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95:レイドバトル・ゴーレム-8

『全員に通達。赤の3番より囮が出る。敵が囮に反応したタイミングで、各自攻撃を加えて欲しい』

「さてノノさん。心の準備は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

 生前聞き慣れたエンジン音が周囲に響く。

 俺は数年ぶりにハンドルを握り、俺の腰にはノノさんの手が回っている。

 うん、超大型ゴーレムに対して俺たちが囮役になる作戦は了承された。

 レイドバトルに慣れていない上に実力も十分とは言い難い俺たちの提案が了承されたのは、俺とノノさんの魔法と超大型ゴーレムとの相性が良くて、実績もある事。

 それと、これまでに既に二千人を超える闘士が倒れていると言う事もあり、司令部としては早期に決着を付けたいと言う事情が重なったが故にのようだ。

 で、囮作戦をやるにあたって逃げるのにちょうどいい脚が無いかと聞いたら……。


「それにしてもハリさんの世界は凄いですね。こんな乗り物が沢山あったんですか」

「俺が知るのよりだいぶハイテクではあるが……まあ、そうなるか。ただ、俺自身が数年ぶりの運転の上に片手運転になるから、色々と不安ではあるんだけどな……」

「ハリさんならきっと大丈夫です」

「お、おう。うん、頑張る」

 ノノさんのポイントを使ってオフロードバイクのような物を作る事になった。

 詳しいスペックは聞いても分からないので聞いていないのだが、とりあえず理解できる範囲だと……搭乗者の魔力を吸う事で駆動、十分な魔力があればほぼ横倒しの状態かつ静止に近い状態からでも復帰可能、30センチ程度の障害物なら無衝撃で乗り越え可能、何かに衝突しても魔力による障壁で搭乗者の保護が出来る、と言う具合に、魔力込みで考えても俺の生前の世界よりも遥かにハイテクなバイクとなっている。

 ぶっちゃけよく100ポイントで作れたとも思うが、その辺は色々と節約するためのアレコレがあったらしい。

 とりあえず脚は無事に手に入ったので、後は俺の運転技術次第になるだろう。


「ハリ・イグサ。出ます!」

「ノノ・フローリィ、行きます!」

「健闘を祈る!」

 では、出陣だ。

 俺たちは通路から飛び出した。


「ゴオオォォ……」

『全員に通達。囮が出た。全員準備は良いな。構えろ』

 通路から飛び出した俺たちが見たのは、黒の2番とは別の砦を踏み潰している超大型ゴーレムと、その周囲で闘士たちを襲っている小型ゴーレムたちの姿だった。

 超大型ゴーレムたちは俺たちにはまだ気づいていない。

 だから、俺はバイクの速度を上げつつゴーレムたちが居る方へと向かっていく。


「馬みたいな速さですね」

「まあ、そう言う機械だしな。さて、そろそろか」

 風を切り、草をかき分け、振動を殺し、エンジン音を響かせながら、俺たちは移動していく。

 そのように目立つ移動方法をしているのだから、当然ながらゴーレムたちは直ぐに俺たちの存在に気付き始める。

 では、作戦開始だ。

 俺は左手だけでハンドルを握り、右手で棍を握って、その先端を地面にこすりつけ始める。

 ノノさんも左手で俺の腰を掴み、右手に持った杖の先端に魔法を準備していく。


「「「ミニゴォ!」」」

「ゴ……」

 そして、小型ゴーレムたちが俺の方へと向かい始め、超大型ゴーレムが俺たちの方を向き始めたタイミングで……


「起動せよ。『ハリノムシロ』!」

「途上にあるもの飲み込み巻き込みながら広がれ。『魔波(マナウェイブ)』!」

 俺はバイクをスピンさせる。

 そのスピンに合わせるように、周囲の地面がガラス片に覆われていく。

 そのガラス片がノノさんの杖の先端から放たれた魔力の波によって押し流され、全方位へとガラス片とその性質を含んだ魔力の大波が流れていく。


「「「!?」」」

 俺の魔力を含んだ波を受けたところで、超大型ゴーレムは勿論の事、小型ゴーレムの動きが止まるような事は無い。

 広がった分だけ濃度は薄まるし、威力そのものも足りないからだ。

 だが、それでも俺への敵意は掻き立てられる。

 奥歯に小骨が引っ掛かったような、関節の動きが少しだけ阻害されるような、視界の端でコバエが飛び回るような煩わしさは与えられる。

 それで連中を惹きつけるには十分だった。


「さあ、此処からだぞ! ノノさん! 『ガラスノクモ』!」

「はいっ! 『魔波(マナウェイブ)』!」

「「「ミニゴォ!!」」」

 バイクの速度を一気に上げて、小型ゴーレムたちから逃げ始める。

 単純に追いかけるだけでは追いつかないように、数を生かした包囲は先んじて抜け出すか、小型ゴーレムを足場に逃げ出す。

 加えて、逃げつつさらに大量の魔力を散布していく。

 それはゴーレムたちの俺たちに対する敵意を湧き立たせる。

 そして何度もそれをやっていき、周囲の空間に俺の魔力を滞留させていく。


「ゴオオォォ! ゴ!?」

「は、やっぱりか」

「「「ミニゴ!?」」」

 するとどうなるか。

 バイクの速度に追いつけない事に業を煮やした超大型ゴーレムは、小型ゴーレムを爆発させようとした。

 だが、小型ゴーレムたちは爆発できない。

 出来ても、不完全な爆発を起こし、攻撃にならない。

 不発に終わった理由は単純。

 俺の魔力によって、爆発の命令も、爆発の機構も阻害されているからだ。


「ゴオオオレエエエエェェ!!」

 勿論その事実に超大型ゴーレムも直ぐに気づいた。

 爆発が不発に終わったのを見て、既に周囲に潜んでいた闘士たちはゴーレムたちへの攻撃を始めているのだが、それらの全てを無視して俺たちの方に向かってきている。

 こちらの機動力がどれだけあろうとも関係ないと言わんばかりに、片膝をつき、片腕を上げ、地面スレスレを薙ぎ払うと言う容赦ない攻撃を行おうとしていた。

 しかし、それが行われる事はなかった。


「『光あれ』」

「!?」

 いつの間にか超大型ゴーレムの目の前には、背中から純白の翼を生やした女性……セフィルーラさんが居た。

 セフィルーラさんの手から、周囲一帯を昼間に変えるような強烈な閃光が放たれた。

 その光は超大型ゴーレムの目を容赦なく直撃し、悶絶させた。

 だから、攻撃は行えなかったのだ。

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