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第10話「用務員試験-5」

「学園長」

「おおっ、ゴーリか。どうしたんじゃ?」

 ティタンの近くから離れたゴーリは、ジニアス学園長の姿を宴で騒ぐ人々の中から見つけ出すと、声をかけてからゆっくりと近づく。

 それに対してジニアス学園長は、ニクロムソンが浸け込まれた酒瓶を示しつつ、笑顔で招きよせる。


「ティタンの件について少し話があります」

「ふむ」

 近くの席に座ったゴーリの言葉に、ジニアス学園長は周囲の席に座っている他の教職員達に視線を飛ばし、この場に来ている一部の生徒に聞かれないように他の教職員には注意を払ってもらう。

 これから先の話には、個人的な情報が含まれたり、生徒たちに漏れると要らない反感を買う可能性が存在するためである。


「で、話と言うのは、彼が学びたいかどうかじゃな。何と言っておった?」

「『機会があれば学びたい』だそうです」

「ふむ、それは良い返事じゃな」

 ゴーリの言葉にジニアス学園長の顔に笑みが宿る。


「ええ、なので明日にでも職員登録ついでに適性検査をやらせますが、問題はありませんね」

「うむ、適性検査については出来るだけ早めにやっておいた方がいいし、それでいいじゃろう。まあ、明日の時点では属性の適性しか計れんじゃろうが」

「俺たちの自己紹介を聞いた時の様子を見る限り、殆ど紋章魔法については学んでいないようですし、それは仕方がない事でしょう」

「知識がないのは仕方がないの。少々特殊な環境に置かれていたようじゃしな」

 二人はティタンの推薦状の中身を思い出しつつ、今後どのような順番で仕事を覚えさせ、どこに空き時間を作るかを詰めていく。

 そして、空き時間にどうやって知識を与えるかも話し合っていく。


「で、ゴーリよ。彼の狩人としての実力はどうじゃ?」

「エスケーピッドを弓矢だけで仕留められる腕に、危険と判断したら迷わず引き返せる精神、何が紋章魔法の素材として使えるかという知識、本人はやっと自活できる程度の腕前だと言っていますが、間違いなく狩人としては一流の分類でしょう」

「なるほどのう。あ、彼が自分の実力を低く見積もっているのは、上が居るからじゃ。彼の祖父は結構な有名人じゃからな」

「なるほど」

 ティタンの狩人としての腕前について話が及ぶと、周囲の教職員からは感嘆の声が漏れてくる。

 だがそれも当然の事だろう。

 ゴーリの話から考えれば、ティタンは狩人としての腕、精神、知識を18と言う若さで、十分な量蓄えている事になるのだから。

 そして、この世界の事実として、矢より速く走れると言われるエスケーピッドを弓矢だけで仕留められるような狩人は、百人に一人居るか居ないかと言う次元である。


「精神の方はどうじゃ?」

「真面目過ぎますね」

「先程とは打って変って、手厳しいのう」

「ただの事実です」

 続いて、話題はティタンの精神性に移る。


「山で得た物を全て出せと言われて、採点対象にならないジャッジベリーまで出しちまう程度には真面目ですからね。頭で考えている事の一割か二割ぐらいしか口に出していなさそうな事含め、相手がそれを知っているか、何かしらの改善策をアイツに施さないと、その内何かしらのトラブルは招くでしょう」

「そうなったらそうなったで、儂らが何とかすれば良い事じゃと思うが……」

「……」

「分っとるわい。冗談じゃ冗談。普通に行けば先に死ぬのは年寄りである儂らじゃもんな」

「まあ、正直に言って学園長は後四十年ぐらいピンピンしていてもおかしくなさそうな感じですけどね」

 ゴーリの言葉に周囲の教職員からは同意するような頷きが返ってくる。


「ふぉっふぉっふぉっ、案外突然ぽっくり逝くかもしれんぞ。儂だってもう60じゃし」

 そしてジニアス学園長に対しては、『絶対にないから』という視線がゴーリ含めて全員から無言で送られる。

 なお、この世界の人間の平均寿命は、地域や地位にもよるが、だいたい50から60程度である。


「さて、ティタン自身についての話はここまでにしておくとして、一つ学園長と皆様に報告しておく事と頼みたい事がございます」

「……。聞こう」

 と、これまで以上に真剣な表情で、ゴーリが話を切り出す。

 そしてそれに合わせるように、学園長も、周囲に座っている教職員達も、周囲の楽しげな雰囲気から隔絶され、まるで酒など一滴も入っていないような真剣な表情をする。


「試験中の話ですが、ティタンが金属同士を打ち合わせるような音を聞いています」

「「「……」」」

 ゴーリの言葉にジニアス学園長たちは揃って考え込むような表情を見せる。


「……。順当に考えれば、キリツキがアイアーの幹に穴を開けようとした。と言う所ですかね」

「俺もその可能性はあると考え、ティタンにもそう言って誤魔化しました」

「ふむ、そう言うからには、ゴーリ班長は別の可能性もあると見ているわけか」

「どうにも話を聞いていると、キリツキとは思えなかったもので。故に皆様に相談しています」

「後有り得る別の可能性は……密猟者ならまだマシですな」

「最悪のパターンは何処か別の地域から、凶悪な魔獣が流れ込んできたと言うパターンですな。種類によっては山が荒れるだけでは済まない」

「ふむ、入学式まで二週間、四年生以上の生徒たちに山へ立ち入る許可を出すまで三週間。急いで確認するべき事案じゃな」

 ジニアス学園長たちは素早くあらゆる可能性を考えると、それぞれの可能性に対して必要な対策を話し合っておく。

 既に彼らは完全に酔いから冷めていた。


「ふむ、ゴーリよ。明日ティタンの適性検査が行われている間に、お主はソウソーと探知を得意とする職員を連れて、音の出所の周囲と、境界の確認に向かってくれ。まずは正確な状況の把握が必要じゃ」

「分かりました。明日朝一で行動を開始します」

 その姿は、国一番の学園に務める職員の名に相応しい姿と言う他なかった。

その内本編でも描写するかもしれませんが一応


学園長:60歳

ゴーリ:42歳(20歳になる娘もいる)

クリム:36歳

ソウソー:28歳

ティタン:18歳


となっております。


01/08誤字訂正

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