3.山育ちの少女
4話目「山育ちの少女」
なんだか分からないままに、とりあえずゴーサインを出した後だ。ミイアは森の中を元気に走っていくじゃねえか。まあ、子供だから嬉しくてしょうがないんだろうと思ったんだよ。
「……ヒロさん、あと一つ。……お願い」
半日くらいで戻ってきたと思ったら、例の魔獣を首を括って八つ取って来たじゃねえか。かすり傷一つなく、しかもその縄、どこで手に入れた?
「……あと一つ。……ごめんなさい」
さっきからあと一つ、あと一つって何なんだ? 根気よく話を聞いてやると、あと一匹、群れのボスみたいのがいるそうだ。縄は、背の高い草だのを縒って作ったらしい。故郷のじいさんばあさんの知恵なんだと。
んで、ミイアが仕留め損ねた最後の一匹ってのが、また大物。あぁ、なんで最後の一匹だと分かったかって? なんだか、ミイアは気配に聡いんだよ。山ん中で育っただけのことはあるよな。数百人規模だって、一人残らず人数分かるんだもんなぁ。
最後の一匹の話だな。コイツがまたとんでもねえ大物だったんだ。今の俺の剣よりも大きかったんじゃねぇかってな。そんときはまだ、普通の剣しか持ってなかったから、比較対象としては微妙かもしれんが。
って、だから最後の一匹の話だ。
「ひろさん、ひろさん。刀、使っていいの?」
お前、使えば仕留められるんなら、仕留めて来いよって話だよなぁ。許可を出したらそのまま飛び出していって、刀を一振りすると、そのまま俺のほうに山なりに飛ばしてきやがった。で、降ってきたのをよく見たら、上手く昏倒させたようだ。そのまま縄を継ぎ足して、一緒に括っちまった。末恐ろしいとはこのことかと、な。
城に戻ったのは次の日の晩だ。九匹の魔獣を生け捕りにして手懐けるつもりだったようだが、そのまま処分された。そもそも、依頼内容が魔獣の掃討というのもあるが、魔獣を手懐けるなんてことは誰も考えなかったというのもある。村ではみんなやっていたらしいが、とても信じられねえ。一応ってことで、騎士団の連中が確認に行くと、みんなとはいかないがそういう事実はあるらしい。新たに、魔獣を活用しようという計画が出来たのはそのときだ。今じゃ騎士団にも魔獣使いなんて部門もあるしな。迷い人探しに結構役立つみてえだが、探されたほうは魔獣が来たっつって、さらに迷子になるそうだ。いいんだか悪いんだか。
そんなこんなで、ミイアの初めての依頼は危なげなく達成した。宿に戻ると女将さんが「お祝いだよ!」っつって、大盤振る舞いだ。なんで俺の財布から出るんだよ。
それからは依頼を受けて、帰ってきて、依頼を受けて、帰ってきて……っつうパターンになった。このころは、まだ満足に字も書けねえから、城で口述筆記してもらって報告書を出してた。俺がとりあえずの身元引受人になってたから、あぁ、今も俺が保護者ってことになってるが、俺に字を教えろって抜かしやがったんだ。やっぱり女将さんに全部任せておくべきだったぜ。