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4.双剣の少女

 5話目「双剣の少女」

 ミイアを拾って一年くらい経ったら、早くも『ショート・ダブル』なんて二つ名貰っちまいやがった。ん? ああ、二つ名なんぞ珍しくもなんともないが、こいつは周りがそう呼び始めた二つ名だ。ガキにしては珍しいだろ。子供のころは自分で名乗るのが普通だからな。なに、お前の国では二つ名持ちは英雄扱いなのか。ほう、いいこと聞いた。俺だって『ブレイドマスター』なんて呼ばれてるからな。

 二つ名の由来? 俺の二つ名の由来は、このでっけぇ剣だ。コレで今まで何百人を鍛えてきたと思ってやがる。ミイアの剣技もそうだが、この城下街の若者の武器使いのほとんどは俺の弟子だ。嘘じゃねえよ。そこらのやつに聞いてみな?

 は、ミイアの二つ名の由来? そんなの聞かなくても見れば分かるだろうに。あの腰に提げてる二振りの短刀からに決まってんだろうが。お前の目は節穴か。ただの金属の棒にしか見えないだと? そうだな。なんの装飾もねえからな。最初はみんな疑う。ただ、あいつが毎日毎日手入れを欠かさない、正真正銘の業物だ。俺がこの剣でどんだけ打ち込んでも割れねぇんだからな。

 ミイアと一度打ち合ってみたいだって? バカ言うなよお前さん。あんたがあいつと打ち合ったところで、お互いに得るものなんて何にもねえよ。まあ、お前がただ高みを見たいだけだったら止めはしねえがよ。

 ミイアが得意としてるのは広範囲の索敵と対集団戦だ。ある程度の気配を感じるのは、俺たち戦闘者にとってはなくちゃ生きていけねえスキルだろ? それをお前、広大な森の中で相手の頭数と位置を正確に当てていきやがる。そこから、一方的な対集団戦の始まりだ。あいつに言わせれば、一対一を休みなしにやるようなモンらしいが、俺はそうは思えねえ。自分の位置を変えながら、相手の位置を割り出すとか、どんだけ高等技術だと思ってんだよ。魔法でも、きちんと捕捉する前に動かれるとぶれるってのによ。

 そうだ、あの話をしてやる。ミイアの名前が一気に売れるようになったきっかけだ。

 その日、久しぶりにミイアに付き添って依頼のために森に来ていた。盗賊団と山賊が衝突する可能性があるって報告が上がったらしいってんで、先行調査だ。可能なら全部捕まえて来いってお達しだ。なぜだかミイアに転送魔法を委託できなかったんで、全部俺に託された。普通は人数で割るもんだがな。城のやつらも慌てふためいてやがった。懐かしいな。

 で、依頼はミイア一人で、俺は付き添い。手出しは無用だ。転送魔法を発動するためだけについていく。いわば、ミイアの実力テストだな。

 森に入る少し前から、ミイアから感じる気っていうのかね、そんなもんが変わったような気がした。でも、いつもと同じ、楽しそうでいてつまらなそうな微妙な顔してやがる。そのあとは、前と同じで元気に森の中を駆けていった。んで、そこからがすごい。何分か置きにキチンと俺の元へ戻ってきて、いつもの縄で盗賊と山賊たちを縛って持ってくる。託された四百回分の転送魔法を使い切ったときには、もうすっかり日が暮れてたな。「あと半分くらい」とか言われたときにゃ、ゾッとしたね。縄を足して全部直接城へ引き渡すつもりだったらしい。ようやく宥めたと思ったら、もう月もテッペンまで昇っちまって、街に帰り着いたのは空が白み始めた頃だ。城に行って、転送魔法を追加で受け取って森へとんぼ返り。また昼頃から始めて、終わったのがまた真夜中だよ。俺は(ねみ)ぃってのに、子供は元気だよなぁ!

 そんでだ。また明け方に街に戻ってきて、報告書を書くの手伝ってやって、城へ提出して、ようやく寝たのがまた夜だぞ。しかも、ミイアの依頼だから、俺には一銭も入らねえ。

 そんでまた翌朝のことだ。ミイアを城に連れて行くと、すげえ部屋に入れられた。なんていうか、豪華だった。そうとしか言えねえ。その部屋で偉そうで強そうな騎士から色々説明を受けた。

 三日後、ミイアが表彰された。騎士団の調査の結果、取りこぼしなしとのことだ。すげえ式典だった。ミイアのために、子供用の礼服を作りに頼んだときは、店主が「ふざけんな! 冗談も大概にしやがれ!」と激怒したぞ。さすがの俺もビビッたね。ミイアは平然としていたが。ああ、すげえってのは店主じゃなくて、式典のほうだ。一昔前に、放蕩王子なんて呼ばれてた現王の弟君までいらしたんだからな。そのあとに、また当てのない旅に発たれたそうだが。

 ともかくだ。嬢ちゃんが『ショート・ダブルのミィ』なんて呼ばれ始めたのはそんな頃だ。

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