4.恋する少女
10話目「恋する少女」
式典から少し経って、ミィが十一のときだったかな。
「ちょっとミィちゃん、どこへ行くの!」
突然走り出したときにはびっくりしちゃったよ。まあ、リーさんの大声に驚いたのも少しはあるけど……。
とりあえず、ミィが何を見て走り出したのかは分かった。すぐそこで、顔を赤く染めた男の子がボーっと突っ立っていたのだから。
それからミィは女将さんにしか言わずに外出するようになってね、って、え? 普通じゃないよ。それまでは僕らの誰かに「一緒に来て」って必ず言ってたんだから。
何週間かしてから、ミィがその男の子と仲良さそうに宿に戻ってきたんだよ。あのときは驚いたなあ。だって、あの人見知りのミィが一人で会いに行く相手だし、当の男の子は、自分の荷物を全部持ってきました、っていうような大荷物なんだもん。あとから聞いたときに、荷造りを手伝ってたって、さらに驚いたよ。
で、男の子の自己紹介を聞いてさらに驚いた。『トリックスターのオーリー』ことオリバー・マーチ。ミィよりも二つ年下ながら、必須魔法から中級の最上位に分類されるようなありとあらゆる魔法を使った、切り替えの早い戦闘が得意な少年。リーさんの最上級魔法による有無を言わせぬ超広域殲滅とは大違いだね。さらに、芸術家が好んでよく用いる『クリエイト』系統の魔法で作り出す刃もまた見事。特によく使う『アイスクリエイト』で作り出す氷の剣による近接戦闘も得意で、その剣は『凍匠のアイスエッジ』と呼ばれることもある。リーさんとミィがいなければ、若手最有望株なのではないだろうか。それほどの実力者だよ。
オーリーが自己紹介をしている横で、ミィはもじもじと赤くなっていてね。話を聞いていくと、数日前から付き合うことになってオリバーにこっちにきてもらったそうだ。
あの人見知りのミィに恋人かぁ……なんて思っていたら女将さんに小突かれた。何事かと思って女将さんの視線を追うとヒロさんがいたんだ。で、女将さんとリーさんに追いやられてヒロさんの愚痴を延々と聞き続けることになってしまったからね、そのあと一体どんな話があったのかなんてことは、僕には分からないんだよ。