前へ次へ
13/31

2.魔法のない少女

 13話目「魔法のない少女」

 さて、『魔法封じ』って知っているかしら? あまりにも魔法力の大きい子供は、母親の胎内にいるうちに『魔法封じ』って魔法をかけられるのですって。普通の子供ではありえないのだけれど、生まれてくる瞬間に無意識の魔法力の発現によって、家一軒、悪ければ村一つ吹き飛んだ事例もあるらしいの。そんな事故を未然に防ぐために作られたのが『魔法封じ』という魔法だと聞いているわ。

 普通は、自分で動き回れるようになる頃には効果が切れて、『魔法封じ』をされたことを知っている人は少ないから有名ではないわね。お城の専門の魔法使いしか使えないし。そもそも、『魔法封じ』の『魔法の書』は彼らしか閲覧を許されない禁術書架だしね。『魔法封じ』の魔法っていうのは、施術されるとその記録が取られるの。だから、自分が施術されたかは、書類を申請すれば確認することができるわよ。

 で、実はミィちゃんにも『魔法封じ』が掛けられているの。記録には残っていないのだけれどね。何故かって? それは『魔法封じ』の魔法(・・)ではなくて、『魔法封じ』の結界(・・)が掛けられているから。施術者は、現王の弟君で『最速の結界術士』ことミンク・アーツ。以前は放蕩王子なんて呼ばれてたこともあったわね。今も世界のどこかを旅しているはずだわ。あら、放蕩王子の方で知っているとは、やっぱり中々の知名度。ツリー女士が聞いたら泣いて喜ぶでしょうね。

「リーさん。私ね、魔法使えないの」

 ミィちゃんが打ち明けてくれたのは、出会ってから一年くらいしてから。まあ、女将さんに聞いていたから知ってはいたのだけれど、こう、直接打ち明けてくれるのは嬉しかったわ。信頼を勝ち得たみたいで。

 その前からこっそりといろいろ調べていたのだけれど、ミィちゃんが打ち明けてくれてから大々的に調べられるようになったわ。依頼のついでに、その町や村の高名な魔法使いたちに聞いて回ったり、王城図書館に篭ってみたり。中々答えにはたどり着かなかった。第五次『蒼穹』討伐隊に参加したあとのことよ。え? ああ、そのときには斃せなかったわよ。『蒼穹』を知らない? 蒼き竜『蒼白』の別名よ。晴れた日に対峙すると、その体色が保護色となって、空と同化してしまうから『蒼穹』。自らが掌る水や氷で蜃気楼を作り出し、森を天然の迷路にすることから『迷宮』とも呼ばれていたわ。さすがは青の支配者と呼ばれただけはあるわね。って、さっきロイが説明したじゃない! ねえ、聞いてなかったの?!

 ……話を戻すわよ。第五次『蒼穹』討伐作戦のあと。ある日、ミィちゃんがお城から宿に戻る途中に見知らぬ人から声を掛けられたらしいの。あとから分かったのだけれど、その人がツリー女士だったわけ。王城騎士団の団長からツリー女士の家の案内図をもらって、そこに行くと、あるはずの家が見当たらない。何もない空間からいきなりツリー女士が現れたときは驚いたわ。

「……ミイア、ね。よく来たわ」

 ツリー女士ったら、ひどく懐かしむような目でミィちゃんを見つめてたわ。それもそうよね。十三年前に『黒白戦』で散ったかつての親友の忘れ形見だなんてね……。

 それにしても、ツリー女士って、ミンク・アーツの結界で隠されたあの家のおかげですっごい若いのよ!

 変更点(2014/6/13):十四年前→十三年前


 変更・追加点詳細→http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/302376/blogkey/923991/

前へ次へ目次