3.少女の涙
24話目「少女の涙」
式典の話は面白くないので、私とオーリーの馴れ初めでも聞きますか?
あれはいつも通り、依頼で森に行った日でした。珍しくお香やお薬になるような植物を収集する依頼だったのを覚えています。
「手伝おうか?」
その日は、この森への依頼があと七つ依頼があったので、特に殺気立った様子もない後ろの方の気配には気付いていながらも、気にしないようにしていました。それが、まさかこちらに近づいてくるなんて思いもしなかったので、声を掛けられて変な声を上げてしまい、とても恥ずかしかったです。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ。僕は毒草摘みなんだけど、よかったら一緒に探そうよ」
確かに、毒草と薬草は見分けがつきにくいものも多いので、一緒に探した方が早く終われるかもしれません。なので、私は二つ返事に頷いて、森の中を一緒に進むことにしたのです。第一印象は、常に笑顔で楽しそうな男の子でした。
そのうち、偶然が重なり、何度か森の中や、依頼先の近くの街道で見かけるようになりました。私から声を掛けることはなかったのですが、向こうの方から目聡く私を見つけると小走りにやってきて、いつもの笑顔を見せてくれました。そのころになると、私も会うのが楽しみになってきて、次の依頼はどこに行く予定だから、だったらまた会えそうだね、という話をするようになりました。
いつの頃からか、二人で示し合わせて近くの依頼を受けるようになりました。二人で一緒に街を出て、二人で一緒に帰ってくるなんてことをしたこともあります。街の外では、二人でいることが当たり前のようになってきました。もちろん、そうでないときもままあったのですが、いつも隣に誰かがいるという心地よさを味わってしまってからは、一人で行く依頼に少し物足りなさを感じていました。
「ねぇミィ、僕なんかがミィのこと好きだって言ったら、恥ずかしがり屋のミィだから、気まずくて会ってくれなくなっちゃう、なんてことになるのかな?」
一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。頭の中で幾度もその言葉を反芻して、ようやく意味が分かると、私は泣いてしまったように思います。というのも、実はこのときのことははっきりと覚えていなくて、ただただ嬉しくて抱きついてしまったという朧気な記憶は、たぶん涙で目の前が揺れていたからなんだと思っています。