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1.廃れた魔法

 27話目「廃れた魔法」

 まずは自己紹介としましょう。私の名はキラー・ツリー。『廃術の呪文書』なんて呼ばれているわ。昔は『木愛(もくあい)のツリー』なんて呼ばれていたんだけど、研究に没頭しているうちに、いつしか呼び名が変わってしまったのよ。元々は植物を介在させた魔法の再興させようと頑張っていたのだけれど、その過程で様々な魔法を発見したり、造りだしたりしてしまってね。一般に知られているのは、クリエイト系の『ウッディ・クリエイト』だけかしら。ほとんど芸術家にしか使われていないのは、いい事なのか悪いことなのか。悩みどころね。

 ほかにどんな魔法があるのかって? そうねぇ、『ヒート・クール』なんて魔法は聞いたことあるかしら。創られた目的は、真夏でも快適に調理をするため。火の周りを冷気で覆う火系統の魔法なんだけど、冷気が強すぎると火が消えるし、かといって弱くすると今度は普通に暑いし、あまり使い勝手が良くないのよね。だから、使い手がいなくなって『廃れた魔法』になってしまったみたい。相反する事象を一つの魔法で操作するのは結構難しいの。オリバー君なんかは器用だから、高威力の火系統魔法を使うときに展開しているみたいだけど、普通ならやめたほうがいいわね。それほどの冷気を一緒に操ることができるくらいなら、対象無害化指定にしたほうが楽だし一般的よ。本人は謙遜してしまって認めたがらないけど、彼は間違いなく天才だわ。

 私の研究に話を戻そうかしら。木系統の魔法ってのは、使う人が少ないの。理由は、分からないでしょうね。木ってね、一律ではないのよ。いくら魔法とはいえ、無から有を作ることはできないわ。火や風といった現象なら、案外どこでも使えるんだけど、木のないところで木系統は使えない。光系統ってのもあるんだけど、これはもっと使い手がいないわね。だいたいの人は火を使ったり水や氷に反射させて擬似的な光魔法を使っているにすぎない。簡単だし、それだけで用が足りるのよね。だから、純粋に光に作用する魔法には目をつけない。その系統そのものが『廃れた魔法』になってしまう典型例よ。

 ほかに『廃れた魔法』っていうと、闇系統ね。光系統と裏表の関係にある系統だから、まあ、用途はほぼ同じね。どちらも、元を正せば光に焦がれる盲目の少女のために、少女を愛する少年が作った魔法といわれているわ。少女の目に光が戻ることはなかったとされているけど、最期の時まで幸せに暮らしていたそうよ。なんだかロマンチックよね。

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