98:PvP-光-1
「流石に形にはならなかったか」
「仕方がないと思います。私たちもだいぶ基礎が出来てきましたから、その分だけ成長も鈍るでしょうし」
「まあ、そうだな」
超大型ゴーレムとのレイドバトル終了から十日経った。
この間、俺はいつもの訓練と知識の収集に加えて、魔法を選択的に通す訓練をしていたのだが……まあ、上手くはいかなかった。
ノノさんを敵として認識できないと言う話ではなく、どうにも切り替えがうまくいかない感じだったのだ。
まあ、これまでよりも応用的な使い方になるので、ノノさんの言う通り、そう簡単に行くようなものでもないのだろう。
ちなみにノノさんの十日間の成果については、波の魔法の安定化や周囲の所有者が居ない魔力の取り込み能力の向上となる。
うん、俺と違って順調に成長している気がする。
「ま、無いなら無いで、そういう立ち周りで挑むだけか。行こうか、ノノさん」
「はい、挑みましょう。ハリさん」
では、休養権を切って、決闘が組まれるようにしよう。
ただ、今回は多人数戦闘やレイドバトルに挑まないように権利は調整。
予定通り、PvPが組まれる可能性が高くなるようにしておく。
≪決闘が設定されました≫
≪決闘の開始は3時間後になります≫
「3時間後か」
「ちょっとありますね」
もはや驚く事もない早さで、いつも通りに決闘が組まれた。
では、相手を確認してみよう。
『PvP:ハリ・イグサ & ノノ・フローリィ VS セフィルーラ・エバウィン 』
「セフィルーラ……たぶん、あの人だよな」
「同姓同名の方が居ないのなら、セフィ様だと思います」
俺たちの望み通りにPvPが設定された。
決闘の相手はセフィルーラさん。
ほぼ間違いなく、先日のレイドバトルで一緒に戦った、あのセフィルーラさんだろう。
「厳しいなぁ……」
「厳しいですねぇ……」
うん、厳しい。
決闘人数制限解除権を入れていなかったからこそ、俺たち二人を一人で相手取れるような闘士が選ばれたのだろう。
だから、俺たちより格上であるセフィルーラさんが選ばれるのは分かる。
分かるが、これはまた厳しい相手が選ばれてしまった。
「空を飛ばれたら、こっちからほぼ手出しできないよな」
「そうですね。ハリさんの攻撃は届きませんし、私の魔法もセフィルーラさんが飛ぶ速さよりも遅いですから」
まず、機動力がまるで違う。
超大型ゴーレムとの決闘で見たセフィルーラさんは、空を自由に飛び回って、超大型ゴーレムの攻撃を回避していた。
アレに攻撃を当てると言うのは、かなり厳しいものがある。
「決闘の最後でやっていた、巨大な光の剣による攻撃。アレも撃たれたらお終いですよね」
「お終いだろうなぁ。超大型ゴーレムの時は特効薬の効果もあっただろうけど、それ抜きにしてもあの威力と範囲じゃ、防げないし避けれない」
次に戦闘能力がまるで違う。
あれほどの攻撃ならば相応の溜めやリスクの類は背負っているのかもしれないが、それでも撃たれたら、その時点で終了となるような攻撃をセフィルーラさんが持っている事には違いない。
「経験の差はあって当然だからいいとして……ノノさん、巨大な光の剣以外の魔法はどう思う?」
「そうですね……セフィ様はたぶん光を利用した魔法が主体だと思います。目つぶしに用いるだけならハリさんは防げると思いますが、攻撃に用いられたらどうなるか分からないです。あくまでも私の世界での話になりますけど、光の魔法と言うのは威力と引き換えにとにかく速く、撃たれた時点で命中が確定していると言うのも珍しくなかったですから」
「まあ、本当に光速なら避けるのは不可能だよな」
まあ、それでも諦めるわけにはいかない。
決闘が組まれたと言う事は、勝てる可能性が存在しないわけではないのだから、何処かに勝ちの目があるはずなのだ。
なので、セフィルーラさんの能力の一つである光の魔法について考察したわけだが……厄介な魔法である。
撃たれた時点で命中するような速さとなると、庇いたくても庇えないし、その速さでノノさんを狙われたらどうしようもない。
「んー……勝ち筋はノノさんの魔法を当てる事。だよな?」
「そうですね。セフィ様が最初、空を飛ばずにハリさんと切り結んでくれるなら他の勝ち方もあると思いますけど、基本的な流れだと、他に勝つ方法は無いと思います」
俺たちはセフィルーラさんの闘技場ログを見る事にしてみる。
とは言え、流石に片っ端から見れるような時間もポイントもないので、何時の決闘なのかや、誰と戦ったのかと言った、ログの中身を推し量るための情報をまず見てみるのだが……うーん、PvPではなくPvE中心、一対一がメイン、五日に一度くらいの頻度で決闘に参加、レイドバトルには一月に一度くらいの頻度で参加、こんなところだろうか。
勝率も悪くないし、やはり普通に強そうだ。
「ポイントはあるし、一本くらい見てみるか」
「そうですね。そうしましょうか」
うん、このままでは勝ち目が見えない。
と言う訳で、俺とノノさんは、それぞれ別のログをポイントを支払って見てみる。
そして見たものをお互いに話し、俺たちはどのような戦術を取るかを決めた。
さて、どのような決闘になるだろうか……。