狂い惑いて我は往く
【Variant rhetoricにログインします】
学校帰りに日課を済ませてログインすると、今日は俺より先にシエラがログインしていた。
「ライチ、今日はコスタが来れないよー。どうやら誰かと約束してたみたいでねー。……私は色恋の匂いを感じるよ」
「そうか、わかった」
うへへ、ついにコスタに春が……とシエラはテンションが上がっている様子だ。普通に面倒事の約束だった場合、変な勘繰りをされているコスタが可哀想になる。もしかしたら本当にそういうことかもしれないが。
カルナが来るまで暇なので、ステータスを開いてスキルの類いを確認し、装備を一部一部点検していると、興味深そうにシエラがこちらを見つめていた。
「……珍しいか?」
「あ、いや……うん。私、装備一個もつけられないからさぁ」
「種族のせいだな」
「カッコいい装備を一つもつけられないし、装備の追加効果とかも全然受けられないから、ちょっと羨ましい」
シエラのプレイスタイル的に鎧は無用だし、何なら貫通するだろう。もしつけられるとしたら本当にバランス崩壊ものなので妥当だ。だが、やはり妥当だからと割りきれるものでも無いのだろう。ゲームの中で鎧や軽装を着けてお洒落をしてみたい、という気持ちのある人からすればかなりきついかもしれない。
まじまじと鎧を見つめるシエラに、少し気恥ずかしさを覚えていると、後ろから物音がしてカルナが出てきた。
「カルナー、今日はコスタが来れないよー」
「あら、そう。余計な詮索はしないでおくわね?」
「聞かれても私じゃ答えられないけどねー」
シエラはいたずらっぽく笑った。取り敢えずコスタを抜いた三人が揃ったので、今日の目標を伝える。
「今日の目標は……連携確認だ。シエラとコスタは十分に育った。でも俺たちと組み合わせたときに違和感が出るか出ないかが分からない」
「あなた達の戦い方ってかなり緻密だし、私達が入ったらかなり戦い方が変わると思うわ。まずシエラとコスタがあんなに必死に回避しなくても、ライチが殆ど止めてくれるでしょうし、私の動き方は雑だから違和感が出るかもしれないわよ」
「なるほどー……それってコスタ居ないのかなり問題じゃない?」
「……まあ、明日のイベント直前に最終調整すればなんとかなると思う」
正直イベント前日にログイン出来ないのはかなり痛いが、リアルと辻褄が合わないのならしょうがない。ゲームは結局ゲーム。リアルを侵食することなどあってはならないのだ。
取り敢えず、俺ら三人の連携をまず進めていこう。俺が呪術使ったらその時点で戦闘が終わるし、カルナも本気を出したら敵が一発で沈むので、そこら辺は手加減をしておく。シエラの火力があれば心配はないだろう。
「さて、行くかー」
「了解ー!」
元気の良いシエラの声とともに三人で敵を求めて歩きだした。この森はフィールド全体が敵の生息地帯だから、少し歩けば敵に出会う。昨日はシエラとコスタが暴れすぎて周りのモンスターが枯渇しかけていたが、あれから1日経っているのでモンスターはちゃんと湧いてくれる。
「前から熊一匹……じゃねえな。二匹」
「つがいかしらね?」
「カップルには制裁をー!」
カルナのつがい発言でシエラは急速にやる気を滾らせていた。男女関係で何かあったのだろうか? そこら辺を詮索するのはかなりネチケットに反する行為なので飲み込んで前を向く。
相手のボマーグリズリーもこちらに気付いたようで、二匹合わせてこちらに咆哮を上げた。重厚な足音が二つ重なって響く。
「さて、俺はヘイト引き受けるから二人は前に出すぎないように暴れてくれ」
「つまり、いつも通りね」
「わかったよ」
久々の戦闘に心の臓が高鳴る。緊張とかではなく、純粋な臨戦態勢だ。ヘイトアップを使って二匹の熊を挑発し、各種バフを掛けていく。
「『フォートレス』、『ディフェンススタンス』……行くぞ!」
ヘイトの高まったボマーグリズリーの片割れが唸りながら拳を振り下ろす。途端に暗闇に散った火薬が熱を持ち、叩きつけられると共に爆発した。そこそこ重い衝撃と強い風に苦い顔になるが、体の芯はぶれない。俺が止めたボマーグリズリーの方に後方から魔法がとんだ。
「『血染めの一閃』!」
「ナイス!」
俺に当たらないように敵に直接当たる血染めの一閃を選択したシエラに賛賞を送る。無視できないダメージを受けたボマーグリズリーが苦悶の声を上げて、大きく後ろに下がる。カルナが俺の後ろから地面を砕くほど強く一歩踏み込み、長いリーチを生かしたストレートをボマーグリズリーに撃ち放った。
追撃を食らったボマーグリズリーの頭部にきれいに吸い込まれた一撃は、圧倒的なステータスを以てボマーグリズリーの頭部を砕き散らした。
……おい、手加減はどうした。リボルバーの弾を撃ち込まれたスイカみたいに熊の頭が吹っ飛んだぞ。俺の咎めるような視線に、カルナが気まずそうな顔をした。加減をミスったか……。まあ、幸いもう一体ボマーグリズリーはいる。そいつを……っ!
