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2.刀の少女

 3話目「刀の少女」

 コイツが起きたときの第一声が「おじさんだぁれ?」だとよ。まあ、そうなるわな。

「俺はヒロとでも呼んでくれ。お前は?」

「ミイア。ミイア・アール。アーツの国の西の山の辺境のルーツっていう村から城下街まで行く予定だったの」

 とりあえず喋れることにほっとしたさ。意思疎通できなかったら、どうしようかと思った。子供を欲しがってる老夫婦にでもくれちまえばいいんだろうけどよ。は、売るだと? そんなことしたら、仕事がなくなんだろうが。報告書にも書いちまったんだしよ。

 そんでだ。ここがそのアーツ王国の城下街だって教えてやったら、安心したみたいで、また寝ちまったんだ。……人様の寝床でよ。

「……ひろ……さん?」

 次に起きたのは真夜中だ、真夜中。俺ももう寝てたんだよ、椅子に座ったままな。

 まあ、ちょうどいいんでそんときにいろいろ聞いたんだがよ、まず、腰に提げてた二振りの短剣。かなりの業物かと思ったら、小刀ってやつらしい。刃渡りはどっちも三〇センチもないんじゃねえか? なんでも、村を出るときに、育ててくれたじいさんとばあさんから一振りずつ貰ったそうだ。大事なものらしい。

 五日くらいしてから、ミイアと木剣で少し打ち合ってみたんだ。二刀流ってのが珍しいのもあるが、受けるのも打ち込むのも始めて見る捌き方だった。終わってから聞いてみたら、田舎のじいさんに習っていたらしい。もしかしたら古い流派かもしれねえな。俺がかつて師事したのは、自己流のパワーファイターだったから、そのじいさんも自己流かもしれねえ。まあ、俺には分からないが。

 で、やっぱり子供だ。体力がねぇ。歳を聞くと六歳だとよ。笑わせやがる。ま、そんなことは些細なことさ。体力つけんのは走るしかねえからな。街の外周を毎日毎日何週も何週も走らせて、今となっては体力バカだ。城で団長達に頼まれて、騎士たちを鍛えなおすとか言って八時間とか一人で黙々と相手してるもんなあ。ああ、『エンドレス』のときは十二時間やってたんだっけか? バカだろ。

 昔のミイアは初めは半周で音を上げてたからな。懐かしいもんだよ、あの頃が。

「あ、あの……ヒロ、さん。刀、……どこ?」

 十周走れるようになったころにゃ、女将さんに料理を教わったりしてたな。ただ、どっからか氷を貰ってきたり、火種を貰ってきたり、砥ぎに出したばかりで試し切りをしたいっていう刃物を借りてきたりと不思議なことが多かったよ。氷も火も切るのも魔法でやっちまえばいいのに。というより、どっかから持ってくるなんて発想がそもそもねえしな。なんのための必須魔法だ。それとも、田舎すぎて必須魔法すら定着してねえのか? 聞けば、みんなは何でも魔法でやっていたらしい。教えて貰ってねえとは、どういうことだよ。

 そうだ。で、十周を一週間できたら剣を教えてやるって約束したんだよ。約束の一週間をクリアして、……いきなりモノホン使うかってんだ。子供ってヤツは、ときに怖えこと考えやがると身に沁みたね。俺が用意してたやったコイツの持ってたのと同じくらいのカッコした木刀を渡してみたら、不満げな顔をしやがった。田舎では本物の刀で練習してたたぁ、恐ろしいこと抜かすんじゃねえよ。

 まずは基礎からだ。だが、こいつの振り方は既に堂に入っている。どうするかと思ったね。習得している型を崩さねえように注意しながら、細かい指摘をしていくと、「おじいちゃんにも言われてました」とな。こいつを育てたじいさんとは気が合うみてぇだ。それが分かってからは遠慮なく指摘しまくったさ。型を大きく崩さねぇように注意しながらだけどな。

 街の外周を二十周できるようになった頃に、初めて城に連れてった。体力と体捌きが実践に耐えられるか見るためだ。

「ヒロシ殿。そちらのお子は?」

「前に報告書に書いただろう。西の山で拾ってきたミイアだ。新入りの訓練に混ぜてやってくれ」

 そのときはすっかり忘れてたぜ。すんげえ人見知りすんだよ。結局、俺の後ろに隠れて出てこねえ。最近大丈夫になってたじゃねえかって思い返してみると、宿にいるときはいつも俺と特訓してるか、女将さんと特訓してるかだ。宿泊客の顔ぶれだって、滅多に増えねえし変わらねえ。そりゃ、何ヶ月もすれば大丈夫にもなるわな。仕方がねえから、獣退治でもやらせようってんで受付してすぐ行ったんだ。

 場所は西南の森ん中。町の近くまで厄介な魔獣がやってきたって奏状から、俺達傭兵への依頼になったそうだ。けど、俺はギリギリまで手ぇ出さねえとミイアに言い聞かせた。どの程度の実力がついたか評価するためだからな。

「……七、八、九。……ヒロさん、もういいの?」

 いったい何のカウントか分からなかったが、とりあえず俺はゴーサインを出したんだ。

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