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1.沈黙の少女

 12話目「沈黙の少女」

 私がミィちゃんに会ったのは三番目ね。

 私が始めてあった頃のミィちゃんは、それはもう、ロイにベ~ッタリだったのよ? あら、オーリーったら嫉妬? しょうがないでしょ、あのとき、一番年が近かったのはロイだったんだから。

「ヒロさん、ロイ。お久しぶり……ね?」

 ロイの後ろからじーっと睨みつける小さな女の子を見つけたのは、故郷から一年ぶりくらいで帰ってきたときだったわ。女将さんに、ヒロさんがどっかから連れて帰ってきたなんて聞いたときには、ヒロさんもついに……って思ったわよ。はぁ?! 十六の子供が考えることじゃないって? いい度胸ね、ヒロさん? 『怒りの魔女』の実力、思い知らせてやろうじゃない!! え、えぇ、ミィちゃん、冗談よ、冗談……。

 とにかく、私はまだ『ショート・ダブル』なんて二つ名は知らなかったわ。城下周辺でしか有名ではなかったみたいね。え? 私の故郷は北の辺境の孤児院よ? そうそう、アーツ王国辺境『北の大河』と、その支流に囲まれた町。城下街から見ると北東にあるわ。『北の大河』の東側は『世界の双壁』東の峰の半ばにある湧水が源流よ。

 ミィちゃんは今もだけど魔法が使えないの。え、使えてるじゃないかって? そうね。でも、普通の魔法は今も使えないのよ?

「ねぇ女将さん? なんでミィちゃんは魔法を使わないの? 訓練かしら」

「あれは魔法が使えないのさ。必須魔法すらねぇ」

 そう。ミィちゃんは必須魔法を使えないのよ。恥ずかしいから言うなって……。でも、今はミィちゃんの話をしているのよ? 気持ちは分からないでもないけどね。

 まあ、その話はあとね。私が出会った頃のミィちゃんは、それはそれは喋らない子だったわ。ロイとは目と目で会話してるように見えたし。え、そうでもなかったの? ああ、ロイが何かを読み取ろうとしてただけね。

「ねえミィちゃん。お姉さんとお話しましょう?」

 何回会話を試みんだろう。ずーっと一方的にいろいろな話をしていたわ。で、ミィちゃんがやっと反応したのが、私の孤児院での話。

「りさおねーさんは、おかーさんもおとーさんも、いない?」

 やっと発してくれた一言よ! 感動して泣いちゃったんだけど、私に父も母もいないということを思い出して泣いたと思っちゃったのね。すごい謝ってくれて、慰めてくれて……。思わずミィちゃんを抱きしめちゃった。

 それからちょっとずつお話してくれるようになって、魔法が使えない理由を聞いてみたの。ミィちゃんの故郷のおじいさんやおばあさんはちゃんと教えてくれていたんですって。でも、一向に出来る様子がないから、城下街を目指していたそうよ。ヒロさんも知らなかったの? ふっふーん、じゃあ私のお手柄ね!

 そうだ、ミィちゃんが知ってた魔法があったのよ。故郷にいるときに、偶然書棚の綺麗な装丁の本を手にとってみたのですって。題は『焼却の有用性』。字はヒロさんに習ったと言っていたから読めなかったのね。そう、とっても有名な『魔法の書』の一つ。中級最上位とされている、広範囲を超高温の炎で覆う魔法で、元々は衛生的な問題で作られた魔法よ。今では高威力の爆発に使う人が多いわね。

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