「『カバー』!……っぶねぇ!」
「早めに仕留めるね!『ヘルゲート』!」
もう一匹のボマーグリズリーがカルナに背中から殴りかかっていた。慌ててカバーを掛けて攻撃を防ぐが、不安定な体勢だったので、大きく後ろに吹っ飛ばされた。近くの樹木に背中側から叩きつけられて、ド派手な音がなる。幸い、ダメージは殆どなかったので良かったが、まだ戦闘は続行中だ。急いで体勢を立て直し、戦線に復帰しなければ――
「うっそだろ……何そのえげつない魔法」
「高位闇魔法レベル1で覚えるやつだよ。ブラックホールみたいだね」
何でもないことのようにシエラは言っているが、俺の視線の先のボマーグリズリーは、黒い魔方陣が刻まれた地面から現れた沢山の黒い腕に体を拘束されていた。なんとか抵抗を試みているが、シエラのMAGで放たれた魔法にボマーグリズリーが抵抗できるとは思えない。最終的にボマーグリズリーは悲しい雄叫びをあげながら赤黒い光を放つ魔方陣に吸い込まれて消えていった。
空中に浮かんだのは『即死』の二文字。
「抵抗されても少しの間なら敵を止められるから便利だよ」
「敵を即死させる魔法なんてあるのね……」
「状態異常判定っぽいから、抵抗されることはあるだろうが強いな……使う度禁忌とか冒してないか心配だ」
シエラ曰く消費するMPが多いだけでそんなに大きなデメリットも無いらしいが、ビジュアル的にはアウトだ。いつか覚えることになるであろう上級闇魔法のえげつなさに戦慄した。
「何のスキルでも上級行くととんでもなく進化するな……」
「私の解体術は武器がこれだから使うにも使えないけれどね」
「やっぱり武器問題が深刻すぎる……明日イベントなのにパーティーメンバーの半分が素手で戦うことになるとかあり得ないぞ……」
俺とシエラはいいが、コスタとカルナは武器が無いと真価を発揮できない。コスタはどうやら武器が手に入る目処が立ったらしいが、カルナは未だに素手だ。一応武器をアイテムボックスに収用しているらしいが、あの武器では振るえても二、三回が限度だろう。が、本当にこればかりはしょうがない。
「私は今回素手ね……」
「悪いな……どうにかしてやりたいんだが」
「まあ、いいハンデよ」
軽く笑うカルナに頭を下げつつ、俺たちはまた敵を求めて森を歩いた。
――――
次の日、しっかりと取った睡眠のお陰で俺の意識は明晰だ。朝食もしっかり取って、最高のコンディションでこの日を迎えている。VRゲームをプレイする際には体調の良し悪しでその日のアバターの操作感度が変わるというのは有名な話だ。
脳が疲労していれば、当然脳とリンクして仮想現実で行動をするVRゲームで操作に支障が出るのは当たり前だ。
その他にも、体調や精神状態による心身相関もVR世界での行動を大きく形作るらしい。つまり、だ。長々とこんな話をして言いたいことは、俺は今日の戦いに全力を掛けている、ということだ。
「絶対負けたくないな……」
人間側は楽しい楽しいダンジョン攻略イベントで、クランのみんなと一緒にポイント目指してダンジョンコアを目指していただければいい。ただ、絶対にコアには触れさせんぞ。それどころか全員コアの手前で呪い殺してやる。
どんなシステムか、人間側の戦力はどうなのか、魔物陣営は二階から五階層までとの話だが、俺達の配置はどうなるのか、コアのある最下層の間取りはどうなのか。
