96:レイドバトル・ゴーレム-9
「ゴオオオォォォォッ!?」
「「「ミニゴォ!?」」」
超大型ゴーレムが絶叫し、両手で目を抑え、仰け反る。
俺たちは知らない事だったが、どうやら超大型ゴーレムにはきちんと視覚が存在していたらしい。
いや、小型ゴーレムたちも悶絶している事も考えると、セフィルーラさんが放ったのはただの閃光ではなく、目つぶしと言う概念を含んだ光だったのかもしれない。
「ウオラァ!」
「縄かけたぞ!」
「引っ張れえええぇぇ!!」
「!?」
そして、超大型ゴーレムの動きが止まったのを機に、闘士たちの動きが変わった。
攻撃が一時停止し、飛行能力を持つ闘士が超大型ゴーレムの体の各部に縄を絡ませ、地上に居る闘士たちがその縄を全力で引っ張ったのだ。
それによって仰け反っていた超大型ゴーレムはバランスを崩し始める。
だが、超大型ゴーレムもバランスを完全に崩し、倒れてしまえば、その後に待ち受けるものが何なのかは分かっているのだろう。
必死に抗っている。
「さて、ウチの出番やな」
「アレは……サミさん!?」
「居たんですね……」
そんな中で見覚えのある影が超大型ゴーレムの膝裏に向かって飛び出す。
自作の衣装を身に着け、大量の魔力をその身と刀に滾らせているのは、俺たちの知り合いでもあるサミさんだった。
超大型ゴーレムの膝裏近くに達したサミさんは空中で居合抜きの体勢を取っている。
そして……
「『居合・太刀鋏』」
「「「!?」」」
一閃、いや、二閃?
あまりにも早く、鋭く、俺の目では距離がある事もあって、サミさんが何をしたのかは理解できなかった。
だが、確かな事としてサミさんの攻撃によって超大型ゴーレムの太い脚が両断され、完全に破壊され、脚と言う支えを失った超大型ゴーレムは重力に引かれて落ちて行く。
『全員に通達……全力攻撃開始! 後の事など考えるなぁ!!』
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!」」」
「ゴレムウゥゥ!?」
超大型ゴーレムは仰向けに倒れ、もはや立ち上がる事は叶わず、縄による妨害もあって碌な抵抗は出来ないだろう。
ならば小型ゴーレムをと思っても、俺とノノさんの魔法によってマトモに自爆できないし、出てくる場所も限られているのだから、対応はどうにでもなってしまう。
つまり、超大型ゴーレムに秘策がない限りは詰みだ。
それが分かっているからだろう、トラペスーピさんは総攻撃の指令を出し、それを受けて生き残っている闘士全員がそれぞれの最大火力を超大型ゴーレムの身体へと叩き込んでいく。
「す、凄いですね……ハリさん……」
「ほ、本当だな……」
炎が舞う、爆音が響く、雷鳴が轟き、氷柱が立ち、暴風が吹き荒れ、閃光が迸り、闇が広がる。
矢の雨が降り、斬撃が乱れ飛び、拳型の魔力弾が幾つも放たれ、支援効果を持つ魔法も乱れ飛び、超大型ゴーレムを中心として魔力の渦が恐ろしい濃度で渦巻いている。
気が付けば上空に僅かにあった雲は吹き飛んで、周囲の草と岩も吹き飛んで、人の声など聞こえやしない。
攻撃に特効効果を持たせるらしい薬剤を利用しているのもあるのだろうが、凄まじい火力にも程がある。
「いや、うん、なんで俺たちのようなレイドバトル初心者が囮なんて大役を任せられる立場になったのかなと思ったが……あの中に飛び込んで攻撃するとか無理だわ。全力で防御しても余波すら防げないと思う」
「そうですね。私もあの中に攻撃を撃ち込める自信はないです。撃ち込んでも、相手に到達する前に他の方の攻撃で消えてしまいそうです……」
「実力が上の人たちはとんでもないなぁ……」
「本当ですね……」
当然、そんな規模の攻撃をすれば味方にも被害が出る。
だが、全力攻撃の指示が出た時点で味方への被害が出るのはお互いに納得済みと言う事なのだろう。
十人規模で味方を吹き飛ばしている攻撃も見えるが、味方に被害が出る以上に超大型ゴーレムの身体が削られていっている。
「はははははっ! さあ、トドメや! 『居合・太刀鋏』!」
「『光よ! 剣となりて我が敵を討て!』」
「ゴオオオオオオォォォォッ……」
「「うわぁ……」」
サミさんの攻撃が超大型ゴーレムの頭がありそうな辺りに放たれて、一瞬で数十メートルの高さにまで粉塵が巻き上がる。
セフィルーラさんの作り出した巨大な光の剣が超大型ゴーレムの胸部に突き刺さって、サミさんの巻き上げた粉塵他、その場にあった他の闘士たちの攻撃の余波全てを吹き飛ばす。
俺もノノさんも、そんな光景を遠くから茫然と眺めている事しか出来なかった。
「……。そう言えばハリさん、こんなに凄い光なのに、どうして私たちはちゃんとセフィ様たちの事が見えているんでしょうか?」
「ん? あっ、あー……無意識に俺の魔力をサングラスみたいにしてたらしいな」
「サングラス、ですか?」
「まあ、詳しい事は決闘が終わった後で。とりあえず、もう少し離れていよう。何かあっても困るし」
とりあえず俺はバイクを操って、その場を後にした。
小型ゴーレムが自爆能力を持つ以上、超大型ゴーレムにも同様の能力がある可能性は一応あったからだ。
ただ……自爆する能力があっても、その機会はないだろう。
サミさんとセフィルーラさんの攻撃が終わった後も闘士たちの攻撃は容赦なく続き、超大型ゴーレムの身体はもはや原形を留めているかも怪しい状態になっていた。
≪レイドバトルに勝利しました≫
「あ、勝ちましたね」
「勝ったな」
やがて俺たちの勝利を告げるアナウンスが流れ、俺たちは光と共に転送された。