1.邂逅の少女
17話目「邂逅の少女」
僕はロイさんの紹介にあったとおり、『トリックスター』なんて呼ばれているオリバー・マーチさ。みんなにはオーリーって愛称で呼ばれてるよ。歳はミィの二つ下で十二。ミィの恋人さ。
「私に勝とうなんて、二十年早いのよ」
僕はアーツ王国南の港町の生まれでね、漁師の家の五男坊だったんだ。ある日、いつも通りに漁場で停泊していると、近くの船からそんな声が聞こえたんだ。その船を見ると、女の子の周りには屈強そうな男たちが幾人も寝転がっていて、その先には女の子に向かって魔法を唱えている男たちがいた。このままでは女の子が危ないと思って、僕も慌てて魔法を唱え始めたんだ。
「オーリーやめろ。あれは噂に聞く『狩人』だ」
狩人ミイア。この頃よく聞くようになった海賊討伐の傭兵の名だ。聞こえてくる話によると、海賊だけでなく、山賊や窃盗団なんかも捕まえているらしい。血も涙も、慈悲の欠片すらもない女だという噂だったから、見るからに怖そうな人を想像していたのだけど、僕とそう変わらない年頃の可愛らしい女の子じゃないか。
僕の心配を余所に、『狩人』はいくつもの魔法をかいくぐり、なんと無傷で最後の一人を無力化して、転送陣を発動させたじゃないか。あれなら、僕が魔法で応援していたとしたらむしろ邪魔になってしまったかもしれない。僕じゃあの女の子の役には立てない。そう思って一生懸命魔法を練習して城下街に来たんだよ。
城下街では『狩人』ではなく『ショートダブル』と呼ばれているらしいことはすぐに分かったよ。腰に提げた二振りの短刀がその二つ名の由来だってことも。
こんなすごい女の子でも、いつもいつも賊相手に戦闘を繰り広げている訳ではないんだ。たまには、採集の依頼も受ける。偶然を装って、三回に一回くらいで僕もその近くの討伐依頼を受けたりするうちに、たまに会って話をするようになってね。別々の依頼を受けて途中で落ち合う約束をしたりしたんだ。
赤き竜『エンドレス』が斃されたときの式典で、ミィがすごい衣装を着ていたのはビックリしたよ。そのあとのお祭りのときは逃げられちゃったし、なんだか遠い存在になったように思えて……。
「あのねオーリー、紹介したい人たちがいるの」
そう言ってあれよあれよという間に宿を移ることを決めて、荷造りまで手伝ってもらって。そうしてこの宿に来たのが二年くらい前、僕が十のときだよ。