友と戦友と、滲む世界に讃美歌を
※視点変更がございます。ご注意ください。
てんどんモンスター→ライチ
――――
【残り十秒です】
その文字が見えた途端、てんどんモンスターは絶望した。またなのか、と。また俺は何も出来ずに見ているだけなのか、と。
RTAに放った弓矢は殆ど見切られ、ようやく当てた一発はスキルも何も使っていなかったせいでダメージが足りず、彼女を倒すに至れなかった。そのせいで今、こんな状況になっている。俺が彼女を仕留められてさえいれば、こんな事にはならなかった筈なのに。
手に残った弓につがえる矢は、もう無い。インベントリにストックしておいた矢も切れた。残ったMPはたったの10。スキルの使いすぎで底をついていた。出来ることと言えば、スキルの『弓矢作成』でなけなしのMPを一本の矢に変えるだけ。
それをしてしまえば、今度は射撃系のスキルが一切使えない。矢へのエンチャントも、射撃のモーションを補助するスキルも使えない。モーション補助が無ければ、俺が放つ矢は真っ直ぐには飛ばないだろう。
つまるところ、完全な補助無しの偏差撃ちを決めなければならない。仮に、残り数秒の内に弓矢を作成して高速で動いているあの剣士にクイックショットじみた速度で狙いを定め、運良く当てられたとしても……それでは威力が足りないのだ。
もし、この状況で何かが出来るとするのならば――足りない威力を補うために、致命の一射を狙う他に無い。
首から上に矢を命中させた時にのみ発生する、威力のかさ増しと、強制的なノックバック。それを、それをこの場で狙うのは――
(無理、だろ……!)
当てられる気がしない。見据える剣士の頭は、小指の爪先程だ。何より、スキルの補助が一切無いのは致命的にも程があった。本能が、何より俺自身がそれを不可能と判断してしまった。
MPが足りない、技量が足りない……そして、力が足りない。
俺がどれだけ足掻こうと、たった十秒で何ができる?
加速した世界のなかで、黒の剣士が武器をコアに叩きつけようとしている。誰もそれを止めるどころか、反応すら間に合っていない。
俺には何もかもが足りていなかった。身体中ボロボロで、立っているのがやっとで、気を抜いてしまえば今にも眠りに陥るような状態だった。だからただ、奥歯を噛み締めて誰かがどうにかしてくれるのを待っているしか――
「――『弓矢作成』」
自分の声だった。酷く強張って、震えた声だ。ぐっと体の底から力が抜けて、代わりに俺の右手には、一本の矢があった。
俺が、無意識に矢を? いや、違う……違うだろ。無意識なんかじゃない。俺が、俺が動いてるんだ。
無理だって分かってるのに、出来るはずがないのに、俺が。
矢を握って、滑らかに弓へ番える。背筋を伸ばして、目を見開いて、鏃を空へ掲げた。何度も、何度も練習した動きだった。俺はレベルが低くて、スキルの補助を掛けるとすぐにMPが切れるから、それでも戦えるように練習をしていたんだ。
剣士の頭を狙う鏃が、震えて定まらない。とてもではないが、当てられる気がしない。この矢が、まっすぐに飛んでくれるとは思えない。けれども。
『例え、力が無くたって……いいんだよ』
『力が無くても……諦めないってことは、誰にだってできるはずだろう?』
俺の中に、確かに燃えている物があった。狙いが定まらない。当てられる予想が固まらない。けれども俺は、力一杯、矢を引き絞った。
俺には、当てられない。俺には出来ない。それは分かっている。だから、その上で狙うのだ。当てれないと分かっていても、無理矢理に、必死に。
原動力は、心の薪は、たった一つ。狂おしいほどの、一つの熱。
無理だろうが、なんだろうが――このまま突っ立ってなんて、いられないだろ!!
