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第67話「プレート作成の準備-3」

「えーと、これがそうか」

 セイゾー先生の部屋を後にした俺は、その足で地の塔の図書館に向かい、セイゾー先生に指定された本の一つである『紋章魔法素材図鑑』と言うタイトルの本を見つける。

 その本はとても分厚く、貸出禁止である事を示す印が背表紙の部分に記されていた。

 本の内容としては……図も絡める形で、紋章魔法の素材に適している各種物質を紹介した物である。

 そんな本の先頭を飾るのは?


『ジャッジベリー。常緑性のツル植物で、一年を通して赤い小さな実を付ける。実を絞って得られる果汁はあらゆる属性の基礎、下位紋章魔法の発動が可能な万能素材である』

 当然ジャッジベリーだ。

 と言うか、もしも断りもなくジャッジベリーについて記していないのに、紋章魔法の素材について一通り記したと名乗るような本があったりしたら、その本は紋章魔法について何も知らない人間が書いたか、よほど古い時代の本なのか、頭がどうかした人間が書いたとしか俺は思えない。

 それほどまでにジャッジベリーは一般にもよく知られた素材なのだ。


「へー……」

 で、そんなジャッジベリーについてだが、この本では簡単にまとめた総評の下に、どのように実が付くかや、一から育てる場合にはどう育っていくのか、魔具の素材以外にはどんな用途で使えるのかなど、俺も知らなかった情報も含めて、そこまで詳しくはないが書かれていた。

 うん、これだけの情報があるなら、この本は普通に一から読んでいってもいいのかもしれない。

 今回はそこまでの時間は無いので、目的である妖属性のプレート型魔具……それと可能なら闇属性の魔具を作るのに適した素材を探すにとどめるが。

 なお、妖属性だけでなく闇属性の素材も探すのは、『黒煙(ブラクスモーク)』の発動に適した素材が今使っているヤテンガイの樹の枝の他に無いかを探すためである。


「えーと……ミスミソウ、ブラキリソウ、ヤテンガイ、アイアー、キリウミタケ、ヤキノコ、ダンマンティス、ヤリガネムシ……」

 『紋章魔法素材図鑑』には、俺も知っている紋章魔法の素材……ヒヒカズラ、カゼスズ、パジサカキ、アブラマツ、イワマシュ、カウンタモ、ニクロムソン、スナハキなどについての情報が、俺が知っている事から知らない事まで記されていた。

 そして、俺が名前すら知らなかった素材……オボロウツギ、リュウカサクラ、カノーピーグル、プロテタートル、パニドフライなどについても多数記されていて、その情報は狩人としても紋章魔法を習う者としても、目から鱗が落ちるような素晴らしい情報ばかりだった。

 と同時に、やはり狩人としても俺にはまだまだ学ぶべき事があると痛感させられる情報でもあり、身が引き締められる思いだった。


「……。まあ、当然あるよな」

 そうしてページをめくっていく中で、俺は名前は知っているが、実体はよく知らないものの名前を見つける。


『フラッシュピーコック。鳥系孔雀型魔獣。オースティア王国が存在する西大陸には生育せず、東大陸に存在するクジヤーク王国にのみ生息する。雌雄の差が大きい魔獣で、派手な見た目のオスの素材は光属性の素材として、地味な見た目のメスの素材は闇属性の素材として優れている。雄の飾り羽は芸術品としても名高い』

 フラッシュピーコック、オース山で俺とメルトレスたちを襲った魔獣の名前である。

 説明文の脇に記されている絵には、冒頭の説明文通りに同種の生物とは思えない程に外見が異なる雌雄一対の鳥が描かれている。

 ただ、文の何処を見ても金属性の意思魔法を使うとは書かれていなかった。

 やはり、オース山で俺とメルトレスたちを襲ってきたあの個体は、学園長たちの言うとおり特殊な個体であったらしい。


『ドラゴン。全ての魔獣の頂点に立つとされる強大な魔獣。個体ごとに異なる属性を有しているため、どの属性の紋章魔法の素材に適しているかは、その個体が使う属性に準拠する。ただ、どの属性の個体であっても全身あらゆる部位が優れた紋章魔法の素材になる事は確かである。尤も、ドラゴンを倒すのにドラゴンの素材から作った武器と紋章魔法が必要になると言われるほどに強力な存在であることを忘れてはいけない』

 ドラゴン、こちらも俺とはある意味では因縁の相手だろう。

 十年前のあの忌まわしい出来事で俺と爺ちゃんを襲ったのは、ただのドラゴンではなく、その強大さと属性から闇天竜ディンプルドラゴンと言う個体名を付けられたドラゴンだが。

 それにしてもドラゴンを倒すのに、ドラゴンから作った武器と紋章魔法が必要と言われるほどに強大……か、果たして俺の中にあるらしいあの獣の力は、ドラゴンに対して有効なほどの力なのだろうか?

 いや、そんな疑問は今抱いても仕方がないか。

 そんな疑問はあの力を制御できるように……最低でも守るべきものを傷つけないようになってから悩むべき問題だ。

 今は考えるだけ無駄な話だ。


「ん?あれ?ああ、これもそうだったのか」

 と、そうして少々悩みつつも本来の目的である闇属性と妖属性の紋章魔法の素材を再び探し始めた時だった。

 俺の目に一つの素材の名前が入ってくる。


 素材の名前は……ベグブレッサー。


 今の俺の(相棒)である魔具弓の素材にも使われている材木の名前だった。

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