史郎と亜紀③
「ふははははっ!! この瞬間、俺の特殊能力が発動するぅっ!!」
「アマイゾトールっ!! リバースカードオープンプンっ!!」
初めてできた親友の亮は、とてもお馬鹿だ。
あんまりにもうるさいから、ついついこっちも声を張り上げてしまう。
「ちょっと待てっ!! 何だそのカードっ!? ちょっと見せろよっ!?」
「これぞ必殺の切り札ミラ……ああっ?! な、何してんだぁっ!?」
「こーすればよかったんだぁあああっ!!」
「うおぉおおいっ!? カード捨てんじゃねぇよぉおおっ!?」
窓からカードを放り捨てようとした馬鹿に飛び掛かる。
流石に本当にやりはしないだろうが……いやこいつならやりかねない。
だから必死で奪い取ろうと争っていると、不意に向かいの部屋の窓が開いた。
「ふぁぁ……もぉ、うるさいよぉ……また二人でゲームしてるのぉ?」
「あ……き、霧島さん……ど、どうも……」
「おはよう嵐野君……史郎ったら朝から騒がないでよぉ……」
「わ、悪かったな……霧島……」
寝起きのようでちょっとだけ不機嫌そうにこっちを睨みつけてくる霧島。
その恰好はバスローブ風の寝間着を着ているだけで、しかも僅かにはだけていて肌色がちらちらと見えてしまっている。
だから俺はどうしても直視することが出来なくて、そっと目を逸らしながら軽く頭を下げた。
(もう昼近いんだけどなぁ……まあ休日だから何時まで寝ててもいいけどさぁ……)
よくこんなにぐっすりと眠れるものだと思う。
平日も俺が起こさなければ遅刻するまで寝過ごすほどだ。
それでも昔よりは成長していると思う……あの頃は直接家に出向かなければ起こせなかったのだから。
「ふぁぁ……んぅ……ちょっと待っててね、ご飯食べたらそっち行くから」
「い、いや別に無理しなくても良いんだぞ……」
「なぁに、私が居ると邪魔なのぉ?」
「そ、そ、そんなことないってっ!! な、なあ史郎っ!!」
「そりゃあまあ……来てくれたら嬉しいけど……」
慌てた様子で首を振る亮に対して、俺もまた肯定の言葉を洩らす。
確かに三人で遊ぶのは楽しいし、霧島と遊ぶことだって嫌なわけじゃない。
ただちょっと……俺が勝手に色々と身構えてしまうだけだ。
「じゃあ行くよぉ……少しだけ待ってねぇ……」
そう言って部屋を出ていく霧島、その姿が見えなくなると同時にため息をついてしまう。
「はぁ……すまんな亮……」
「い、いや良いんだけど……とりあえずこれは終わりにして三人でやれる奴にしようぜ」
二人でカードゲームを片付けて、改めて霧島と一緒にやれそうなゲーム機と特殊な形状のコントローラーを取り出した。
尤も何をしても霧島のことだ、きっと文句を言わず笑いながら付き合ってくれるはずだ。
(いつだってそうだもんな……俺がやりたいことしたいことに何でも付き合ってくれるから……けどあいつ本当に楽しんでるのかなぁ……)
俺たちと一緒に遊ぶ霧島はいつだって笑顔だし、ゲームで負けても怒ったりせずに褒めたたえてくれるからこっちも楽しいのだけど……どうにも違和感を感じてしまう。
何せ昔は俺が霧島の遊びに付き合ってばかりいたのだ……それがいつの間にか逆転してしまっていた。
一体いつからこうなったのか……よくわからないが中学生になった今ではそれが当たり前になっていた。
(やりたいこととか聞いても俺の好きにしていいって言うし……暇さえあれば俺の後をついて回るし……嬉しいけど……辛いなぁ……)
俺は昔から霧島に好意を抱いていた。
それが恋愛感情だとはっきり認識したのはつい最近、思春期を迎えてからだった。
おかげで今の俺は色々と意識しすぎて、名前を呼ぶのも恥ずかしくなってしまったが霧島の方はまるで変化がないのだ。
(学校とかでお世話しすぎたのかなぁ……まるで兄貴か何かだと思われてるのかなぁ……)
もちろんどんな理由であれ霧島が一緒に居てくれるのはとても嬉しいし、それだけで十分満たされるような気もする。
だけどもっと先に進みたいという思いもあるし……もう少し色々と自覚してくれという思いもある。
(無防備すぎるんだよ……嫌われたくないから隠してるけど……俺だって男なんだから性欲はあるんだぞ……)
俺は寝坊する霧島を毎朝起こしているが、そのたびに過激な格好に物凄く興奮している。