それら一つ一つの情報の良し悪しによって、俺達の行動や配置は大きく異なる。生産職は地上でホットドッグでも騎士団に振る舞ってろ。地上に手を出すつもりはない。
問題なのがポイントを目的にしたクランが連携して何十人もプレイヤーが固まることになることだ。まとめて数十人を相手するのは、流石に俺でも骨が折れる。
四重捕捉、並列詠唱、時差詠唱を合わせて一斉に吸収と混乱の呪術を撒き散らし、回りの大隊長とともに余った連中をボコボコにする……基本的なプレイスタイルがこれになりそうだ。人間は七万人近いが、リスポーン制限があるので無尽蔵ではない。そこが小さな良心だろうか。
公式サイトを見た限り、ダンジョンの構造は逆ピラミッド型で一階層が一番広く、弱い魔物が散らばっている。同じ層の中でも森だったり迷路だったり、だだっ広い部屋だったりして、それぞれに下の階層に降りる階段がある……階段に罠でも仕掛けてやろうかと思ったが、注釈で『破壊不可能かつ干渉不可能』とかかれていたので、幻覚で階段を普通の地面に見せかけるとかは無理みたいだ。その代わりに階段の出口付近に土魔法で壁を立てて通せんぼをしたり、階段の近くに罠を撒き散らすことは推奨されている。
ダンジョンにはランダムで罠と野良の魔物が配置されており、罠は床が滑りやすい、なんて地味なものからそこを通った瞬間に左右の壁から棘が生えてきて串刺し、なんてえげつないものがある。魔物に関しては、コアの眠る第五階層以外で出現し、下の階層に行くにつれてレベルが上昇し、数が減っていく。
中にはエリアボスクラスとまではいかなくても、そこそこな強さのレアモンスターが要るらしい。……もれなくそれらは倒すことで人間側のポイントになるらしいが。
「これじゃあ優先的に狙われて、貴重な戦力が……うーん」
ダンジョンの野良の魔物は基本的に友好的だが、攻撃すればもちろん反撃してくるし、言うことを汲み取って動いてくれたりはしない。意志疎通ができるタイプだったらチャンスは有るかもしれないが、俺を含めた大隊長がリスポーンし、控えているであろう階層は間違いなく第五階層だ。そこではモンスターはポップしないし、上から連れてくるにも持ち場を離れることになる。その間に大名行列と化したクランプレイヤーが押し掛けてくれば、間違いなくコアを攻められてしまう。
コア自体にはそこそこの耐久が備わっているらしいが、それを有り難いと思う瞬間が来たらそれはもう詰んでいるだろう。
「リスポーンはそれぞれがスポーンした階層にてランダム……大隊長のみ場所固定か」
流石に五階層でランダムだったら頭がおかしい。リスポーンには一定時間かかるらしいが、その時間が何分もしくは何秒かについては記載が無い。……掲示板を使って死んだやつから聞け、と。確かにそれぐらい会話しなければ掲示板の意味がない。
少し掲示板を覗こうかな――
「よーっす、シンジ」
「おはよー……テンション高いな。まあ、今回はその気持ちが分かるから咎めないけど」
「シンジはテンションが後から上がるタイプだもんなぁ」
「そう言う晴人は最初からトップスピードだろ?」
「モチのロン。四暗刻」
「チョンボだ馬鹿野郎」
ニコニコと笑顔を浮かべながら絡んできた晴人を軽くいなす。……そういえば、VR麻雀でこいつに勝負を挑まれたときもあったな。流石の晴人も麻雀では……と思っていたが、最強スキル『勘』と『人読み』でボコボコにされたことを思い出してしまった。
