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5.竜と少女

 21話目「竜と少女」

 ミィのご両親のジークさんとミアさんなんだけど、十三年前の『黒白戦』で亡くなったんだって。だから、もうすぐ始まる第一七二次『黒白戦』、その相手『全ての竜の親』こと白き竜『漆黒』と黒き竜『純白』は、ミィにとっては親の仇なんだ。でも不安だよ。ミィのご両親は、その当時最強の一角を担っていたほどの人たちだし、天賦の才をもっていたそうだし……。僕なんか魔法も剣術も中途半端だし、生きて帰って来られるのかな。……ありがとう、励ましてくれて。

 え、白と黒が逆じゃないかって? ええと、それはね、『漆黒』は白い体がだんだんと黒く染まってくるから『漆黒』。『純白』は黒い体がだんだんと白く染まってくるから『純白』なんだって。そうそう、有名な言い伝えがあってね、『白き竜の暗き瞳は人々の心を深淵へと誘い、黒き竜の明き刃は天をも切り裂く』っていうんだ。ぼくも十三年前の記録を見たことがあるんだけど、どんな感じか想像すらできないよ。

 竜の居場所? それはどこの国でもだいたいは把握しているんじゃないの? へぇ、そうじゃないんだ。まあこの国は、竜の伝承の始まり見たいな国だから、ちょっと特殊なのかもね。きちんと観測班がいて、動きが活発になってくると討伐隊が組まれるんだ。今回の『黒白戦』は、この国からみると随分と北にある国にいた、別名『スウィート』こと橙色の竜『橙果』が斃されたから、次代の『橙果』を生みに行くんだね。それで、そろそろ北へ飛び立ちそうだっていう報告がお城に上がったみたいで、討伐隊結成っていう流れ。そう、『橙果』が斃されたのが二十二年前。竜はそれだけ長い時間を生きているってことだね。

「おうおう、ここは嬢ちゃんみたいなガキのくるところじゃねえんだよ」

 ミィが『エンドレス』討伐戦の前に言われたんだって。今回は、またソイツも召集されてるって話だけど、また絡まれるんじゃないかってちょっと心配だな。そのとき? まぁ、お察しの通りだよ。殴り飛ばして木に縛り付けたらしい。記録班の人たちは、どうやってか知らないけど、一人一人の細かいやりとりまで記録してるみたいで、よっぽど印象に残ったんだろうね、目次ができてたよ。落ちていた木の枝での一撃で数メートル吹っ飛ばしたって書いてあったね。その枝は木っ端微塵だったとか……ああ、ごめん! もうやめるから、叩かないでよ!

 次話より第五章

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