狙え、狙え、狙え。当てろ当てろ当てろ。溢れ出る熱と、本能と、これまでの覚悟をたった一発だけに込めて……叫んだ。
「撃ち落とすッ!!」
一瞬だけ見えた、剣士のこめかみ。柔らかな表情。それらに重なった鏃をほんの少しずらして、握っていた右手を離した。
白い世界を穿つように、一本の矢が飛んでいく。それと共に、俺の体が発射の反動に耐えきれず後ろにぶっ飛んだ。不格好に地面を転がって、花弁と土をいっぱいに被って、それでも俺は地面に爪を立てて顔を上げる。
幻想的で絵本に出てくるような世界に、地味な矢が一つ、まっすぐに飛んでいき――その先に居た黒の剣士のこめかみを、寸分違わず撃ち抜いた。
弓矢を受けた黒の剣士が大きく呻いて横殴りに吹っ飛ばされるのを見て、俺はあ然とした。眼の前の光景を真剣に疑って……はは、と笑ってしまった。
「マジ、かよ」
なんで当たったんだ? いや、夢か? 今撃ったのって俺か?
困惑が困惑を呼んで、答えなどあるはずもない問いがぐるぐると回った。そうしてただ、笑顔と一つの言葉だけが残った。
「はは、全然、わっかんねぇ……」
―――――
「っそだろ!? ……カハッ!」
目の前のコアに刃を突き立てんとしていた晴人の体が横殴りに吹っ飛ばされる。あまりの出来事に弓矢の飛んできた方角を見つめると、そこには満足げな笑顔を浮かべて倒れ込むてんどんの姿があった。
晴人の体は弧を描いて空を舞い、受け身もとれずに地面に叩きつけられた。カランカラン、と晴人の双剣が地面に落ちる音がした。ド派手に花弁を散らして、晴人が地面を何度も跳ねて、止まる。
戦場に、一瞬だけ静けさが訪れた。何も聞こえない静寂が顔を出し、そして去っていく。システムがリーン、と鈴の音色を鳴らした。
【イベント残り時間:00:00:00】
【イベントの終了を確認しました】
【コアの残りHP:44%】
【大隊長:欠員なし】
【一般プレイヤー:生存者あり】
【……すべての条件を満たした為、魔物陣営の勝利となります】
【Variant rhetoric第一回イベント『Choice you make』を終了します】
【プレイヤーの皆様はメニューから『移動』を選択することにより、イベントエリアから移動が可能です】
【強制移動を行う五分後までイベントエリアに滞在できますが、全ての攻撃的行動はシステムによりロックされています】
【各種ランキングは本日の正午に公式ホームページに掲載されます。ご確認ください】
【『厭世』は青の奥で呟いた】
【期待外れだ】
【世界は一つの区切りを迎える】
【……お疲れさまでした】
「おわ……った……?」
誰かの声が聞こえた。かすれるような、ひび割れた声。数多の戦いの先で、圧倒的な敵を打ち倒した先で……俺達魔物は、確かに勝利を手にいれた。
「やったぁぁぁぁぁ!!!」
「オーワン、うるさい……でも、嬉しい。最高」
「勝った勝った勝った!! スクショしたい! この瞬間をスクショしたいよ!」
「勝てた……勝てたんだ……!」
「まあ、当然の結果ね……ええ、最高の気分よ。今にでもそこらを走り回って馬鹿みたいに叫びたいくらいには」
「五月蝿くて目が醒めた……と思ったけど、いや、これ夢じゃないよな?」
オーワンは全力で叫んで空に向けて祝砲代わりにクモの糸を吐いた。
沙羅は殆ど無表情だった顔に爽やかな笑みを見せて笑っていた。
シエラは疲労はどこへいったのか、GG!と叫びながら何度もブリンクを繰り返し、天に昇っていった。
コスタは鎧の両手をぎゅっ、と握りしめて噛み締めるように勝利を確認した。
カルナはいつもの微笑を浮かべながら、身体中が喜びに強ばっていた。
地面に寝そべっていたてんどんモンスターはプレイトゥースとクトゥルーに胴上げされながら朗らかに笑った。
ヒトデはオーワンの糸に合わせて空に向けて雷魔法をうちながら跳び跳ねていた。
