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第33話「護衛任務-2」

「まず第一として、基本的に山の中では俺の指示に従って行動してください。質問や反論は受け付けますが、最終的にはまず間違いなく従ってもらう事になるでしょう」

 俺の言葉に三人が小さく頷く。

 これは熟練者と初心者が共に山に入る上で、最も基本的で絶対的なルールと言っていい。

 このルールを守らなければ……命を落とす確率は飛躍的に高まる事だろう。

 熟練者も初心者もだ。


「ただ皆様も知っての通り、狩人としてはともかく、オース山については俺も熟練者とはまだ言い切れない程度です。なので疑問や不安に思うことなどがあれば、気兼ねなく俺に話してください」

 本音を言えば、狩人としても俺はまだいっぱしのレベルであり、山の中で他人を自信を持って連れて歩けるような人間だと思っていない。

 が、この事を口に出しても彼女たちを不安にさせるだけだと俺は判断し、その点については口を噤む。


「そしてその上で一つ絶対の決め事をしておきます」

「絶対の決め事……ですか?」

 だが、これだけは彼女たちの安全のためにも絶対に言っておくべきだろう。


「俺が『コード2』と発した場合には、その時点で自分たちの命を最優先にして行動をし、必ず下山してください。俺がどんな状況にあってでもです」

「そんな……」

「受け入れられないなら、今日の活動はなしです」

 それは万が一の事態に陥った時、自分たちが生き延びることを最優先にするための指示。

 あってはならない事態だと理解はしているが、あってはならないと言って、対策しておかないわけにはいかない部分の話である。


「分かりました」

「はい」

 ゲルドとイニムの二人は、メルトレスの護衛と言う立場もあって、俺の提案を躊躇いなく受け入れてくれる。


「……」

「姫様」

「分かり……ました」

 そしてメルトレスも、渋々と言った様子だが、何とか受け入れてくれる。

 ただこの分だと、万が一その時が来てしまった時に不安が残る。

 なので、後でゲルドとイニムの二人には念押ししておくとしよう。


「では続けて……」

 その後、幾つかのルールを確認した俺たちは次に装備の確認に移る。


「食料は全員二日分、その他装備品も問題なし。と」

「食料が二日分なのは、万が一に備えて。ですね」

「その通りです。道に迷って山を降りられなくなる。と言う可能性もゼロではありませんから。夜までに帰らなければ、それだけで救助隊は出されるでしょうが、それでも予備の食料は必須です」

 まず基本的な登山の装備の確認だが、こちらについては全員問題なしだった。

 食料は当然の事、ロープや火種、布など、有れば便利な道具まで全員きちんと揃えていたし、服装についても肌の露出を減らし、歩きやすい靴を履いて来ている。

 これならば問題はないだろう。


「次に武器と魔法ですね。俺は武器として弓と山刀を、魔法については火属性用のチョーク、『仄暗い(ディム)』の巻物三本、『ぼやける(ヘイズィー)』紋章を描いた羊皮紙を巻き付けて作った矢を三本用意してあります」

 俺は弓と山刀、それに何時でも取りだして使えるように腰の辺りに付けた三本の巻物と矢を見せる。

 そんな俺の行動に対して、メルトレスたちは特に反応は見せない。

 まあ、当然と言えば当然の話だが、俺はまだこの二つに『発火(イグナイト)』の魔法しか使えず、この事実は、メルトレスたちも周知の事実である。

 なので、彼女たちの反応は当然の物と言えるだろう。


「私はこの剣と盾を扱います。魔法については金、火、地属性の魔法を使いますが、今回は壁または盾を生み出す魔法を持って来ています」

 ゲルドが大きな盾の裏に仕込んだ複数種類の紋章を見せる。

 知識が無い俺には、それが具体的にどのような効果を表す紋章魔法なのかは分からない。

 が、ゲルドの話と申請書類の内容からして、金属性や地属性の壁や盾を作り出す防御用の魔法なのだろう。


「私は魔法専門ですね。風、地、雷属性を専門的に学んでいます。捕縛、防御、補助、様々な系統を持ち込んでいます。詳しくは申請書類に書いてある通りですが……そうですね。『鉄芯(ラジオ)共振(トランス)』についてはここで話しておこうと思います」

 イニムが俺に杖を……よく見れば何十枚と言う紙を張り付けて固めたと思しきそれを俺に示しつつ、『鉄芯共振』と言う紋章魔法について説明をしてくれる。

 で、その説明によれば、『鉄芯共振』と言う紋章魔法は、発動することによって対にした物体を震わせる事が出来る魔法であり、イニムのそれは緊急時の連絡用として学園長向けの物と王城向けの物が用意してあるそうだ。

 つまり、イニムがこの魔法を発動させるだけで、緊急事態が発生したと学園長たちに伝えられると言う事である。

 なるほど、確かに重要な魔法である。


「最後は私ですね。武器はこのサーベルです。魔法についてはどの属性の魔法も学んでいますが、今回は地属性と金属性の防御に属する魔法を持って来ています」

 メルトレスはそう言うと、腰に提げたサーベルと、その持ち手の柄に付けられた飾りによく似た筒を腰のベルト内に何本も収納しているのを見せてくる。

 もしかしなくても筒の中に何かしらの魔具が仕込まれていると言う事なのだろう。


「では最後にもう一度確認を、今回の目的は?」

「オース山の探索です」

「魔獣に遭遇した場合は?」

「相手が仕掛けてこない限りは何もしない。ですよね」

「『コード2』は?」

「即時撤退……です」

「よろしい、では出発しましょう」

 そうして最後の確認を済ませた俺たちは、夜明けと共にオース山を覆う森の中へと入って行った。

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