★史郎と亜紀⑤
今回から書き方を変えていきます。
見づらかったりする場合は指摘してくだされば他の書き方を考えてみます。
「史郎ぉ……お腹空いたぁ……」
「霧島さぁ……本当に勉強しない気なの?」
「どぉせ今からしたって大して変わらないよぉ……それよりご飯食べたぁい……」
「……はぁ、わかったよ……」
勉強を放り出してゲームを始めてからかなりの時間が経ってしまった。
確かにそろそろ夕食の時間ではあるし、こんなことを言っておいて俺自身も一度遊んでしまった以上もう勉強する気は余り起きない。
渋々立ち上がり台所へと移動しようとすると、亜紀も身体を伸ばしながら後をついてくる。
「ふぁぁ……疲れたぁ……史郎はよくあんなに集中してできるねぇ……」
「まあ好きだからなぁゲーム……ひょっとして亜紀は退屈だったか?」
「ううん、楽しかったよぉ……少なくとも勉強よりは全然マシぃ~」
「……」
笑ってこそいるが、霧島の言い方にどうも引っかかりを覚える。
(俺や亮なんか何時間やっても疲れないんだが……好きな事ってのはそういうもんじゃないのかなぁ……)
尤も霧島が物事を投げ出さずに長時間やることなんかそうそうない。
それこそ俺と一緒にゲームとかをして遊んでいるときぐらいなものだ。
「史郎ぉ……それで何食べるのぉ?」
「あ、ああ……というか霧島は今日こっちで晩飯食ってくのか?」
「そーしたいなぁ……家に帰るとお母さんうるさいんだもん……小まめに掃除しろとか勉強しろとか……私のやることに一々駄目だししてさぁ……」
「い、いやそれは霧島のことを思って言ってくれてるんじゃ……」
「……違うよ……あれはただ……」
不意に神妙な声を出して、霧島は俯いてしまった。
そんな様子を見るのは初めてだったから俺は慌てて霧島に近づいた。
「ただ……何なんだ?」
「…………ただ余計なこと言ってるだけだよぉ、だってほら……今までだって何だかんだで上手く行ってたじゃん」
しかし顔を上げた霧島の表情はいつものあきれ顔をしてて……やっぱり色々と甘い考えで不満を抱いているだけのように見えた。
「い、いやでも勉強しないと高校受験が……そ、それに掃除とかもしたほうが……」
「だからぁ、史郎が居てくれれば大丈夫でしょぉ……でしょ?」
「うぅ……ま、まあ頑張るけどさぁ……」
「えへへ、ありがとう……それで晩御飯はどうするのぉ?」
甘えたような声を出して、笑いながら俺の袖を引っ張ってくる霧島。
その笑顔を見ていたら……
→①やっぱりもう俺は何も言えなくなってしまう。
②何か違和感を感じて、もう少しだけ聞いてみようと思った。
(何だか上手く話をそらされたような……気のせいかな?)
しかしこれ以上話を蒸し返したところで、霧島が不機嫌になるだけだろう。
何より、こんな可愛く縋ってくる霧島にさからえるはずがない。
「そ、そうだなぁ……何か作るか食べに行くか……霧島はどっちがいい?」
「うーん……食べに行きたいけど着替えるのも面倒なんだぁ……おいしーもの作ってよ史郎」
「美味しいものねぇ……ひき肉があるしハンバーグでも作ろうか?」
「やったぁっ!! ああ、サラダはいらないからねっ!!」
霧島はウキウキしながら居間へ向かい、ソファーへと横になるとテレビをつけてドラマか何かを見始めてしまう。
どうやら手伝ってくれる気はないようだ。
(まあいつものことだもんなぁ……はぁ……)
仕方なく俺は慣れない手つきで料理に取り掛かるのだった。
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「い、いやでも勉強しないと高校受験が……そ、それに掃除とかもしたほうが……」
「だからぁ、史郎が居てくれれば大丈夫でしょぉ……でしょ?」
「うぅ……ま、まあ頑張るけどさぁ……」
「えへへ、ありがとう……それで晩御飯はどうするのぉ?」
甘えたような声を出して、笑いながら俺の袖を引っ張ってくる霧島。
その笑顔を見ていたら……
①やっぱりもう俺は何も言えなくなってしまう。
→②何か違和感を感じて、もう少しだけ聞いてみようと思った。
(……何か、違和感が……いつもの霧島の笑顔はもっと……素敵なはずだ……)
ずっと霧島の笑顔に惚れて見続けてきた俺が、だけど今は見ていて胸が詰まる思いがする。
まるで何かを隠しているように思えて……気になってしまう。
