94:レイドバトル・ゴーレム-7
「ノノさん、まずはこれを」
「これは……?」
「魔力と体力、両方を回復させつつ、栄養の補給とかも済ませられるように設定したポーション。ただし、味の調整は出来なかったから、そっち方面の保証はない」
「……。頑張って飲みます」
物質製造機が置かれている拠点に入った俺は、ノノさんを安全な場所に置くと、物質製造機で俺の分として割り当てられている100ポイントを使用、ポーションを四つ製造した。
で、その内の一本をノノさんに渡し、俺も一本飲んだ。
「味の保証は出来なかったが、まあ、飲めないほどではない、か」
「そうですね。ドロッとしていて、苦くて、後味も良くないですけど、普通のお薬と言う感じです」
製造したポーションの味は……まあ、微妙ではある。
微妙だが、戦闘中に使用する事も可能な程度の微妙さなので、問題はないが。
効果については文句なし。
これまでに消耗した体力と魔力は全回復どころか、普段よりも漲っているぐらいの感じがあるし、細かい傷は完全に治った。
満腹度と言うか栄養状態についても、問題ないと断言できる感じである。
うーん、流石は一本当たり25ポイントのポーション、効果の方もお高いようだ。
「「……」」
さて、ポーションについてはこれぐらいにしておくとしてだ。
周囲の状況は……まあ、割と微妙な空気になっている。
この拠点には戦場の状態を確認するための地図があるのだが、俺たちが先程まで砦を示す数字、黒の2番は地図上から消え去っており、その上には超大型ゴーレムがそこに居る事を示すように人型の絵が描かれている。
また、地図には描かれていないが、小型ゴーレムは戦場全域に散らばっている事だろう。
よって、今この場に居る面々以外で黒の2番の砦に居た闘士たちは全滅したと考えていいだろう。
「ハリさん、何処から仕掛けましょうか?」
「何処からは地図を見ればいいとして、どう攻めるかだなぁ……」
どうしましょうか、ではなくて、何処から、か。
どうやらノノさんのやる気は十分なようだ。
であるならば、俺も気合を入れて超大型ゴーレムに挑むべきだろう。
しかしだ。
「ノノさん。ノノさんが全力で魔法を撃ち込んだとして、超大型ゴーレムに有効打は与えられそうか?」
「それは……厳しいと思います。でも、やって……」
俺は続こうとしたノノさんの言葉を、ノノさんの目の前に手のひらを出す事で止める。
この流れは良くない流れだからだ。
「ストップ。出来ない事はやろうとしない方がいい。レイドバトルと言うものの仕様上、俺たちが死ぬだけじゃすまないかもしれないからな」
「……。はい、そうですね。悔しいですけど、今の私だと、ハリさんの魔力を借りても、あのゴーレムに有効打を与えるのは難しいと思います」
「うん、素直でよろしい」
自分にやれる事、やれない事はしっかりと認めた方がいい。
個人戦でもそうだが、集団戦ならばなおさらだ。
そして、俺たちには超大型ゴーレムを倒すことは出来ない。
だから、これは他の闘士に任せてしまう。
では、代わりに何をやるかだが……。
「だったら、俺たちの役目は小型ゴーレムの目を惹きつける事だな」
「目を惹きつける、ですか。あ、もしかして……」
「ああ、俺の魔力をノノさんの魔法で広域に広げる。それだけで小型ゴーレムは自爆できなくなるし、超大型ゴーレムも俺たちの方に脇目も振らずに寄ってくる。これを利用しない手はないだろうな」
「そうですね。それなら私も役立てそうです」
嫌がらせによって相手の目を惹きつけ、その状態で逃げ回り、他の闘士たちが攻撃するための時間を作り出す。
ある意味レイドバトルでの常套手段と言えるかもしれない、これが一番いいだろう。
「一応言っておくが、かなりの危険を伴うが、大丈夫か?」
「大丈夫です。それに、此処で逃げたら、あそこで砦に残ってくれた人たちに悪いですから」
「違いない」
俺とノノさんは笑みを浮かべ合うと、立ち上がる。
地図を見る限り状況は……大きく動いてはいないか。
少しずつ別の砦に向かって超大型ゴーレムが動いている感じはあるが。
「さて、そうなると上の方に話を通してから行動したいわけだが……」
「トラペスーピ様たちは赤の0番に居ると言っていましたよね。だったら、此処をこうして、移動すれば……」
「そうだな。それで良さそうだ」
さて、囮作戦をやる以上は、勝手に動くわけにはいかない。
実績もあるのだから、話をきちんと通してから動き、チャンスを生かせるようにしてもらわなければ。
と言う訳で、俺はノノさんを背負うと、赤の0番に向けて移動を開始する。
『全員に通達。鹵獲された敵小型ゴーレムの解体から、敵本体である超大型ゴーレムに有効な可能性の高い付与道具の作成に成功した。物質製造機で『ゴーレクリナ塗布薬・TRP023』と言うものを生成して利用してもらえれば、与えられるダメージの大幅向上が見込めるはずである。100ポイントで10瓶生成可能なので、余裕があるものは利用してもらいたい』
「おっと、これは追加で嬉しい話だな」
「そうですね。だったら後は、ハリさんがどれぐらい逃げられるかだと思います」
「逃げ足か……」
俺は黒の通路を出て、赤の通路へと向かう中で、超大型ゴーレムの様子を窺う。
超大型ゴーレムは基本的には今まで通りに振舞っている感じだったが、何かを探しているようにも見えた。
この分だと、俺たちが視界の中に入ったら躊躇いなく向かってきそうだ。
そんな事を考えつつも俺たちは赤の0番に辿り着き、そこで準備を整えた。