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1.少女の家

 22話目「少女の家」

 私がまだ村にいた頃の話を、ちょっとだけ。

 私の故郷は、『世界の双壁』西の山々にあるルーツという村。私はおじいさんとおばあさんに育てられました。ルーツ村はアーツ王国に属していますが、基本的に自給自足ができています。定期的に騎士団の人たちが様子を見にやってくる以外は、山間部の町としか交流がないような村です。山奥にあるのにも関わらず人はたくさんいて、三百人くらいが密集して暮らしてました。村の人たちはみんな家族のようなもので、みんな私を可愛がってくれました。

 お母さんとお父さんは、私を生んですぐに死んだと聞いて育ちました。詳しいことは教えてくれませんでしたが、おじいさんが私に剣を教えてくれていたので、森に狩に行って魔獣にでも殺されてしまったのだろうと思っていました。村にはそういう子供は少なくはありませんでしたからね。まさか、私の両親がすごい人で、『黒白戦』で殉じたなんて思いもしなかったですよ。

 ある雨の日のことです。私はおじいさんの書斎で絵本でもないかと探していたんです。そこで、奇麗な装丁に惹かれてパラパラとページをめくっていったのがこの『焼却の有用性』という魔法の書。そのときはまだ文字なんて読めなかったので、本といえば絵本を思い浮かべていたのですが、終わりまでめくっても絵がなかったのでがっかりしたことをはっきりと覚えています。

 何日も経った頃です。ふと、この本を閉じたときに浮かんできたフレーズを思い出したんですよ。

『ディスル・フローライン・フルイズ――炎浄!――』

 私は気を失ってしまって爆発したことしか覚えていないのですが、どうやら魔法が暴発してしまったようです。魔法というと、当時の私は必須魔法しか見たことがなかったので中々信じることができなかったのですが、おじいさんに汎用魔法を見せてもらってやっと、危険なものがあるということが分かりました。あとで知ったことですが、この魔法は広範囲に風の道を作り出し、超高温の炎で汚物を燃やし、最後に温度を下げて自動消火して臭いも拡散させないという、衛生上の問題を解決するために創られた魔法だそうですね。よく出来ていると思いませんか? 今では魔法の圧縮を使って、高威力の爆発を生み出す魔法として知られていますが。

 え、完全魔法で暴発するのかって? それは私自身もよく分かってないんです。

 ※get lost「迷子」と言う意味で使っています。俗語で「あっち行け」という意味もあるそうですが……。お間違えのなきよう。

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