3.式典の少女
9話目「式典の少女」
ミィが『エンドレス・ダブル』って呼ばれるきっかけになった式典のあとの話さ。
「あ、ロイさん、リーさん。おかえりなさい」
「あらミィちゃん。すごい格好ねえ」
僕とリーさんはよく共同で依頼を受けているんだけど、まあ、この日もそんな依頼の帰りだったわけさ。城下街に入ったとたんにすごい熱気が伝わってきて、なんの騒ぎだろうってね。……え? 僕たちは『エンドレス』討伐対には参加してないよ。そもそも、ミィが参加したのだって聞いてなかったし。
で、そのときのミィの格好なんだけど、いわゆる正装ってやつ。着慣れていないってのもあるんだろうけど、どこかちぐはぐでね。よーく見てみたら、大人用のものを途中で折り上げて縫ってあるみたいなんだ。なんとなく柄があっていないのはそのせいだったんだね。リーさんは違和感がなかったみたいだし、僕の生まれた家が服屋だったから気付けたんだろうね。
僕かい? 僕はアーツ王国の東、花の町なんて呼ばれてるエスタの『服屋ウィール』の次男だよ。ほら、やっぱり名前くらいは聞いたことあるでしょ?
「ミィ、これは一体なんの騒ぎなんだい?」
そこでちょうどヒロさんがやってきて、後ろに隠れてしまったんだよ。代わりにヒロさんがかいつまんで事情を説明してくれてね、まぁ、お察しの通り、ヒロさんは鞘で一撃貰ったわけ。良い音しましたよね、ヒロさん。クククっ。……って、ヒロさんが睨むと本気で怖いんですって。分かりました、謝りますから許してくださいよ!
そのあと、僕たちは一先ずお城に報告書を提出して宿に戻ったんだ。そしたら女将さんに「ミィを連れて来な」ってすぐに追い出されてね。なんでも「主役が不在じゃぁ、宴会を始められんだろう」って。何日も大盤振る舞いが続いてるってヒロさんに聞いていたから、予想はしてたんだけどね、さすがにそのまんま追い出されるとは思わなかったよ。
しょうがないから、さっき会ったところに戻ってみたんだ。案の定いなかったけど、リーさんがミィの髪留めが落ちているのを見つけて、早く届けてあげようってことになった。しばらくすると、ミィの靴が片方落ちていて、またしばらくすると、今度はもう片方の靴が落ちていたんだ。なにかあったんじゃないかと思って急いで駆けつけると、二人組みの男がミィから巡回の騎士に引き渡されているじゃないか。拾った靴を見てみると、靴を縛り上げる紐がついていない。どうやら男たちの腕を縛るのに使ったようで、引き渡した騎士に紐を返却されていた。
「あ、ロイさん、リーさん。ありがとう」
受け取った髪留めを慣れた手つきでつけると、今度は、なにをどうやったのか、瞬く間に靴紐を通した。あまりの早業に、リーさんも固まってたんだよね、あのとき。
そんな僕たちをみて不思議そうに首を傾げると、「女将さんが待ってるから早く行こう?」って。まだ伝えてなかったというか、今のですっかり忘れてたのになんで分かったんだろうってね。
そのあと、僕も三日三晩ご馳走三昧だった。作ってもらっといてなんなんだけど、三食ご馳走は胃にもたれるよ。