今緊張してるだろ? とか、ここがいい気がする、これは駄目な気がする、とかの読みと勘で乱数さえ捻じ曲げて本当に勝ってしまうのが晴人という人間なのだ。
思い出しでテンションが下がっていく俺に、晴人が腕を組みながら口を開く。
「最初はひたすら情報集めて計画たてて、計算して計算して計算して……最後には俺みたいにテンションがアガるのがシンジだもんな」
「なんか言い方に悪意を感じる……いや、ただ単に語彙力が低いだけか」
晴人に相槌を打ちつつ、イベント掲示板を開く。アサシンのような無音の平行移動で俺の背後をいつの間にか取った晴人から画面を隠しつつ内容を流し読みしていく。
まあ、目線と雰囲気からして覗き見をするつもりはなさそうだが、念の為だ。
「気配と音は消したのになぁ」
「なんで気配とか音が消せるんだよ……てか、気配って何?」
「分かってないなぁ、シンジ。プレイヤーは音で敵を探して四流、殺気で敵を探して三流、気配で敵を探して二流、勘で敵を探して一流なんだぜ?」
「すぐ人の基準から離れようとするな。……ちなみに超一流は?」
「探さない。敵を見つけた時には、もう敵は死んでるからな」
ふざけんな。そんな現代のアサシンみたいなやつがいてたまるか。板に付いた呆れ顔をしていると、俺の二つの瞳が絶対に逃せない単語を見つけた。
「……リアクションフェーズ?」
「ん?なんだそれ?」
「いや、最近出るらしいゲーム。そんな名前聞いたことないからガセだと思うけどな」
「へー……センスの欠片もない名前だな。俺も調べてみるかぁ」
思わず呟いてしまった言葉を飲み込まず、さらりと嘘に変えていく。晴人相手に嘘を通すのは難しい。
あ、今呼吸が浅くなったな? とか言われてみろ、文字通り心臓が縮み上がるぞ。
センスの欠片もない名前のゲームについて調べ始めた晴人を尻目に情報を提供してくれた中隊長のフレキシさんのレスについて深く読み込む。
448名前:『中隊長』フレキシ
魔物側の公式サイトのイベント欄のページの一番端っこにリアクションフェーズってのがあったんだけど……みんなも確認した方がいいよ。
かいつまんで説明すると、人間側が九時からゲームをスタートさせる前……八時からダンジョンに入って仲間と合流したり準備したりする時間が貰えるみたい。入るか入らないかは個人の自由らしいけど、これ知らない人はかなり慌てるんじゃない?
449名前:『小隊長』お前の後ろだ
準備の時間をくれたことに喜ぶべきか、それを隠す運営にキレるべきか……本当に相変わらず碌でもない運営ですね。
全くだ。急いで確認すると、本当にページの隅っこに魔物プレイヤーは二十時からメニューにリアクションフェーズが表示され、イベントエリアに入れるようになるらしい。貴重な情報を見つけてくれたフレキシさんに感謝を送りつつ、準備の時間すら素直に教えてくれない運営にほとほと呆れが走る。
「やっぱりリアクションフェーズなんてゲーム見つかんねえわ。絶対その情報ガセだって」
「やっぱりかぁ……わざわざすまんな」
「……あぁ、別にいいぜ、そんなこと」
妙に間の空いた返事に違和感を覚えて、晴人の方に顔をあげると、晴人は俺の両目をじーっと見つめていた。なんだよ、気持ち悪いな、と笑いながら言おうとして気づいた。
――こいつ……俺の目に写った画面の文字を読もうとしてるのか?
