5.エンドレス・ダブルの少女
6話目「エンドレス・ダブルの少女」
それからどうした? そんな話しても面白くねえだろ。
嬢ちゃんが十になった頃だ。赤き竜『紅蓮』、個体名を『エンドレス』っていやぁ、アーツ王国を取り囲む、世界の双壁西の山々の奥深くにいる七竜が一匹。こいつの話をしようぜ。んぁ? 今頃気がついたのかよ。嬢ちゃんの『エンドレス・ダブル』ってのは、コイツからとった二つ名だぜ。そんなことも知らねえで、今まで話を聞いてたのかよ。ハッハァ、笑わせるぜ!
赤の御使いなんて云われた『エンドレス』だが、この名称の由来は当然知ってるな? そうだ。その息をつかせぬ終わりなき猛攻! その火の息は鉄をもとかし、身体の各所からは火山のように炎を上げる。五キロまで近づいただけでいると分かる、その熱量! どれを取っても厄介なことこの上ない『エンドレス』! コイツを斃したのが、そこにいるミイアだ。
俺はその場にいなかったから詳しくは分からねえ。聞くところによると、いつも通りだったそうだ。っ痛ぇな! ソイツで殴るんじゃねえよ! 最前列の盾隊をどかして、自分に水系統、氷系統の持続型の魔法を掛けさせて、特攻して、十二時間以上。何千、何万回とやっているうちに、だんだん竜から赤い飛沫が飛んで、終いには両腕、両足、尾に首まで取って、胴を真っ二つにしたらしい。最後のとこだけ、なんか伝承の大剣使いみてぇじゃないか。んん? ああ、あれはただの御伽噺じゃなくて、史実に基づいているらしい。詳しいことはリサにでも聞け。ともかく、危なっかしくて援護攻撃もできなかったって話だぜ。
帰ってきたミイアはさすがに憔悴してたな。あんなにやつれてるのは、今思えば、拾ったとき以来だったかもしれねえ。服もところどころ焦げてたな。普段はかすり傷ひとつ負わないミイアに攻撃を入れるとは、やっぱ、古代から生きる七竜だけある。そう思った。
で、十日くれえ経って、祭りが開かれた。式典もだ。そんときには例の放蕩王子はいらしてなかったみてえだな。
その式典だが、王様がお見えになって、第三十二次『エンドレス』討伐隊に褒美を与えられた。だが、全員。ミイアもだが全員が受け取りを辞退してなぁ。みーんな呆気にとられて、結局全員でミイアに押し付けたってのは、今でも語り継がれる笑い話。で、その褒美ってのは二つ名の『エンドレス』さ。二つ名に『エンドレス』を冠することを許可されたのは、このミイアただ一人だけだ。なんで全員が辞退したかというとだな、これは、ほぼミイア一人の手柄と言っても差し支えない。だれも異存はなかった。なんたって、自分らは何も出来なかったんだからな。ミイアも食い下がったさ。「討伐隊が一丸となって挑んだ戦果であります!」って国王様によ。その一言に、連中は全員明後日のほうを向いちまってな、王の側近でさえも、目を逸らしちまったんだ。な、笑い話だろう? っだから痛ぇって! 分かった、笑い話じゃねえ! な、許せ!
その式典の日から、ミイアは『エンドレス・ダブルのミィ』、なぁんて呼ばれるようになったわけだが、そのころはまだ、今みたいに魔法を使えなかったんだ。とは言っても、今ミイアが使ってる魔法も、一般的な魔法とは違うんだけどな。詳しいことはわからねえ。リサか本人にでも聞きやがれ。団長も何か知ってるような口ぶりだったが、ううむ。分からん。
そう、祭りだが、一月賑わった。この国にあんな大勢いるとは、知らなかったな。そりゃあ、俺は無学だから知らねえことも多いけどよ、それでも、あんだけの人を見れば誰だって驚くに違ぇねえ!
次話より第二章