(いや俺は霧島のことで知らないことなんかないはずなんだが……お互いに隠し事なんかするような仲じゃ……い、いや今の俺は隠してることがあるじゃないか……っ)
自分が霧島に対して抱いている感情……好意自体は伝わっていると思う。
だけど思春期を迎えて新たに芽生えた性欲に関してはずっと隠してきている。
霧島が同じ思いを抱いているかは分からないが、隠し事があったっておかしくはない。
(そうだよなぁ……俺たちだっていつまでも子供じゃないもんなぁ……霧島だって隠したいことの一つや二つあって当然だよな……でも、気になる……)
好きな人のことは何でも知りたいと思う、それは当たり前のことだ。
今まではずっと何でも知ってると思い込んでいたからそこまでではなかったけれど、こうして意識してしまうとどうしても問いただしたくてたまらなくなってしまう。
「史郎……どうしたの?」
「……あのさぁ霧島……その……」
「えっ?」
「あの……えっとさぁ……」
何故か喉が妙に乾いて、上手く口が動かせなかった。
心臓がバクバクと鼓動を刻み始める……物凄く落ち着かなくなる。
(ど、どうしたんだ俺……何でこんな……不安を感じてるんだ……)
いつだって霧島と居る時は気持ちが穏やかになって、本当に幸せを感じていた。
しかしそれは……俺たちがお互いにそう言う距離で居ようとしていたからではないのだろうか。
(俺は何だかんだで霧島の言う通りに従ってきたし……霧島だって俺のやることに余計な口出しをしないで付いて来てた……)
お互いにああしてとかこうしようとかお願いはし合ってきた……だけどどうしてそのお願いをしているのかまで深く突っ込んだことはなかった気がする。
(だって何でも知ってるつもりだったから……聞くまでもないって思ってて……けど本当に俺は霧島のことを何でも知ってるのか?)
部屋を汚すのもお風呂に入りたがらないのも、面倒くさがりだからだと思っていたけど何か理由があるのかもしれない。
おばさんや俺の忠告に耳を貸さないのも、怠け者だからだと思っていたけど何か理由があるのかもしれない。
俺の遊びに付き合ってばかりなのも、自分の趣味をまるで曝け出さないのも……訳があるのかもしれない。
「ねぇ史郎、どうしたのったらぁ?」
「……霧島、何か俺に……」
「えっ!? な、何っ!?」
心の不安が表に出ていたのか、俺を見て霧島は……とても不安そうな顔になってしまう。
(ば、馬鹿……霧島にこんな顔をさせてどうするんだっ!?)
「な、何でもないっ!! ちょ、ちょっと疲れただけだから……や、やっぱりゲームやり過ぎたかなぁ……あはは……」
「…………そ、そっかぁ……そうだよね……や、やり過ぎただけだよね……」
慌ててごまかして笑顔を作って見せると、霧島もまた笑顔を作って……自分に言い聞かせるように何度もつぶやくのだった。
(つ、作り笑顔だってバレてるかな……俺だって気づいたんだから気づかないわけないよな……)
だけどやはり俺が突っ込めなかったように、霧島もこれ以上聞き返すことはできないようだった。
「ご、ごめんな心配かけて……それでご飯だけど、何か食べに行ってもいいし作っても……霧島の好きなほうでいいよ」
「そ、そう……え、えっとじゃあ……食べに行く……のはちょっとお小遣い足りないから、何か作って食べるほうがいいなぁ」
「わかった……ひき肉があるからハンバーグでも作るよ、霧島はあっちで休んでていいから」
「ううん……私も手伝うよ……」
「そ、そっか……ありがとう……」
霧島と二人並んで台所に立って料理を始める。
いつもなら霧島と一緒に居れば自然と会話が始まるし、黙っていても居心地の良さを感じるというのに……今はどこか落ち着かない緊張感のある沈黙が続いていた。
(何でこんな空気になっちゃったんだか……少し時間を巻き戻してやり直したいよ……)
余計なことを考えてお互いの距離感を狂わせようとした自分の愚かさを嘆きながら、俺はどうにかしてこの空気を改善する方法を考え続けるのだった。
「……あつっ!?」
「し、史郎っ!? ゆ、指切っちゃったのっ!?」
「ちょ、ちょっとミスった……絆創膏……っ!?」
「んっ……ちゅ……どう、止まったぁ?」
「霧島…………ありがとな」
「どういたしまして……えへへ、もう史郎ったらおドジなんだからぁ……」
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