カタツムリは喜びを体現するように、のっぺりとした頭を激しく上下に振って喜んでいた。
三分料理は見るも見事な演舞を披露して喜びを爆発させていた。
Fは相変わらず無言だったが、くるくると嬉しそうにその場で回っていた。
飛び出す板イタチは、空に向けて両腕をつき出してガッツポーズをしていた。
俺はといえば、精神的にも肉体的にも疲れきって、頭がまるで回っていなかった。だから、喜び走り回るみんなを眺めながら、何度か息を整えて一言。
「ああ、俺……勝ったのか」
言葉に対して実感が遅れている。それが俺の心に追いつくよりも早く、棒立ちの俺の周りに全員が殺到した。勝ったんですよとか、夢みたいですとか、耳が痛くなるくらい楽しそうに叫んでくれた。
その光景を見て、やっと実感が追いついた。やってやったのだ、俺達は。勝ったのだ、人に。これだけ追い詰められ、馬鹿にされ、迫害され、それでも俺達は勝ったのだ。
騒がしい空気に馬鹿みたいな笑顔が浮かんできて、久々に、子供みたいな大笑いをした。
戦いに勝利した大隊長達は、それぞれ互いのプレイヤーIDを教えあって、フレンド登録をしていた。取り敢えず彼らに俺のIDを教えて、一先ず離れる。俺達に与えられたウイニングランの時間は五分。その間に、どうしても話したい相手がいた。
……晴人だ。
花を掻き分け、踏みしめて、晴人を探す。俺の目線が高いのと、全身が黒いという特徴が相まって、それほど苦労せず晴人が見つかった。彼は地面に大の字で寝そべって、空を見上げていた。その瞳は眠そうに半開きで、片手には引き抜いたのであろう弓矢が握られていた。
「……黒剣士」
「……周りに誰も居ないっぽいし、晴人でいいぜシンジ」
起き上がる体力すら残っていないのであろう。晴人は寝そべったまま、笑って言った。周りに誰も居ないことを確認して頷く。
「まあ、何だ……おめでとう?」
「祝福に感謝するよ」
「……どうして俺の所に来たんだ? シンジの事だから、負けた俺を煽るとかじゃないと思うんだけど」
心底疑問そうに、晴人は聞いてきた。そうだな……どうして、か。どう答えたものかよくわからないから、正直にそのまま答えよう。
「晴人に伝えたいことがあってな」
「お? なんだいなんだい? 俺にお褒めの言葉の一つでもくれるのか? それとも最後に俺と語らおうって――」
「本当に楽しかった。晴人のお陰で、このゲームに出会えて、晴人のお陰で、今この瞬間が堪らなく楽しいんだ。だから――」
――本当に、ありがとう。
感謝の五文字は単純だ。小難しい小論文で感謝を伝えなくてもいい。たった五文字、それだけで人は相手に対して感謝を伝えられるんだから。
晴人のお陰で、俺は普段やらないVRMMOに手を出せた。ロードと出会えた。そして今の、この堪らないほどの感動を味わえた。それらすべてが、大本をたどれば彼に行き着くのだ。だから、その彼に対して感謝を伝えるのは至極当然といえるはずだ。
俺の言葉を受け取った晴人は、最初はいつものにやついた顔で、次に少し間をおいて真顔……最後には酷く泣きそうな顔をした。晴人の目に涙が浮いた所など、今までに見たことが無くて、非常にどぎまぎする。
「……お前、ズルいわ」
「何が……?」
「そういうとこ、全部含めてだよ。はっきりとありがとうって言えるとこだ。そんでもってそれが当たり前だと思ってるところ……全部、ずるいぜ」
晴人の端正な顔が歪む。何とか笑顔を浮かべようとしているようだが、それは笑顔としての体をなしておらず、直ぐに泣きそうな顔に戻った。晴人の息が酷く荒い。泣きそうなのだろうか。
「俺さ……はっきり言っちゃうとさ、強すぎるだろ?」
無言で頷いた。晴人のプレイは完全に常人を逸脱していた。眠気に囚われてもそれは殆ど衰えず、圧倒的な才能と技量で、全てのプレイヤー……勿論俺すらも、結局技術では追い付けないほどだった。
「だからさ……誰かとゲームしても、直ぐに相手が逃げちゃうんだわ……。お前、強すぎ。手加減しろよ。ゲームにマジになっちゃってんの?ってさ」
