 ただ、大きさが大きさであるためか、まだ十分に冷えていないらしく、素手で持ったら確実に火傷をすると感じる程度には熱を放っていた。

 恐らくだが、手で持てるぐらいまで冷えるのに三十分はかかるだろう。


「この分だと冷えるまでにもう暫くはかかるな……」

 どうやらハーアルターも俺と同じように感じたらしい。

 真剣な表情で原盤が入った金属製の型を見つめている。


「亀裂が生じて台無しになるのは御免だし、待つしかないな」

 流石と言うべきか、ハーアルターは何故この金属製の型を冷やすのに、水をかけたり、魔法を使ったりしてはいけないのかが分かっているらしい。

 俺は詳しい理屈までは分かっていない。

 が、何故そう言う事をしてはいけないかは分かっている。

 水をかけて急激に冷やすと、原盤に亀裂が生じてしまい、使い物にならなくなってしまうのである。

 そして仮に表面上に亀裂が出なくても、原盤の内部に様々な問題を生じさせ、駄目にしてしまうのである。

 魔法に至っては論外だ。

 原盤を焼くのに魔法現象による火を使った場合と一緒で、汚染に似た症状が起きて、魔具としての機能に支障を来たす事がある。

 だから、急激に冷やしてはいけないし、魔法を使ってもいけないのである。


「さて、冷えるまでにもう暫くかかる。故に、今の内にこの後の作業について軽く話をしておくとしよう」

 全員が席に戻った事を確認すると、セイゾー先生は話を始めようとする。

 すると、それに合わせて生徒たちは筆記用具を取り出し、俺もそれに倣って筆記用具を出す。


「この後の作業についてだが、まずは先程某がチェックして合格を出した羊皮紙を、出来る限り正確に原盤に書き写してもらう。そうそう、書き写す際だが、配置と比率さえ合っていれば、大きさは出来るだけ大きくした方がいい。その方が彫る部分も少なくて済むし、強度もある。それに効果も高まるはずだ。定規などを使って、無理でない程度に大きくしてみるといい」

 俺はセイゾー先生の言葉を思い出しつつ、どう原盤を彫っていくかを考える。

 なお、今回の彫り方は原盤を直接彫るものなので、紋章部分を残すように彫る事になる。


「彫る量については原盤の厚みの三分の一と言ったところだ。この深さが、原盤の強度、魔法の効率、発動回数などの釣り合いが一番取れている」

 彫る量は厚みの三分の一か……となると、原盤の側面に線でも入れて、彫る深さを分かり易くした方がいいかもしれない。

 しかし、原盤の強度はともかく、効率と発動回数の釣り合いが取れていると言うのはどういう事だろうか?


「では、型が持てる程度に冷えた者から取り出して、作業を始めるように」

 俺はその点について疑問を感じずにはいられなかったが、今はそれどころではないと判断して、作業を始めるのだった。

03/06誤字訂正

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