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3.少女の魔法

 14話目「少女の魔法」

「ミア……。いえ、人違いだったわ。ごめんなさい」

 ミィちゃんが街でツリー女士に出会ったときにそう言われたそうよ。このミアっていうのが、ミィちゃんのお母さんの名前だったのだけれどね。

 ツリー女士の家で待っていたのは、ツリー女士だけではなくて、放蕩王子ことミンク・アーツもいたの。家に踏み入れた瞬間、ものすごい数の魔法を感じて咄嗟に抵抗したんだけど、二つ漏らしてしまったのは悔しかったわ。何で無声魔法で四十九も上級を使えるのよ。『最速』の名は伊達じゃないってことね。

「ふーん。君が当代の鬼才『怒りの魔女』か。なかなかだね」

 涼しい顔で言ってくれちゃって……。でも、私はまだこの人には敵わないって思ったわね。なにせ、家一軒を包むほどの特大の結界を二つも見逃してしまったのだもの。

 ミンクさんの話によると、ミィちゃんの結界は十七になればさすがに効力を失うみたい。で、ミィちゃんのお母さんがミィちゃんのために遺した『魔法の書』があるって言って、王宮図書館最奥の『封印の書架』に行ったの。よそから来たあなたは知らないでしょうけど、『封印の書架』っていうのは、当時直近の『黒白戦』が行われた十三年前に何者かによって封印された区画のこと。王宮の結界術士が十年以上も開放のために尽力してた扉を、ミンクさんはいとも簡単に開けたのよ。「自分の結界を解けなくてなにが結界術士だ」なんてカッコよく決めても、……ねぇ?

 中に入っていたのはミィちゃんのためだけに、ミアさんが遺した『魔法の書』。この魔法がものすごい特殊な魔法でね、その場にある魔法力の残滓を使って魔法を発現するのよ。ミィちゃんが普通の『魔法の書』を読むのと同じように、私たちがソレを読んでも何も起こらなかった。『魔法の書』を読んでもイメージが流れてこないの。どこまでも、ミィちゃん専用なんだわ。

 で、この魔法力の残滓を使うっていうのが結構厄介でね、使いたい魔法と同じ系統の魔法力が行使されたあとじゃないと、魔法が使えないのよ。しかも、魔法力の残滓は、ミィちゃんの魔法を使うと消費してしまうらしくて、回数制限があるの。だから、私やオーリーみたいに魔法主体の人と組まないと満足に魔法を使えないのよね。まあでも、ミィちゃんだって、『エンドレス・ダブル』なんて言われて、盗賊たちが常に動向を気にするほどの実力があるから、そんなには意味がないんだけどね。やっぱり、念願の魔法を手に入れて、すごく舞い上がってたわよ、そのときのミィちゃんは。

 え? 何で盗賊たちが動向を気にするのかって? なんにも知らないのね、本当に。ミィちゃんは普通数十人でこなすような賊退治の依頼を、常に一人でやっているのよ。だから、そっち方面の人からつけられた渾名が『狩人のミイア』。三回やれば一月分稼げるって言ってたけど、真似しちゃだめよ? まぁもっとも、ミィちゃんが対集団戦闘に特化しているからできる芸当ではあるんだけどね。

 変更点(2014/6/13):十四年前→十三年前


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