晴人らしからぬ、気弱な声だった。晴人が無理矢理いつもの、少しおどけた風体を醸し出そうとしても、僅かに涙ぐんだ声がそれを崩していた。
「俺は、相手がどんだけ弱くても楽しいのに、みんなみんな……ゲームの中だってそうだ。全員俺から離れてく。手加減なんて、俺が死ぬほど嫌いなことなんだ。したらゲームと相手を馬鹿にしてるのと同じだし……そもそもそれじゃあ、俺がゲームをやる意味が無い」
「……」
「だから誰も彼も、俺と一緒に遊んでくれなかった。どいつもこいつも、どれだけ俺に笑顔で近づいて、大好きなゲームを一緒にやると離れてくんだ。勿論、ゲームを通じない関係なら友達は居るけどさ……でも、そいつらが見てるのは俺の『外側』だけなんだよ」
ゲームの中と外の晴人は全く違う。全力を尽くした駆け引きを楽しみ、命をかけた戦いを何より愛する戦闘狂の『プレイヤー』と、フィジカルエリートで品行方正、誰にでも優しくて王子様みたいなルックスの完璧超人では、全く異なるのだ。ゲームの中でRTAのようなプレイヤーに出会えても、そんなプレイヤーと会話できるのは結局ゲームの中だけで、どれだけ突き詰めても友達程度にしかなれない。
泣きそうな声で、晴人は続けた。
「そんな中、シンジと出会ったんだ。初めてだったよ……初日に遊んだ後、次の日に『もう一度やろうぜ』って言ってきたのは……お前だけだったんだ」
「確か、DoS2だったっけ? ……いきなりゲームしようぜ! って言ってきたときはこいつ大丈夫かな? って思ったよ」
「……はは」
入学から数ヶ月、だんだん固まっていくクラスカーストの頂点に位置していた晴人が、一人で本を読んでいた俺に声を掛けてきた。
『なぁ! 噂だと、東堂ってゲームめっちゃ好きなんだろ?』
『まあ、そうだけど……どうしたの? いきなり』
『放課後俺んちでゲームしようぜ! DoS2分かるか?』
『え、は? ……いや、分かるけど……俺前作ならまだしも2はソフト持ってないぞ』
『なら決定だ! 放課後案内してやるぜ! ソフトは俺に任せろ! 買うときに間違えて二個ポチった!』
『えー……』
案の定ずったずたのぼっこぼこにされた。それはもう本当の本当に、画面越しでも自キャラを見ていられないほどのボコられっぷりだった。前作ではかなりやり込んで自信があるゲームだったこともあり、思いっきり萎えた……が、同時に思ったのだ。
――ムッカつくなぁ……楽しそうに人をボコりやがって。こいつのにやけ面、絶対に歪めてやる。
始まりは怒りと、黒い復讐心だった。次の日、『次はFFfな。俺の家で集合』と言った時の晴人の顔といったら……それはそれは見応えのある間抜け面だった。やり込んでるゲームのセーブデータが消えたときって、多分ああいう顔をしてるんだろうな。
「本当に、お前だけだったんだ。俺と遊んで楽しいって言ってくれるのは。本当の、本気の俺を見て、それでも笑って付き合ってくれるやつは……シンジだけなんだ」
つまったような呼吸をしながら、晴人は言った。その顔は不格好な笑顔で彩られていて、涙に濡れる目元と歯を剥いて笑う口元が、酷くアンバランスに見えた。
俺は今、何を言うべきか。……それは、俺が一番わかっている。
「……だって、俺らは親友ってやつだろ? 一緒に遊ぶのは、当たり前じゃないか」
「……おい」
「俺は、最初にお前の家でゲームをしたときから、晴人の事を友達だと思ってるからな」
「……本当に……お前……っ!」
晴人の涙腺が崩壊した。本当のことだ。確かにムカついたり、割合本気に悲しくなったりしたが、同じゲームを隣で同じコントローラーを握ってプレイしたのだ。結果はどうであれ、そこまでいけば友達だろう。友達の遊びに付き合うのは当たり前のことだ。友達のまま一年半も遊びに付き合ってたら、流石に親友と誇っても……許してくれるよな?
