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争いの歴史

 初ファンタジー&初見切り発車!

 果たして、ちゃんとファンタジーになるのでしょうか?


 1話目「争いの歴史」

 昔々。遥か太古の時代。世界には一匹の竜が住んでおりました。虹色に輝くその竜を、人々は畏敬の念を込めて『虹竜こうりゅう様』と呼んでいたそうです。

「虹竜様、どうかお助けくださいませ」

 毎日毎日「虹竜様、虹竜様」と人間の頼みを聞いていた竜は、「私にできるのなら、やってやろう。ただし、何かしらの対価を要求する」。そう、言いました。

 竜は、初めて人間の願いを叶えました。その願いは、仲間が怪我をして動けないので助けて欲しい、というもの。竜は人間を助けると、対価として小さな木の実を一つ、要求しましました。竜はその木の実を人間の村の近くで育て始めました。

 二つ目の願いは、道を塞いでいる大きな岩をどけて欲しいというもの。竜は難なくその大岩をどけると、今度は果物を要求しました。竜はその果物を弱った動物たちに分け与え、手に入れた種は、やっぱり人間の村の近くに植えました。

 そうして願いを叶えるうちに、やがて人間は傲慢になってゆきました。初めのうちはお願いだったものが、だんだんと「あれをやれ、これをやれ」という命令調になっていったのです。それでも、人間の喜ぶ姿を好きになってしまった竜は、いつしか対価のことも忘れ人間の言いなりになっていましたが、竜も人間も、そのことに疑問は抱きませんでした。

 時が経つと、竜は人間に忘れられるようになりました。文明が興り、竜の力が要らなくなってしまったのです。それでも、どうしようもないときには人間がやってきて、「あれをやってくれ、これを手伝って欲しい」とお願いされました。忘れられたこの頃の虹竜は、そのことが嬉しくて仕方ありません。

 さらに時が経つと、もう人間は竜の前には現れなくなりました。何十年、何百年、何千年。竜は人間に忘れられたことも忘れ、最初から世界には自分一人っきりだと思うようになっていました。そんなときです。久しぶりに竜の前に人間が現れます。すっかり忘れられていると思い込んでいた竜は懐かしさが込み上げてきました。

 やってきた人間の頼みは「戦争」でした。竜の知らない間に、人間によって「国」という人間の集団が世界各地に造られ、ある「国」は他の「国」によって迫害されている、とのこと。竜を味方につけた人間の「国」は見事「戦争」に勝利し、その勝利に導いた竜に多大な感謝を表しました。

 しかし、敗北した「国」の人間はそうではありません。竜を憎むようになりました。勝利した「国」の人間はそのことを竜には伝えず、竜をもて囃し続けました。

 やがて、竜が「戦争」を勝利に導いた「国」が天変地異によって滅びると、かつて敗北した「国」から竜を(たお)そうとする者が出始めました。ある者は剣を帯び、ある物は槍を持ち、ある者は弓を番え、ある者は魔法を唱え。それからの竜は戦いの日々でした。来る日も来る日も、人間たちは竜を斃そうとやってきますが、その悉くを返り討ちにしていました。数年、数十年、数百年と。

 またさらに時が経ち、竜は戦い続けていました。千年の時が経った頃でしょうか。とある男はその身の丈を超える大きな剣を背負い、一人で竜の前にやってきました。

「おい竜。お前が人に仇なす者か」

 竜は驚きました。この千年の間、竜に語りかけてくる人間など皆無だったのです。

「人間か。私に語りかける人間などもういないと思っていた。久しいものだ」

「そんなことを聞いているのではない。人に仇なす竜とはお前のことか」

「竜はこの世界に私しかいない。ただ、私は昔人間に頼まれて『戦争』に勝利した」

 人間の男はそうか、とだけ呟くと背中の長大な剣を一息に竜へと叩きつけました。竜は正中から二つに裂かれ、男は英雄と崇められるようになりました。

 さらに数百年の後のことです。一匹の虹色の竜は、二匹の白い竜と黒い竜、後に『全ての竜の親』と呼ばれる一対の竜になっていました。この二匹の記憶は断片的でしたが、人間に斃されたということははっきりと覚えており、大層人間を憎んでおりました。この二匹は、世界各地に七匹の竜、『紅蓮(ぐれん)』『橙果(とうか)』『黄金(おうごん)』『深緑(しんりょく)』『蒼白(そうはく)』『甘藍(かんらん)』『紫煙(しえん)』の七色の竜を産み落とすと、かつて自分たちが『虹竜』と呼ばれていた場所、今では『世界の双壁』と呼ばれる険しい山々の裏側へと戻り、時折、人間たちを観察しているそうであります。

 こうして産み落とされた七竜はというと、その親たる『白き竜』『黒き竜』の憎しみの記憶の一部を引き継ぎ、人を害するようになりました。世界各地の「国」に住まう人々は、数百年の時を隔てて、再び竜との戦いを始めたのです。これが、今尚続く、人間と竜の争いの歴史にございます。

 本編では七竜のうち何体が登場するのでしょうか? はっきり言って、未定でございます! 平にご容赦を。

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