網膜に反射する画面の像を確認しようとしている? そんな馬鹿な、とは言えない。驚きに固まる俺に、晴人がいつものチェシャ猫じみた笑顔を浮かべる。
「シンジの考えてることは分かるけどさ、流石に俺も人間だぜ? つか、さっきからやってるのはちょっかい掛けてるだけだぜ」
「……まあ、そうだよな」
「ま、シンジがデメキンみたいな巨大目ん玉だったら見えたかもしれないな。見る気もねえけど」
からっと晴れたような顔で笑いながら晴人は言う。こいつは性格的に、コソコソ裏情報仕入れて、影で暗躍とか卑怯な手を使う男じゃない。どちらかというとこいつは、相手の正面で腕を組みながら仁王立ちしてるタイプだ。
あくまでも正々堂々、正面からの死闘を望み、そして間違いなく自分は勝つだろうという自負を持っている。相変わらずにイカれた友人に肩を竦めながら、スマホの活字を追い直した。
――――――
【Variant rhetoricにログインします】
「本当に、何で俺の回りには人外が集まってくるんだ……」
カルナは一撃に特化した核弾頭みたいなやつだからプレイヤースキルがよくわからないが、シエラにコスタ、晴人と頭のイカれた連中が揃っている。
現在時刻は午後7時。無理を言って夜ご飯を先に摂らせてくれた母さんに感謝の念を送ろう。お陰で今の俺のキャラ感度は良い。
適度な睡眠、きちんとした三食、問題のない精神状態、良好な体調。四つが重なり俺のアバター――ライチの操作感度はいつもより良いように感じる……まあ、いつも健康を心掛けてるから、それほど操作に変更は無いんだがな。若干動きにぎこちなさがないかなーくらいだ。
カルナ達は……まだ来ていない。それもそうだ。本来なら八時にログインしておけば一時間準備の出来るところを八時からリアクションフェーズが始まる。それを知らない一般の面子からすれば、はぁ? と大声で言いたい気分だろう。
「どうにか八時前には来てくれるだろう……こりゃ連携練習は出来なさそうだな」
シエラを織り混ぜた連携は特に問題はなかった。ブリンクを殆ど使わず、固定砲台となったシエラが若干うずうずしていたが、連続でブリンクされたら本当にカバーが利かない。唯でさえ俺達二人は魔法を受けたらほぼお陀仏なのだから、そこのところはしっかりしてほしい。シエラの特性的にサクリファイスを使ったら俺が即死しそうだから、緊急のサクリファイスは使えないし、本当に気を付けてほしいところである。
唯でさえ劣勢な俺たちなのだから、簡単に死んでリスポーン回数を減らしては不味い。二時間で三回しか死亡が許されていないのだ。途中でコープスパーティーの面子が離脱などしてしまった時には頭を抱えるぞ。
それから三十分ほど焦りながら待機をしていると、後ろから物音がした。
「おー、今回はカルナと一緒のログインだ」
「そうみたいね。幸先がいいわ」
「俺は前回出来なかった連携練習をしなくては……!」
和やかに会話をしているところ悪いが、時間がもう残されていない。あと半刻で準備開始なのだ。急いでパーティーに通達しなければ。
「あー、イベントに向けてやる気を出してるとこすまん。話があってだな……」
俺の様子に首をかしげていた三人にかいつまんで説明をすると、それぞれ三者三様の反応が帰ってきた。
「うぇぇ!?もう時間ないじゃん!」
「ま、待って……武器は向こうでステータス振って作るとして、連携が……えーと」
「あら、優しいのね」
悪いなコスタ。連携は練習できない。大多数がシエラみたいな反応を返すだろう。カルナは……どれだけハードコアで磨かれてきたんだ。確かにこういうことは今に始まったことじゃないけどな。
「全員に確認したいことがある。役職についてだ。俺は大隊長だが、お前らはどうだ?」
「私は……無名だねー」
「俺もですね。まあ、しょうがないかなぁと」
「私も大隊長ね」
俺とカルナはイベントの役職が発表される時にはレベルが二十近かったからな。それに対してシエラとコスタはレベルが1だった。今なら確実に中隊長以上だろうが、これは不可逆的で仕方のないことなのだ。
あまりイベントについて詳しくないであろう二人に説明をする。ダンジョンの構造、人間の目標、罠、魔物、味方について。
すべてを説明し終わる頃にはもう八時近い。
「……えーと、つまり私たちはコアを守ればよくて……」
「コアは五階層、俺たちは二階から五階層を任されているんですね」
「理解が早くてよろしい……って、もう時間か」
メニューを開くと、確かにリアクションフェーズの欄がある。
「細かいことは向こう側でな」
「え、えーと……」
「シエラ、行くよ」
「時間が惜しいわね……うふふ、燃えてきたわ」
それぞれ様々な反応を覗きながら、リアクションフェーズを選択した。
【リアクションフェーズ開始】
【魔物の皆さんは準備をしてください】
【残り時間:59分59秒】