晴人は大粒の涙を両目からこぼしていた。嗚咽で体を大きく震わせていた。震える喉で、唇で、晴人は涙色の声を紡いだ。
「これからも、俺と……遊んでくれるか?」
「勿論。そこそこ長い付き合いだからな。お前の理不尽さには慣れたよ」
「ああ……あぁ……俺、今……最高に楽しいわ。最高に――嬉しい」
「なら、良かったよ」
にっこりと笑って言った。晴人も嗚咽の合間にはは、と笑って、俺に向かって拳をつきだした。
「取り敢えず……今回はお前の勝ちだ。――次は負けないぜ」
「この調子で次も勝ってやるよ」
ゆっくりと俺は鎧の籠手を外して本体の拳を握り、片膝を地面に付けて、晴人の拳と軽く触れさせた。
「……ありがとな、親友」
「楽しかったぜ、親友。……だから、もう寝ても大丈夫だ。起きたらまた学校で馬鹿みたいに騒ごう。アホみたいに笑って……またゲームをしようぜ」
「……ああ……」
晴人の瞳がゆっくりと閉じられ、突き出した拳が地面に落ちた。銀月草の香りの中で、これだけ長く居座っていたのだ。寝ても不思議ではない。最後に閉じられた瞳の目尻から、一滴の涙が溢れて、地面に散っていた銀月草の花弁に触れた。
ゆっくりと籠手を拾って眠りに入った晴人を見つめる。
「確か、銀月草の香りには……嗅いだ奴に最高の夢を見せてくれる効果があるんだよな……」
ゲームの中で、プレイヤーが眠るとどうなるかはわからない。もしかしたらフレーバーテキストで、全く夢など見ないのかもしれない。けれど、そういうのは信じたほうが何かと人生楽しいだろう。寝息を立てる晴人に小さく一礼して、呟く。眠りを醒まさぬよう、夢を邪魔しないよう、俺だけに聞こえる音量で。
「お休み、親友。……いい夢を」
晴人に背を向けて、大隊長達を探すと、全員空気を読んでくれたのか静かに俺を見つめている。ゆっくりと彼らに向けて歩いた。
「すまないな……本来ならどんちゃん騒ぎで良いんだが……」
「いえいえ、みんな大丈夫だって言ってましたよ。カルナさんが『出来れば静かにしてあげて欲しいの』って――」
「オーワンさん? それは言わないようにって言いましたよね?」
「ひぃ……すす、すみません」
「はぁ……」
恥ずかしさからか、俺に背を向けて頭を抱えるカルナの肩を叩いて、ありがとな、と言った。するとカルナは吹っ切れたのか、赤い髪を揺らして俺に振り返り、小さく笑った。
「お安い御用ってやつよ」
にこりと笑い返して、俺は辺りを見回した。
晴れやかな蒼穹、目を奪う銀月、揺れる銀月草。そして、全身ボロボロでニコニコと笑い、肩を組み合って互いを労い合う大隊長とシエラ、コスタ達。
本当に、本当に……最高すぎる光景だよ。
無意識に、俺の口が言葉を紡いだ。
「ありがとう、みんな。本当に……ありがとう。いつか、また……何処かで会おうな」
「はい!」
「うん!」
「……勿論」
「みんなに会えるように頑張るよ」
「会ったときの為の話の種を考えておくよ」
「世界は意外に狭いもの。歩き続けていれば、きっと何処かで会えるわよ」
彼らとの別れは、胸が引き裂かれるほど辛い。このゲームは意志疎通の手段があまりにも少ないから、一度はぐれればまた全員が集まるのは難しいだろう。けれど、掲示板等を使って会話をすることは出来るはずだ。だから、きっと……どこかで、俺達は巡り会えるだろう。
「さようなら。また会う日まで」
俺のこの言葉を最後に、世界が一気に暗転し、長い長いイベントは終わりを迎えた。
【五分が経過しました】
【イベントエリア内のプレイヤーの強制移動を行います】
【本当に……お疲れ様でした】
「どうせ地球は丸いんだ。またそのうちどっかで会えるだろう」
私の大好きな言葉です。