何せ面倒くさがりの霧島だ、今日の格好などむしろ良いほうで下着姿で寝ていることもあるほどだ。
更に室内は昔と変わらぬ状態で、脱ぎ捨てた衣服が下着ごと散乱している。
(今の俺には刺激的過ぎるよ……お陰でほぼ毎日霧島の……な夢を見るし……持って帰りたいって思うことだって……勘弁してくれよ……)
だから最近はだらしないところには少し強めに注意するようになったがこればっかりは直してくれないのだ……お陰で何か用があっても直接部屋まで行かず窓越しで話すことが増えている。
また霧島相手に欲情してると知られたら軽蔑されるかもと思うと恐ろしくて……こうして自然と亮とばかり遊ぶようになってしまった。
尤も初めてできた親友だからと言うのも大きいのだが。
(幼稚園から小学校まで……霧島と一緒に居過ぎて他の男子とそれほど仲良くなれる暇なかったもんなぁ……)
小学校低学年のうちは女子に構いすぎている俺は敬遠されて一人で遊べるゲームに傾向するようになった。
高学年になっても霧島が付き合ってくれるから、二人でゲームばかりしていた。
そんな俺が中学生になって初めて趣味と話が合った男が亮で……同レベルのバトルが出来ることが嬉しくてこいつと居る時間は白熱してしまい、どうしても一緒にいる時間が長引いてしまうのだった。
「しかし……本当にお前と霧島さんって付き合ってないのか?」
「なんだよ急に……ただの幼馴染だよ」
自分で言っておいて胸が少し痛くなる……だけど事実だから仕方がない。
「ただの幼馴染って……あんな無防備な姿を晒して、しかもいつだって一緒にいるくせにそれはないだろ……」
「逆だろ……意識されてないからこそ、あんなことできるんだよ」
「そんなことないと思うけどなぁ……告白とかしないのか?」
「……だから、そういう仲じゃないっての……」
(……そんなことして、断られて距離が出来たら……生きていけねぇよ)
「お待たせぇ……何の話してたのぉ?」
「き、霧島っ!?」
不意にドアが開いて霧島が室内に入ってきた。
流石に洋服こそワンピース風の普段着に着替えていたが髪の毛には寝ぐせが残っている。
(また横着して……まあ下着は付けてるみたいだからいいけど……)
俺と二人きりの時はたまに素肌の上に直接洋服を着てやってくる程度には手抜きをするのが霧島だ。
そういう時の俺は本当に欲情を堪えるのが大変なのだが、霧島のほうは全く気にした様子がなくいつも通り接してくる。
その辺りのことを考えると、やはり俺は異性として意識されていないように思えて告白などする勇気が無くなってしまう。
(尤もそんなことがなくても、まだ告白なんかできないけど……中学生でお付き合いはまだ早いよな?)
「ねぇねぇ、何の話してたのぉ?」
「な、何でもないって……なあ亮?」
話をごまかそうと亮に話を振ると、亮もまた慌てた様子で何度も首を縦に振ってみせた。
「あ、ああ……な、何でも無いですよ……霧島さん……ひ、久しぶりですね」
「えぇ~、毎日学校で会ってるよぉ……何言ってるの嵐野君ったらぁ~」
「そ、そうだよね……あ、あはは……」
「そうだよぉ……ふふ、聞いた史郎? 相変わらず嵐野君は変わってるねぇ」
ニコリと可愛らしく笑った霧島。
(ああ……やっぱり、可愛いなぁ……)
俺は笑顔を浮かべる霧島が好きでたまらない。
これを見ていると性欲だのなんだのが馬鹿らしくなって、本当に穏やかな気持ちになれる。
(この笑顔をずっと見ていたいなぁ……出来れば隣で……だからこそ、この関係を崩したくないよ……)
何だかんだで俺は霧島の笑顔を誰よりも傍で見れる立場にいる。
ならば下手に告白などして、この距離感を崩す必要はないと思えるのだった。
(そうすれば……そうやって俺が大事に守って行けば……俺たちの関係はずっと続いていく……そんな気がするよ……)
だからこそ俺も霧島に笑顔を返しながら、今日もまたいつも通り三人でゲームに興じるのだった。
「これで……フィニッシュっ!!」
「がぁああっ!? 旗揚げで俺が負けるとはぁああっ!?」
「また負けちゃったぁ……史郎も嵐野君も強いねぇ」
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